目が覚めて
目が覚めると、かなりの低温の部屋にいた。
そして、何故か裸。
「ここは…」
辺りを見渡すと、全裸の彩が、氷の十字架に磔にされていた。
「彩!?」
私は、急いで彩のもとに駆け寄る。
近付いてみると、全身にミミズ腫れがあり、まるで鞭打ちを食らったようだった。
「これは…私の氷。」
氷の十字架の魔力は、間違いなく私のものだ。
つまり、これは私がしたということ。
どうしてこんな事を…アレか。
媚薬入りのお酒。
間違いなくアレのせいだろう。
「取り敢えず助けないと。」
私は、氷で出来た杭を引き抜き、彩を磔から解放する。
そして、大量の魔力を使って、丁寧に回復魔法をかける。
というか、この部屋はかなり寒い。
私は冷気無効があるけど、彩は違う。
布団でもあれば…いや、これを代わりに…
背中から純白の翼を出し、彩を包み込む。
すると、
「ん、んん?」
「あっ、彩起きた?」
翼で優しく包み込んだおかげか、彩が目を覚ました。
「天音…」
「よかった。傷は今治してるから待っててね。」
「…あっ、そうだった。」
最初は首を傾げていた彩だけど、何かを思い出したのように一人で納得している。
もしかして、昨日彩は正気だったのかな?
「昨日、私何してた?」
「えーっと、お酒を飲んで媚薬の効果で私に襲いかかってきたの。」
「それから?」
「私の用意してたオモチャを見て、この部屋にやってきたと思ったら、急に磔にされて…鞭打ち刑に処されてた。」
まじか…
やってしまった…
「その…ごめん。」
「いいよ、昨日はとっても激しかったし。」
「うん、そうだろうね。彩がミミズ腫れだらけになってるくらいだもん。相当激しかっただろうね。」
胸が締め付けられるような気持ちになっていた時、あることに気付いた。
「ねえ、お互い全裸は不味くない?」
「あー」
そう、私達は服を着てないのだ。
私の服は近くに落ちてたけど、彩の服が見当たらない。
ん?
「もしかして、この布切れが彩の服?」
「そうだね。服着たまま磔にされて、鞭打ちをされたから。」
「あー、今度一緒に買いに行かない?」
「ソフトクリーム買ってくれる?」
「それくらいなら、いくらでも買うけど?」
すると、嬉しそうに尻尾を振っているのが見えた。
…人化解けてるじゃん。
「尻尾は素直って、本当なんだね。」
「え?ッ〜!?」
人化が解けて、嬉しそうに動く尻尾が見えたのか、真っ赤になる彩。
…意地悪したくなってきた。
「触らせてよ。」
「イヤ!!」
「もしかして、尻尾が弱いの?」
「違うって!絶対良くないことするでしょ!?」
「バレた?」
すると、人化を使って尻尾を隠された。
面白くない。
まあ、別の時に私から声を掛けてあげれば、触らせてくれるでしょ。
私は、照れ隠しで、ポカポカと殴ってくる彩を軽くあしらいながら、転移で家に戻った。
媚薬入りのお酒を大切にしまう。
これは、天音の本心を知るための唯一の手段。
少しずつ飲ませて、何度でもアレを体験したい。
「天音は、確かに私を愛していなかった…」
媚薬の効果で欲求の枷が外れた天音は、私を磔にしてめちゃくちゃした。
しかし、その行動に愛は見られなかった。
天音は、私を愛していない。
けれど、悲しいとは思わなかった。
「私と一緒。一人になるのが怖いだけ。」
天音は、私をお人形にして、ずっと…ずーっと可愛がろうとしている。
あの行為は、私を隷属させてお人形にした後の予行練習。
何度も何度もキズモノにして、治して、またキズだらけにする。
天音は、こうやって欲求を満たしている。
きっと、天音の頭の中には、どうやって私をお人形にするかで満たされているんだろう。
それか、私をお人形にした後、どうやって遊ぶか考えているか。
「私が天音無しで生きられなくなった時、天音はどんな風私でに遊んでくれるんだろう?」
すごく楽しみだ。
天音は私のことを、寂しくならないためのお人形としか思ってない。
だから、私を傷だらけに出来る。
私を傷つけてるんじゃなくて、お人形を傷つけてるんだ。
少しくらい乱雑に扱っても、お人形は文句を言わない。
お人形を放り投げたり、踏んだり、気付かず座ってしまったり。
それくらいのことは誰だってしてる。
天音のやってることは、それと変わらない。
「彩ー!朝ごはんはパンにする?ご飯にする?」
「ご飯にするよ。」
「わかった。じゃあ、ソーセージ焼いとくね。」
「味噌汁も作ってね〜」
天音は最近家事に積極的だ。
きっと、『家族ごっこ』をしてるんだろう。
私が外に出て働いて、天音が家事をする。
ここには、お人形もごっこ遊びの舞台になる家もある。
ふふっ、いつの間にか家を乗っ取られてる。
まあ、天音のためなら別にいいけど。
「私のことを愛してくれなくても構わない。でも、お気に入りのお人形として、いつまでも大切にしてほしい。」
それだけで、私の心も、天音の心も満たされる。
だから、
「見捨てないでね、天音。」
とあるダンジョン
「…熱くない?」
「冷気の膜を張っても?」
「マイナス十度の冷気の膜があるんだけど?」
それなのに熱く感じるって…ここは一体何度なのよ…
数百度とかありそう。
「自由にいじれるなら、もっと涼しく作ればいいのに。」
「だとしても、天音の界は寒すぎだけどね?」
「二十度くらい大した事ないでしょ?」
「マイナス忘れてるよ。」
ここは、彩の試練の界…元がつくけどね。
試練の界は、攻略したあとは昇華者が自由にいじる事が出来る。
内装はもちろん、トラップ、環境、モンスター、階層の数。
ダンジョンを作ることも出来るのだ。
まあ、ダンジョンにすると、必要なときに使えない事があるから、誰もしてないけど。
「取り敢えず、温度調節してよ。せめて、二十五度くらいまで。」
「暖かくていいと思ったんだけどな~」
「彩からすれば、暖かいかも知れないけど、私にとっては熱いの!」
「はいはい」
彩は、渋々という雰囲気で温度を下げ始める。
…私も下げるか。
「っ!?天音?」
「早く温度を下げるために、冷気を出してるの。これならあっという間にでした快適な温度になるよ。」
「はぁ…」
む?
彩が不満そうにしてる。
そもそも、数百度の部屋でまともに過ごせるのは彩くらいなんだから、客を招く時くらい温度管理をしてほしい。
…そう考えると、彩の不満そうな態度はおかしいんじゃない?
ちょっと、イラッときた。
「ん?どうし、うわっ!?」
「チッ、避けられた。」
私は、バケツ一杯の冷水を彩にかけようとした。
しかし、ギリギリで避けられてしまった。
「何するの!?」
「別に?ちょっと、イラッしたから、意地悪しようと思って。」
「はぁ…じゃあ、私も意地悪していい?」
「そっち系じゃないなら?」
すると、彩は熱気を放って、部屋の温度をぐんぐん上昇させる。
しかも、部屋の温度設定も変えられた。
「彩がその気なら、私だって!」
私は、彩の熱気に対抗すべく、超低温の冷気を大量に放出する。
すると、部屋の温度上昇が止まり、逆に低下していく。
しかし、彩も負けじと熱気の出力をあげる。
くそっ!負けてられるか!!
「あっ!?停止使うのはズルいでしょ!!」
「だったら、彩も加速を使えばいいじゃん。」
「言ったわね?後で後悔しても知らないからね?」
ん?
「“後で後悔”?」
「う、うるさい!!」
チャ~ンス!!
「あれれ〜?後で後悔っておかしくな〜い?」
「うるさいって!!」
「もしかして、“頭痛が痛い”って言うタイプの人〜?」
「うっざ!!」
ん?
あれ?
怒らせた集中力を散漫にさせてるはずなんだけど…
どうして出力が上がってるんだろう?
「天音〜」
「ん?」
「私が買ったら、またあのお酒飲んでね?」
「は?」
あのお酒?
媚薬入りの?
…いやいやいやいやいや!?
「まじで言ってる?」
「私は本気だよ?」
「え?絶対嫌なんだけど。」
「嫌でも飲んでもらうよ?」
絶対負けられない理由が出来たんだけど…
いいの?
本気出しちゃうよ?
「ちなみに、本気でやらないと負けるよ?私も本気でやるから。」
「は?」
「んじゃ、行くよ〜」
すると、彩が人化を解く。
頭からは角が。
腰から尻尾が。
背中から翼が。
そして、目は蛇のように鋭くなった。
「彩って、本当に悪魔なんだね。」
「そう言えば、この姿を見せたこと無かったね。まあ、私も天音の天使の姿を見たことないけど。」
「そっか。じゃあ、初お披露目なのか…こんなくだらない事で初お披露目なんて嫌なんだけど。」
「天音が始めたことでしょ?」
私の文句に対して、彩の正論パンチが飛んできた。
確かに私が始めたことだけどさ?
こんなくだらない事で初お披露目したくない。
かと言って、あのお酒はもう飲みたくないし…
ん?
突然、警報のような音がなった。
「何この警報?」
「勝敗を決めるためのブザーだよ。一定の温度に達すると鳴るようになってる。」
「…私負けた?」
「うん、天音の負け。罰ゲームとして、あのお酒飲んでね?」
…私は何も覚えてない。
うん、覚えてない、覚えてない。
決して、彩とそんな約束してない。
「天音、現実に戻っておいで。」
「嫌だ!もうあのお酒は飲みたくない!!」
「天使が約束を破るの?」
「約束よりも、彩のほうが大事なの!」
「…ん?」
あっ
「どういうこと?」
「えっと…目が覚めたら、彩が傷だらけで磔にされてたんだよ?しかも、それをやったのは私だし…」
「もしかして、まだ引きずってたの?」
「引きずるよ!だって、その…」
私が恥ずかしそうにもじもじしていると、彩が何故か抱きついてきた。
熱い…
「彩…取り敢えず、熱気を抑えてほしいな〜」
「あっ!?ごめん!!」
彩は、慌てて私から離れると、熱気を放つのを辞める。
そして、彩も恥ずかしそうにもじもじし始めた。
もしかして、さっきのは勢で…
「天音」
「なに?」
「ありがとう。」
「?」
急に感謝された。
確かに、私は彩のことを大切にしてるけど、アレをした後だよ?
拷問じみた事をしてるのに、その事を気にしてると言って、感謝される理由がわからない。
気にしてくれてると、安心するならまだしも、感謝だからね?
もしかして、彩のコワレ具合は思ったよりも深刻なのかな?
…だとしたら好都合。
「あんな事をしたのに、私のことを許してくれるの?」
「もちろん。…元はと言えば、私があんな物を飲ませたのが悪いんだし…」
「いや、でも…」
「別にいいよ。私は気にしてないから。」
気にしてないは、流石に無理があるんじゃないかな〜
あれだけの傷が出来るほどの事をされておいて、気にしてないは強すぎる。
…何があったか知らないけど。
「…不満?」
「まあ、何もないのは、逆に困るというか…」
「じゃあ、一つお願いしてもいい?」
「いいけど?」
お願いか…どうせ大したことない事だろうね。
彩は優しいし。
すると、彩は頬を赤らめて、
「もう一回、私を鞭打ち刑に「無理」え〜?」
「いや、『え〜?』じゃないでしょ!自分から、進んで拷問されに行くなんて、彩ってマゾなの?ねえ?」
「いや〜、天音に罵声を浴びせられながら鞭打ちされて、新しい扉が開いたというか…」
「うん、今すぐその扉閉じて。」
やばい…
私の言いなりに出来るならいいけど、マゾは嫌だ。
手に入れるためなら、どんな非道なこともするけど、嗜虐趣味があるわけじゃない。
私の『S』は、サイコパスであって、サディストではない。
自分でも、狂ってる事は自覚してるけど、人を傷付ける事が好きなわけじゃない。
「え?でも、私を虐めてる時の天音、凄い楽しそうだったよ?」
「お酒とか、媚薬とかのせいでおかしくなってただけ。私に嗜虐趣味はないから。」
「意外…」
進んで人を傷付けたり、痛めつけたりするときは、大抵天使の仲間思いな性格が災いしてる。
今、彩を傷付けられたり、痛めつけたり、馬鹿にされたりしたら、ブチキレて拷問くらい普通にすると思う。
けど、それは仲間に降り注ぐ火の粉を振り払うために、過剰反応してるだけで、好きでやったりはしてない。
過剰反応してるだけだからね?
決して、私が好きでやってるわけじゃないからね?
「取り敢えず、天音にも意外な一面があるって事はわかったわ。」
「私を何だと思って…」
う〜ん
なんだろう、このなんとなく引っかかるような不快感は…