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自己鍛錬と日常

試練の界(天音)

部屋のあちこちに氷塊がある訓練場(?)で、氷が砕け散る音が何度も響き渡る。

十字剣を“両手”に持った天音が、次々と氷塊を破壊しているのだ。

そして、あっという間に全ての氷塊を破壊すると、ストップウォッチを止める。


「23秒…これじゃあ、彩には追いつけない」


彩はもっと速い。

もちろん、追いつけるなんて思っていない。

私が自転車なら、彩はスポーツカーだ。

加速を使わなくとも、根本的に速度が違う。


「だとしても、せめて彩の速攻に対応出来るようにしないと…」


この前の予行練習で、彩の素早さを再確認した天音は、その対策を練っていた。

もちろん、停止を使えば彩の速さに追いつく必要は無いのだ。

しかし、停止は加速で中和される。

素の速度に追いつけないから停止を使うのに、加速で中和されては何も変わらない。

最悪の場合、停止は効かないのに、加速は出来るという状態になる可能性もある。

それだけは避けたい。


最速の昇華者相手に、どうやって追いつけば…ん?


「そもそも、追いつく必要なんてあるのかな?」 


戦いの基礎は、自分の有利な土俵で戦うこと。

わざわざ、彩の土俵で戦わなくても、私の土俵に彩を連れてくればいい。

でもどうやって?


「カウンター…でも、ヒット・アンド・アウェイが基本の彩に、どうやってカウンターを当てればいいのやら…」


停止で速度を落とそうとしても、加速で中和されては意味がない。

攻撃に停止は使用出来ないと考えた方がいいだろう。


「停止結界は簡単に砕かれるし…防御に停止を加えるって難しい」


それに、停止結界は欠陥が多い。

結界は、攻撃を弾く為の物なのに、停止結界は攻撃を止めてしまうから、攻撃を止めるだけのエネルギーが必要になる。

私は天使だから良いけど、魔力に余裕がないなら、停止結界はゴミでしかない。


例えば、威力が100の攻撃があったとして、普通の結界は100の攻撃の内、30を受け流す…かも知れない。

しかし、停止結界は100の攻撃を、100の防御で受け止める。

つまり、普通の結界は防御の為に70の防御が必要なのに対して、停止結界は100の防御がいる。

どうせ防御するなら、少ないエネルギーで防御したほうがいい。

となると、停止結界はエネルギー効率が悪いのだ。


「消耗戦になるだろうから、魔力は出来るだけ温存したいんだけど…いや、いっそのこと消耗覚悟でゴリ押しすればいいんじゃ…」


昇華者レベルになってくると、例え四肢がどうなろうが幾らでも治せるようになる。

一撃で首を切られる、なんて事にならなければ幾らでも戦える。

大量の魔力と、高度な魔法技術によって、大怪我も瞬間再生させられる。

つまり、魔力を先に使い果たした方が負けの消耗戦。

それは、戦争のあり方とよく似ている。

戦争は札束の殴り合い。

先に財力を使い果たし、十分な装備を用意出来なくなった方が負けなのだ。

昇華者も魔力を使い果たし、攻撃も防御も回復も、全てが出来なくなった方の負け。

如何に相手に消耗させ、こちらが消耗しないかが勝負の鍵となる。


「はぁ…とりあえず方針は決まったし、今日はもう終わりにしよう」


そして、転移で家まで戻った。


















「ただいま〜」


帰ってくると、もう夜になっていたらしく、外は暗い。

玄関には彩の靴があり、かなり遅くまで自己鍛錬していた事がわかる。


「彩〜、もうご飯作ってるー?」


しかし、返事が無い。


おかしい…気配は確かにあるのに…

もしかして、帰ってくるのが遅かったから、怒ってるのかも。


リビングに入ると、彩が退屈そうにテレビを眺めていた。


「ごめんね。試練の界で剣の練習をしてたの。そした、らいつの間にか夜になってて…」

「遅い…」

「だよね…今からご飯作るね」

「もう食べた」


不味い…かなり怒ってる。

抱きしめたくらいじゃ許してくれなさそうだし…最悪、あのお酒に頼るか…


「ごめんね」

「…ふん」


抱きしめてあげたけど、やっぱりそっぽを向かれた。

…でも、声に出して『ふん』って言うのかわいい。

よし!もっと色々言ってみるか!!


「彩のかわいいお顔を見せてほしいな〜」

「ふん」

「ちょっとだけ。ちょっとだけだから。ね?」

「ふん…あと、その言い方はキモいおっさんみたいだから止めて」

「あっ、はい」


普通に怒られた…

流石に言い方が悪かったかな?

どうしよう…どうやって許してもらおうかな〜

あっ、アレを使ってみるとか…


天音は空間収納から、“チョコ”を取り出す。


「彩、あ〜ん」

「…あ〜ん」

「あっ、食べるんだ」

「天音のプレゼントだもん…ん?これって…」


何処かで食べた覚えのある味がした彩は、飲み込む前に天音の持っている箱を確認する。

そして、一瞬目を見開いた後、迷わずチョコを呑み込んだ。


「嬉しい?」

「もちろん。まさか、天音の方から来てくれるなんて思わなかったよ」

「いや〜、彩に許してほしくてね?」

「そっか…じゃあ、不機嫌になれば天音の方から来てくれるのか…」


ん?今、凄い不穏な言葉が聞こえた気がしたんだけど…

不味い…普通にすれば良かったかも。

“チョコ”なんて渡すんじゃなかった…


「ねぇ、カップラーメンでも作ったら?簡単だし、すぐに食べられるでしょ?」

「うん…分かった。私の播いた種だからね。責任は取るよ。」


とりあえず、今はこの彩の相手をしないと。

後の事は…また後で考えよう。

カップラーメンか…この前買ったばかりだから、まだ有るはず。


天音は、適当にカップラーメンを選ぶと、彩の用意したお湯を注いで、出来るだけ速く食べた。

片付けが終わるとニコニコ笑顔の彩が隣りにいた。

そして、服を引っ張られながら寝室へ向かった。















翌朝


「なんとか押し倒されずに済んだ…」


肉体的にも、精神的にも疲弊した天音が、グシャグシャのベトベトになった服を脱ぎ捨てる。

洗濯は彩にやってもらうつもりでいる。

そして、彩のタンスを漁って、インナーを取り出す。

身長がほぼ同じなので、サイズは問題ない。


「朝ごはんとお弁当を用意しないと…そう言えば、卵足りるかな?」


彩のインナーを着た天音は、キッチンに向かい、朝ごはんと彩のお弁当の用意をする。

お弁当の具材は、腕に自身のある卵焼きと、食べ切れていなかったきんぴらごぼう(冷凍)、バターで炒めたキャベツ、お弁当用に作り置きしていた手作りミニハンバーグ(冷凍)と手作りの焼売(冷凍)、そして、お弁当用に小分けしたナポリタン(冷凍)を入れる。

全て天音の手作りであり、『お弁当に、市販の冷凍食品を入れたくない』という天音のこだわりの詰まったお弁当だ。


「あっ、ご飯が無い…」


昨日はすぐにベッドに連れて行かれたせいで、今日のご飯を炊くのを忘れていた。

すぐに炊飯器を早炊きに設定して、ご飯を用意する。


「今のうちに朝ごはんを作っておこう」


お弁当に入らなかった卵焼きとキャベツの炒めものを皿に盛り付けると、人参、玉葱、キャベツを素早く刻み、フライパンに油をひいて野菜炒めを作る。

それと同時に小鍋を用意する。

中に出汁パックと短冊切りにした人参と大根を入れる。


「あれ?豆腐が無い。油揚げも…昨日はあったのに」


仕方なく、しめじと玉葱を入れることにした天音。

じゃがいもを入れても良かったが、見当たらなかったので入れなかった。

そして、先に出来上がった野菜炒めを皿に盛り付けると、ご飯が炊けた。

最近の炊飯器は、あっという間にご飯が炊けるのだ。


「魔法と科学の融合は凄まじいね」


貧乏生活をしていた頃、古い炊飯器で時間を掛けてご飯を炊いていたのが馬鹿らしくなってくる早さ。

しかも、燃料が魔力なので環境にも優しい。

ダンジョンの出現は、人類に脅威を齎すと共に、新たな豊かさを齎した。

大量の資源に、新しいエネルギー。

今や、世界経済の根幹を担うのほどに、ダンジョンの恵みは人類の繁栄を加速させた。


「ご飯を盛り付けてと。これでお弁当は完成」


小さい頃からお弁当を作っていた天音の腕前は伊達じゃない。

あっという間に完成したお弁当だが、全て手作りのため市販の冷凍食品にはない温もりがある。

人の温もりというものだろう。

企業によって大量生産された冷凍食品も、美味しいには美味しい。

しかし、味や舌触り、硬さ、噛んだ時の崩れ方、口に入れればすぐにわかる。

それが、機械によって作られた物であるということが。

コンビニをおにぎりは実に美味しい。

たっぷり入った具材に、持ちやすく食べやすいサイズ、少し力を入れれば崩れてしまうほど優しく握られており、米粒一粒一粒が存在を主張してる。

おにぎりとして、完全に近いだろう。

しかし、食べていて物足りない節がある。

それは、計算され尽くされ、限界まで不完全な部分が排除されたからだろう。

人の手で作られたおにぎりは、具材が少なかったり、塩味が濃かったり薄かったり、しっかり握られていて、お餅のようになっていたりする。

人間が作った物らしい、無駄に力の入ったおにぎりだ。

しかし、それでも人の手で作られたおにぎりのほうが満足感がある。

それは、“人の手によって作られた”からだろう。

人が作った物は、機械によって作られた物と比べて不完全な部分が多い。

しかし、そこには確かな想いがある。

機械では成しえない想いが詰まっている。

想いの詰まった料理は、人の温もりが詰まっており美味しいのだ。

つまり、何が言いたいかと言うと…


『全てが手作りの天音のお弁当は美味しい』


…ということだ。


「おはよ〜」

「おはよう彩。もうすぐで朝ごはんが出来るから、先に顔洗ってきて」

「は〜い」


まだ眠そうな彩は、フラフラと洗面所に向かう。

そんな彩を見て、元気をもらった天音は手元に視線を落とし、致命的なミスを発見する。


「しまった!主菜が無い!!」


天音は慌てて冷蔵庫を開き、卵を3つ取り出す。

そして、空いていたフライパンに油をひき直し、卵を溶いて入れる。

味付けには白だしを使っており、丁度いい分量を確実に入れる。

そして、トロトロになるように中火でササッと焼く。

卵がある程度固まると火を止めて、予熱で仕上げる。

出来上がった卵を皿に盛り付ければ、トロトロのスクランブルエッグの完成だ。


「一応、これを主菜って事にしよう。さて、そろそろ人参と大根に火が通ったかな?」


鍋から出汁パックを取り出すと、お玉に味噌を入れて、鍋の中で溶かす。

最後に乾燥ワカメを入れて、味噌汁の完成だ。

お椀に味噌汁を注ぎ、お茶碗にご飯を盛り付けて食卓に運ぶ。


「魔法で一気に移動させられる…家事が少し楽になっていいね」


魔法で全ての皿を浮かせて、食卓に並べる。

天音は箸を持って食卓に向かう。


「あっ、もう出来てる」

「丁度いい所に来たね。さあ、朝ごはんにしましょう」


彩が席につく。

そして、二人とも手を合わせて、


「「いただきます」」


こうして、新しい今日が始まった。

企業で大量生産された料理云々の話は、完全に私の主観であり、特定の企業を貶めるような意図はございません。

私が思った事をそのまま書いただけで、決して大量生産された料理不味いというわけではございません。

むしろ、私も美味しいと思いながら毎日…は言い過ぎですが、よく食べています。

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