洗脳
注意
今回は、私でも「は?」ってなるような話です。
話を進めようとして、無理矢理書いたので、色々とおかしな所があります。
後日、補足のための話を投稿するので、それを読んでから読むことをオススメします。
夜 唄屋
「天音…その…昼のことなんだけど…」
私が、個室に入ってくると、どう話していいのかわからないという雰囲気の彩がいた。
私は、何か話している彩を無視して、反対側の席に座ると、メニューを開く。
「もう何か頼んでたりしますか?」
「え?…まだだけど…」
「そうですか。だったら、このしゃぶしゃぶコースにしませんか?」
「あ、はい…」
私が、敬語で話しかけた事で、彩は一気にしおらしくなった。
結構効いてる。
私は、ベルを鳴らして店員を呼び、注文を済ませると更に追い打ちを掛けることにした。
「で、今度の模擬戦以降は、本格的に縁を切るということでいいですか?」
「それは…」
「私みたいなのとつるんでいると、緋神さんの評価にも影響しますよ?」
「…」
彩は、俯いて小刻みに震えている。
「沈黙は肯定と捉えますが…よろしいですか?」
「…」
「そうですか。では、この付き合いも模擬戦までに「待って」なんですか?」
私が話を進めようとすると、彩が待ったをかけてきた。
「私は…縁を切りたくない…」
「はあ?」
「好き勝手言っておいて、何を言ってるんだって思うかも知れないけど、私は…天音と縁を切りたくない!」
彩は、机を叩いて、私に迫ってくる。
「今更何を言ってるんですか?もう、知人程度の認識なんですけど?」
「そんな…いや、お願い。もう一度、やり直すチャンスを!」
「無理ですね。もう、貴女を知人以上の存在として思うことはないでしょう。諦めてください。」
それを言うと、彩は、声もなく膝から崩れていった。
「では、模擬戦のことなんですが。」
「もう、私の負けでいいです。」
「え?」
「私の負けでいいです。何をしてくれても構いません。だから…もう一度一緒に暮らしてほしい。また、同じ屋根の下で一緒に笑いたい。」
そう語る彩の声は、弱々しく震えていて、悲痛な叫びにも聞こえた。
私は、内心笑いが止まらなかった。
このまま行けば、彩を私の奴隷に出来る。
私のためだけに働いてくれる奴隷が手に入る。
しかも、手を汚すことなく、双方の合意のもので。
「それなら、私も模擬戦はしません。不戦勝なんて、何も面白くないですから。そのため、貴女の願いも聞けませんね。」
「嫌だ…私と一緒に居てほしいの。また一緒に笑いたい。」
彩は、すすり泣きながら、私に縋り付いてきた。
それどころか、勢い余って押し倒してきたのだ。
その時、
「失礼しまっ!?」
ちょうど、しゃぶしゃぶを持ってきた店員に見られてしまった。
店員から見れば、彩が私を押し倒し、抱きついている。
つまり、店でアツアツなことをしてる。
そう見えていただろう。
「嫌だ…お願い…」
しかし、すすり泣く彩を見てそうでないことを感じ取ったらしい。
「あー…今、私動けないので、申し訳ないですが準備をやってもらってもいいですか?」
「か、かしこまりました…」
動けない私の代わりに、店員さんが準備をしてくれた。
ちなみに、私は彩にがっちりホールドされていて、まったく動けない。
「緋神さん、そろそろ離れてくれませんか?」
「嫌だ…天音が一緒に居るって言ってくれないと離れない。」
「では、その話は最後にするとして、先にご飯を食べましょうよ。」
すると、少しだけホールドが緩んだ。
「絶対だからね?」
「わかってますよ。だから、離れてください。」
「忘れないでね?」
すると、彩は私から離れて、もと居た席に戻った。
その頃には、準備が終わっており、ほとんどを店員さんに任せてしまっていた。
「ありがとうございます。」
「いえいえ。お気になさらず。」
そう言って、店員さんは出ていった。
「さて、しゃぶしゃぶを食べましょうか。」
「ポン酢いる?」
「は?しゃぶしゃぶといえば、ゴマダレでしょう?」
「ちょっと何言ってるかわかんない。しゃぶしゃぶにはポン酢一択じゃないの?」
二人の間に、険悪な空気が流れる。
しかし、これ以上関係を悪くしないために、お互い手を引くことで解決した。
天音は、手を引いていなければ、計画が破綻すると考えて手を引いたが、彩は、天音とまた暮らしたいという、平和な理由だった。
そして、二人が肉を鍋に入れる。
「緋神さん…それはしゃぶしゃぶと言えるのですか?」
「それを言うなら、天音は短すぎない?」
彩は、しゃぶしゃぶとは言えはないほど長くつけおり、天音はしっかりとしゃぶしゃぶと言える時間しかつけていない。
「しゃぶしゃぶですよ?少しだけ付けるくらいだと思うんですけど?」
「病気になったら怖いでしょ?これくらいつけて、殺菌しないと。」
彩って、結構心配性な性格なのか…
「そもそも、昇華者が病気になったりするんですか?」
「前に、牡蠣を生で食べて、ノロウイルスにあたった事があったの。それ以降、食中毒には人一倍気を使ってる。」
まじか…
もしかして、この歳で酒とか煙草とかって、結構やばかったりする?
彩、許せん…
「あと、前に酒の飲み過ぎで医者に怒られた事があったね。」
「…それをわかって私にお酒と煙草教えました?」
「ごめん、忘れてた。」
彩、マジ許せん…
それから、なんだかんだ二人でしゃぶしゃぶを楽しんだ。
「お会計はどうしますか?」
「私が出すよ?」
せっかくだし、彩のお言葉に甘えるか…
あ…
「あの、しゃぶしゃぶに集中しすぎて、大切な話を忘れてる気が…」
「あ…」
すると、みるみる彩の顔色が悪くなっていく。
「今日も、なんだかんだ楽しんでたし、また一緒に…」
「無理です」
「…」
さっきまでが、楽しい時間だったために、現実との落差でかなりダメージを受けただろう。
でも、楽しい時間で精神が回復しているだろうから、少しは粘って…
「どうして…駄目なの…?」
前言撤回
かなりダメージを受けるどころか、急所にクリティカルヒットしてる
「さっきも言いましたけど、貴女に対しては、もう知人程度の認識しか持ってません。」
「嫌だ…」
すると、今度は涙を流しながら泣き始めた。
私を振り向かせたいのか、彩が私にこだわる理由を嗚咽混じりに語ってくれた。
「私ね、誰かと話すのが大好きなの。でも、昇華者になってからは、かなり立場が変わってね。これまで仲良くしてくれた人達が、揃いも揃って私から距離を取るようになった。」
「相手は、国家権力に勝る、昇華者ですからね。相当話しかけづらいでしょうね。」
「ええ。それでね、昇華者になって、金も、権力も、地位も、名声も、人が欲しがるものはほとんど手に入れた。でもね、親しくしてくれる人は減っていく一方。私は、どんどん一人になっていった。」
それは、仕方ない事だろう。
私は、元々友達が少なかったからあんまり…というよりは、ほとんど影響を受けてないけど、話しかけづらい雰囲気を纏ってる。
そのせいか、話しかけられる機会がますます少なくなった。
「それに、昇華者同士で話し合うのは…難しかった。」
「でしょうね。」
「いよいよ私は一人になる。そんな時、貴女が新しい昇華者として昇華してくれた。嬉しかったよ。日本人の昇華者だもん。他の昇華者よりは話しやすいって思ったからね。」
「蓋を開けてみたら、どうでしたか?」
すると、彩は「ふふっ」と、笑って、
「碌に働かないし、家事も手伝ってくれないし、勝手に人のお酒を飲むし。とんでもないやつだなって思ったよ。」
「そうですか。」
特に、怒る理由はないし、何も言わないでおこう。
「でも、一緒に居てくれたし、笑ってくれたし、あの漫才みたいなやり取りが好きだった。だから…」
彩は、私の肩を掴んで、
「また、貴女と一緒にいたい!」
そう、私に訴えかける彩は、滝のように涙を流していた。
そろそろかな?
私は、優しく彩の頬に触れると、
「じゃあ、少しだけなら一緒にいてもいいよ?」
敬語を辞めて、いつもの口調で話しかける。
「ほんとに!?」
「もちろん。そうだね…一週間くらいかな?一週間経って、まだ一緒にいたいと思えるなら、ずっと一緒に居てあげる。」
私は、今尚流れる涙を拭き取ってあげる。
出来るだけ優しく、彩が私を求めてくれるように。
「ほんとに…本当に一緒にいてくれるの?」
「私は天使だよ?大切な人を見捨てたりはしない。距離を置いたりしない。何かあったら、必ず相談に乗ってあげる。今まで、彩を見捨ててきた奴らと私は違う。」
「…」
…言い方が不味かったかな?
「天音…」
「何?」
「もし、“あの時”が来たら…貴女はどうするの?」
「それは…その時決めましょう。今は今、“あの時”のことは、後で考えればいい。」
私と、別れる事になるのが怖いのか…
私が居なくなれば、彩はまた一人になる。
それどころか…いや、この事はまた今度考えよう。
「大丈夫。世界の理なんて捻じ曲げて一緒に居る。だって、彩に全部任せて、ぐうたらしてたいからね。」
「はぁ…私の感動を返してくれない?」
「ふふっ、これからも、私のために働いてね?」
「はいはい。」
面倒くさそうに返事をする彩は、どこか嬉しそうだった。
…洗脳できたかな?
出来てるといいな〜