停止領域と哀れな吸血鬼
半年以上ぶりの投稿。
なんとなくどんな内容だったか思い出しながら書いてます。
「ハアッ!」
今日も今日とて試練の界で鍛錬中。
正直な話、スピード勝負で彩に追いつくのはとっくの昔に諦めてる。
そして、停止結界で動きを止めることも。
だから、私はどうすれば彩の動きを止めて私が攻撃できるようにするか、必死に考えた。
考えて考えて考えた先にあった答え。
「周りを遅くする。さしずめ、停止領域と言ったところかな?」
結界で範囲を指定しちゃってるから駄目なんだ。
私に近付けば近付くほど動きを遅くする領域を作る。
某漫画の最強先生の技に着想を得たソレは、あの技とはかなり違うけど、効果は似たようなもの。
あの方のアレは終わり無き空間を作ることで絶対に到達できないようにしてたけど、私のは違う。
私の場合、近付けば近付くほど能力の影響が強くなって、いずれ完全に止まる。
しかも何が恐ろしいって、一度動きを止めたら最後、逃げることすら許されない。
指一本動かせないから、私が好き放題できちゃう。
彩のあーんなところやこーんなところを、あーだこーだすることもね。
もちろん、彩は加速の力を使って抜け出そうとしてくるだろうから、無敵ではないけど。
「とりあえず、今は停止領域実現のため、もっと鍛錬をしますか」
私は、剣の鍛錬もしつつ、停止領域を実現させるための術式開発に勤しんだ。
彩がどこまで私の術に対抗してくるか分からないから、どこまで強く、どこまで念入りにやっておいて損はない。
何度も何度も繰り返し、あーでもないこーでもないと様々な術を構築する。
そして、ようやく停止領域の開発に成功した!
「よし!これならいける!」
完成した停止領域は、周囲に常に停止の力を放ち、私に近付けば近付くほど遅くなる仕組みを実現し、さらには物理も魔法も飛び道具も受け付けない守りを持っている。
力技で突破しようにも、攻撃をされている方向に対して停止の力を強めれば止められるから、力技による突破にも対応可能。
逆に、攻撃されていない内は最小限の魔力消費で済むように出力を落としてもいい。
魔力をバカ食いするという問題はあるけど、私は天使だから魔力量だけはぶっちぎりで多いから問題ない。
後は、この停止領域を彩相手に充分に使えるくらいまで仕上げるだけ。
「首を洗って待ってろよ、彩!」
天音はそう言って拳を突き出す、自信に満ち溢れた顔で停止領域の鍛錬に取り掛かった。
「ふんふ〜ん、ふんふ〜ん♪」
鼻歌を歌いながら料理をする天音に、彩が後ろから抱きつく。
「何か良いことあった〜?」
「まあね〜」
後ろから抱きついてきた彩に対して優しく答えると、彩は頬を私の頬に擦り付けて甘えてくる。
今はとても上機嫌だから、私もスリスリと頬を擦り付けると、彩も上機嫌になって調子に乗り始めた。
「お胸モミモミ〜」
「ちょっと!」
「いいじゃ〜ん。ちょっとくらい」
調子に乗り始めた彩に対して、機嫌のいい天音は多少のスキンシップは許すことにした。
その事をすぐに理解した彩は、何度も胸を揉んだり耳に噛み付いたりするが、天音は怒らない。
たまには彩を思いっきり甘やかしてもいいと思う。
私は、パパっと料理を作るとサッと盛り付けて早めに食べ切る。
私に甘えたい彩も同じように、普段よりも早くご飯を食べている。
「ご馳走さま。天音、先に私を甘やかして」
「…まじ?」
「うん。皿洗いなんて後でできるでしょ?」
そう言って天音の腕を引っ張る彩。
天音はどうしようかと少し迷ったあと、彩を優先することにした。
「ほら、おいで」
「わーい」
ソファーに座って膝の上をトントンと叩くと、彩は嬉しそうに私の膝の上に座ってきた。
私の方を向いて。
「そんな恋人みたいなすわり方…」
「ダメ?」
「いや…まあ、別に駄目とは言わないけどさ?」
いざこういう座り方をされると、私もちょっと恥ずかしい。
もっとこう…膝枕ぐらいで留めるのかと思ったら、思いっきりそういう座り方をしてきたんだけど?
「あまね〜」
「何?」
「キスして〜」
顔をギリギリまで近付けた彩は、私にキスをせがんできた。
別に断るつもりもないし許してあげるけど…ちょっと調子に乗り過ぎかな?
天音は彩の望み通りキスをする。
すると、彩は天音の顔を両手で抑えて逃げられないようにした。
一瞬天音は抵抗しようとしたものの、すぐにそれを止めて彩を受け入れた。
すると、彩は口の中に舌を入れようとしてくる。
流石にそれは駄目だと止めようとしたその時――
「やっほー!アンナだ、よ…」
凄く良いところでアンナがやって来た。
「あー……お取り込み中みたいだし、出直して来るね〜」
「逃がすかこのコウモリ女」
「ちょっ!?」
転移で逃げようとするアンナを、彩が一瞬で捕まえる。
そして、私もすぐにアンナの元に駆け寄ると、停止の力でアンナの転移魔法の術式を破壊した。
「良いところに来たねぇ〜。灼熱か極寒か…どっちがいい?」
「え〜っと?どうして灼熱か極寒なの?」
ふ〜ん?
理由が分からないかぁ…
じゃあ教えてあげるしかないよね〜?
天音はアンナにどうしてなのかを教えてあげようとしたが、それよりも先に彩が話し始める。
「良いところに来てくれちゃって…一気に熱が冷めたんだけど?」
「そうそう。せっかく良いところだったのに……で?灼熱か極寒か、どっちがいい?」
「待って!それどっちに行っても地獄なのよ!」
灼熱は彩の試練の界で懺悔。
極寒は天音の試練の界で懺悔だ。
灼熱を選べば超高温の空間でジリジリと体を焼かれながら、天音とのイチャイチャに水を差された事に憤りを覚える彩に、散々な目に遭わされるだろう。
極寒を選べば超低温の空間で凍えながら、身内との幸せな時間を邪魔された事にキレた天使――もとい、天音に磔にされるだろう。
吸血鬼のアンナからすれば、弱点である炎で焼かれるのは相当な苦痛だろう。
しかし、極寒も極寒で、弱点属性の代表格である聖属性を扱う天音に磔にされる。
どちらを選んでも地獄が待っているのは明白である。
「そう言えば、彩との模擬戦に備えて停止の力を操る練習がしたかったんだよね〜。実戦で使って弱点を調べたかったんだけど、昇華者級の実力を持つ奴ってそう居ないからなぁ〜」
そう言って、チラチラとアンナを見ると、何をされるのか察したアンナが助けを求めるように彩へ視線を送る。
しかし…
「じゃあちょうどいいね。このコウモリ女は天音にあげる」
彩は私の事を愛している。
当然、アンナよりも私の事を優先するだろうね。
「いいの?敵に塩を送るような事しちゃって」
「いいのいいの。それくらいして強くなってもらったほうが、私も楽しめるから」
……へぇ?
「その言葉、後悔することにならないと良いね?」
「素直に私の好意に甘えれば良いのに。天使ってそんなに卑屈なの?」
「天使じゃなくても、そんな喧嘩を売るみたいな言い方されたらキレるよ」
ちょっと彩は調子に乗ってるね?
その余裕、いつまで続くか分かんないけど、当日に後悔しながら地面を舐める彩の姿を拝めるように、この機会は利用させてもらおう。
そんな事を考え、彩に気取られないようにほくそ笑む天音。
そこに、勝手に話が進んでいることに困惑しているアンナが割って入ってきた。
「……あの〜。私に拒否権は無いんですか〜?」
「「無いね」」
「あっ、はい…」
二人に即答され、しゅんとなったアンナは抵抗することなく、極寒の天音の試練の界へ連れて行かれた。