集合
8時45分 集会所
「まあ、この時間から来てるのは私達だけだね」
「外国人からしてみれば、15分も前から来るなんて、って感じなんだろうね」
「ここまで時間に厳しいのは日本人の特徴だからね…」
予定時間よりも早く集会所に来た私達だけど、案の定そこには誰もいなかった。
どうせ、これから最低でも15分は待たないと誰も来ないだろうし、人目を気にせずイチャイチャするとしますか?
「彩、キスしてよ」
「ここでするの?……まあ、良いけど」
彩はこんな所でするなんてと言いたげだけど、その実かなり喜んでいたりする。
私とイチャイチャ出来るのが嬉しいんだろうね。
そうして、私達の唇が触れ合いそうになった時―――
「……邪魔したかな〜?」
タイミング悪く、アンナが転移で集会所にやって来た。
アンナはあと少しでキス出来る距離まで近付いていた私達を見て、冷や汗を流しながらそう聞いてくる。
冷や汗をかいてるのは、私達のイチャイチャを邪魔したらどうなるか、よく分かっているからに違いない。
実際、どうやって苦しめてやろうかって色々と考えてるし。
「アンナ?そこに座ってくれない?」
「は、はい!」
私よりも先に、彩がアンナを正座させる。
そして、私の方を向いてニコニコしながら何かを訴えかけてきた。
……自由にしていいよ?ってことかな?
「いや、私は特になにかする気はないよ?」
「え?」
「はあ!?」
私がアンナをどうこうする気はないと伝えると、彩はキョトンとした表情をし、アンナは信じられないようなものを見たという目で私を見つめてきた。
…やっぱり一発ぶん殴っておこうかな?
もちろん、聖属性込みで本気パンチだ。
「新参者の私が、割りと古参のアンナをイジメてたら印象悪いでしょ?」
本当は別に親しくもない古参の昇華者に興味なんて無いけど…
まあ、少しは先輩達に配慮しておかないと。
そんな事は私なりの配慮をしようと、アンナをイジメるような事はしないでおこうと思ったけれど…
「今更じゃない?」
「天使って時点で今更だと思う」
「酷っ!?」
二人して今更だと言ってきた。
せっかく先輩に配慮しようとしてたのに…
いや、まあ確かにハワイでアレだけ暴れれば、そりゃあ印象悪いよね。
じゃあ、こんな配慮してもしなくても一緒と…
私が配慮した所で無駄と知り、少し落ち込んでいると、誰かの転移の気配を感じ取った。
「ん?なんだ、アンナも来てたのか」
「チェン〜!良い所に来た〜!」
転移してきたのは昇華者最強のチェンだった。
アンナはすぐに飛び上がってチェンの後ろに隠れると、彩を牽制し始めた。
「彩がイジメてくるの〜!助けて〜」
最強という肩書を盾に、彩が簡単にアンナの事を襲えないようにするつもりなんだろうね。
でも、彩はそんな肩書気にしないよ?
「チェン。その吸血鬼をこっちに寄越しせ」
いきなり襲い掛かったりはしなかったけど、チェンに対して一切臆すること無く強気な発言をする。
そして、手招きをして手振りでもアンナを寄越せとアピールしている。
しかし、チェンはそんな事全く気にしていない様子。
「自分ですれば良いだろう。勝手に引き剥がせ」
アンナにも興味はなさそうで、普通に背中を向けてさっさと連れて行けと背中で語っている。
彩はそれを見ると、一種でアンナとの距離を詰め、逃げようとするアンナの首根っこを掴んで引き剥がした。
そして、自分の椅子の前まで連れて行くと、火を吹く禍々しい椅子にアンナの顔を近付ける。
「熱っ!?えちょ!なんで炎の方に顔を近付けるの!?」
「邪魔をした罰だよ。軽い罰でしょ?犯した罪の重さを考えれば」
「いや別に大した罪じゃない…」
大した罪じゃないだって…?
それはつまり、私と彩のイチャイチャを壊したことが大した罪じゃないって言ってるんだね?
許せん…これは許せんねぇ。
でもまあ…
「離してあげてよ。彩」
「は?……天音はいいの?」
「私は別にアンナに苦しんで欲しいとか思ってないし。…まあ、彩がやりたいなら好きにしたら良いんだけどね?」
アンナに救いの手を差し伸べると、凄くキラキラした目で私のことを見つめてくれた。
そして、視線でもう少し彩に訴えかけてと頼んでくる。
いや、別にアンナがイジメられるのを止めたい訳じゃないんだけど…まあ良いか。
「それくらいにしてあげて、彩」
「……分かった」
彩はアンナの首根っこを離し、私の方へ駆け寄ってくる。
そして、私に抱き着いてきた。
もし彩が猫だったら、間違いなくゴロゴロ言ってる状況だ。
…なんか、幻聴なんだろうけど、ゴロゴロって音が聞こえるし。
「……何だお前。人前でそんなイチャつきやがって」
「あ、マイケル」
転移でマイケルが集会所にやって来た。
マイケルは来て早々人前でイチャイチャしている私達を見て、変人見るかのような目でこっちを見下ろしてくる。
地を這う巨人のくせに、天使である私を見下ろすなんて…
不愉快極まりない。
「彩。この浮島の高度を上げられる?」
「出来るけど…なんで?」
「マイケルに見下されるのが嫌だ」
彩は一瞬口を開いて呆然としていたけど、すぐに私の言っていることの意味を理解して、高度を上げてくれた。
空を見て、アンナとマイケルが苦笑する。
「全く、天使ってのは本当にプライドが高いな」
「本当にね〜?あれくらい気にする程でもないのに〜」
二人とも笑い話にしているけれど、私はそうもいかない。
だって、私は天使だよ?
天上の世界である天界に住む、高潔なる種族。
下界に住む下等生物共とは訳が違うんだよ!
………ん?
私って、こんなに思想強かったけ?
天使の性に引っ張られてるのかな…?
気を付けよう…
私自身が天使の性に引っ張られていることを自覚し、意思をしっかり持とうと心に決めた時、2つの転移の気配を感じ取った。
声に聞き覚えが無いけれど…昇華者であることに間違いはない。
…誰だ?
「おう、今日も彼女と一緒に来やがったのか?フレディ」
「何だマイケル。別に良いだろう、誰と一緒に来ようと」
ああ、フレディか。
という事は、もう一つの気配はサラだね?
「……なんでこんな所で抱き合ってるの?」
「あんまり邪魔しないであげてね〜?サラ〜」
何故か高いところにある浮島の上に私達の気配を感じ取り、ここまで登ってきたサラが首を傾げる。
そんなサラに、アンナが私達の邪魔をしないよう注意する。
不思議そうに私達の事を見ていたけれど、アンナと話し始めてからは特に気にしていないみたい。
「あっ、そうだ。サラ、コロシアムが完成したんだって?」
「そう!ついにアレが完成したのよ!!」
私の腕の中から離れ、サラの方へ向いた彩がコロシアムの事を聞く。
すると、サラは興奮気味にコロシアムについて語り始めた。
「どうせあなた達のことだから、派手に炎とか氷とか使うんでしょ?その熱や冷気が観客席に行かないように、断熱性能を最大強化した結界を外側に何重にも張ったわ。そして、あなた達の本気の戦闘で壊れないようにダンジョンの壁並に固くした結界を、ピッタリと重ねて更に強度を高めて――――」
ものすごく饒舌に喋るサラの話を、うんうんと真面目に聞く彩。
ボケーっとして話を右から左へと流すアンナ。
途中から聞く気が失せた私。
女三人寄ればかしましいとよく言うけれど、サラは一人でもうるさいタイプだね…
というか、彩はよくこれを真面目に聞けるね?
後でサラが何を言ってたか要約して教えてもらおう。