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三日月の夜に参拝したのは誰なのか。

作者: すみ いちろ


 課題を終えた23時。ふと、二階の窓ガラスから見降ろした。薄暗い夜道を照らす外灯に人影。目を疑った。

 かなえ神社。旧参道に面した僕の家。三日月の晩に詣出ると恋愛成就する言い伝え。たまに人を見かけても、まさかと思った。

 こんな寒空に、どんどん夜の神社に吸い込まれる人影。気がつくと参道の登り坂の先を僕は見つめていた。


 ──女の人だった。それも、何処か見覚えのある。


 僕は、どうにも気になり学校の体操着のまま外に出た。恋愛成就を口実に参拝するフリをして。

 長い黒髪の揺れる後ろ姿。身体の輪郭。僕と同じ体操着。少し安心する。けど、バレやしないかと後をつけてる後ろめたさにドキドキした。その後ろ姿から目が離せなかった。







 夜の神社に設置されたセンサーライト。点灯した境内の明かりに、目を閉じて祈るその素顔。高鳴る鼓動。倒れそうだった。まさか……。

 息を呑む。呼吸が止まる。声にならない。決して近づいてはイケない。けど、動けない。

 言い伝えでは願った直後、キス顔をする決まり。見てはイケなかった。けど、見てしまった。


(──カーン……)


 夜の神社に響いた音。誰が捨てたのか、動揺した僕の足元の空き缶が神社の石段に落ちた。

 反応したセンサーライトが僕の影を石段に映して。目が合ってしまった。

 しばらく、凍りついた。何も言えないまま。三日月と雲を見るしかなかった。


「上坂君?」

「宮月さん」


 聴き取れなかった言葉。点灯した境内から宮月さんが僕に近づく。初めて同じクラスになった。いつも見てるだけだった。


「見たの?」

「え?」

「キス顔」


 初めての会話。夜の神社の冷たい空気。僕ら以外誰も居ない静けさ。

 三日月のずっと手前に、宮月さんの瞳が迫る。


「上坂君も見せてよ」


 三日月みたいな宮月さんの唇が笑う。誰も返事しない夜空に宮月さんの長い髪が揺れた。


「そ、それは」

「出来ないの?」


 僕を見つめた万華鏡みたいな宮月さんの瞳。僕は観念して目を閉じた。


「好きな子。誰?」

「え、いや、あの……」


 蜘蛛の巣に掛かった蝶のように、僕の頭の中がシビれる。名前を告げて楽になりたい。


「秘密。だよね? 神様が見てる」


 目を開けた僕に、満月みたいな宮月さんの瞳が見ていた。


「私の事。秘密にして」


 センサーライトが石段と宮月さんの後ろ姿を照らしてる。

 その背中に揺れる髪や身体の輪郭が、僕を置き去りにして。

 宮月さんの好きな人の名前は聞けないまま。僕は明日からもずっと、宮月さんから目が離せなかった。


 



 








 

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― 新着の感想 ―
[一言] 宮月さんのミステリアスな魅力が伝わってきました。 彼女の想い人は一体誰なのか。 上坂くんは気になってしまいますよね。 なかなか見ることができない秘密の顔を見てしまったら、否が応でも意識せざる…
[良い点] 雰囲気がとてもいい作品ですね(^^) キス顔は見られたくないですね~恥ずかしい(>_<) 素敵な作品をありがとうございました☆彡
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