ハワイの夜
夜
「うわ〜!!ハワイの夜景って、きれいですね~」
「ほんと、東京の夜景とは一味違うね。」
私達は、ホテルの屋上から、ハワイの夜景を見下ろしていた。
至る所で電気がついているため、地上は夜なのに、昼のように明るい。
そして、その明かりの影響で、海も浜の近くは明るくなっている。
屋上から、その景色を見ていると、海が陸から離れるほど暗くなり、グラデーションのようになっている。
「そう言えば先輩、さっきホテルの人と何かはしてましたよね?」
「ああ、ホテルのオーナーと話してたね。」
「オーナー!?」
私が帰ってくるやいなや、ホテルのオーナーが、私の所にやって来たのだ。
ただ、理由はなんとなくわかってたけどね。
「私が昇華者だって事に気付いて、是非スイートルームに泊まってほしい、って言われたの。」
「え?でも、部屋は変わってませんよね?」
「そりゃあそうでしょ。だって、部屋はそのままにしてもらってるし。」
オーナーは、普通の料金で泊まって構わないと言ってたけど、登り降りが大変ということを伝えると、納得してくれた。
それと、オーナーの配慮への感謝として、“ちょっとだけ”チップを渡しておいた。
まあ、オーナーの給料に比べれば、大したことないでしょ?
「夜景はきれいなんだけど、やっぱり暑いわね。」
「ですね。夜なのに、気温は三十℃もありますから。」
大人たちは、南国の暑さにやられているらしく、椅子に座っている。
「二人は暑い?」
「暑いですね。」
「確実に熱帯夜だね。天音、冷気出してくれない?」
香織に、温度調整を頼まれた。
ん〜…
風も強いし、これなら風上に冷気の膜を張ればいいかな?
私は、風上に、ホテルの屋上を包み込むようにして、冷気の膜を張る。
すると、冷気で冷やされた風が、私達の元へ吹いてくる。
「あぁ〜、気持ちいい〜」
「やっぱり天音が氷使いで良かった。」
「これなら、ハワイの夜景を、快適に楽しめるわね。」
…やっぱり、私のことをクーラーか何かだと思ってない?
私、仮にも昇華者なんだよ?
世界最強の一角で、国権よりも強い権力を持ってるんだよ?
なのに、扱い雑過ぎない?
「そう言えば、あの氷どうするんですか?」
「あー…」
いくら、ハワイが温かいとはいえ、広範囲の海を氷漬けにすれば、なかなか溶けないか…
どうしよう?
「ちょっと、彩に頼んでみる。」
私は、転移で東京の彩の家に行く。
「あれ?忘れ物?」
私が転移してくる気配を感じ取った彩が、出迎えてくれた。
「実は…」
私は、事情を説明して、彩に氷を溶かしてくれないか頼んでみた。
「はぁ〜〜〜!!」
「駄目、かな?」
「その顔辞めて、私は少女漫画みたいな展開は求めてないから。」
私は、代わりに歪んだ笑みを浮かべる。
「あー、行くの辞めようかな〜?」
「ごめんなさい。許してください。ほんとになんでもしますんで。」
「自分のやった事の後始末を、悪魔泣いて頼む天使が目の前に…堕ちたね。」
別にいいじゃん。
私、氷を作ることは出来ても、溶かすことは出来ないんだから。
え?それなら最初からそんなことするなって?
天使は誇り高き種族。
私のプライドを貶されて、黙ってられるものですか!!
え?じゃあ、なんで彩を頼るんだって?
…そこはあれだよ。私って、面倒くさがりだから…
「取り敢えず、天音が凍らせた海を溶かせばいいのね?」
「うん。よろしくね?」
「…タダ働きはしないよ?」
「わかった、じゃあハワイでバーにでも行こうよ。」
「それならいいよ。…もちろん、天音が負担してくれるんだよね?」
やっぱりそうなるよね…
ここで文句言うと、来てもらえなそうだから、私が払うか…
…待てよ?
「だだいま。」
「あっ、帰ってきた。」
私は、転移でホテルの屋上に戻ってくる。
彩は、今はビーチに向かってる途中。
「どうでした?」
「氷を溶かしてくれるって。まあ、後でバーを奢る事になったけど…」
「それは…お疲れ様です。」
同情の目を向けてくれる矢野ちゃん。
優しいな〜
そんなことを考えていると、海の方から赤い光がさしてくる。
見ると、いくつもの炎の玉が、海面スレスレを浮遊していた。
「彩が、氷を溶かし始めたね。」
「きれいですね…」
「またニュースになるんじゃない?」
確かに…
今回の件で、5人の昇華者が動いている。
喧嘩した私とアイナ。
私達が暴れない過ぎないように、監視しに来たマイケル。
私達の血を吸いに来たアンナ。
氷を溶かしに来た彩。
集会も合わせると、全員が動いている。
「そう言えば、あの人魚とはどうなったのですか?」
「あー…もう一回会って、お互い手は出してないけど、めちゃくちゃ喧嘩したね。」
「人魚と天使って、仲悪いの?」
「個人的嫌ってるだけ。」
取り敢えず、私とアイナを一緒にすることは、今後なくなると思う。
だって、昇華者全員の前で喧嘩したからね。
お互い手は出してないけど、周りから警戒されているのは確かなはず。
「どうして嫌いなんですか?」
「私のプライドを貶されたから?」
「それだけですか?」
「それだけ?天使にとって、プライドはとっても大事なもの何だよ?死んでもプライドは守れ、って言われるくらいだからね?」
「そんなにですか…」
まったく、天使にとって、プライドがいかに大切かわかってないね。
これだから他種族は。
「天使は、誇り高き種族なのよ!!」
「私の前では、誇りもクソもないけどね?」
「…それ今言う?」
いつの間にか、私の後ろに転移してきていた彩が、私の話に水を差してきた。
…てか不味い!私の自堕落な生活をみんなに暴露される!!
「それって、どういうことですか?」
「ああ、それは「あー!あーあー!!」うるさい!」
「いてっ!?」
私が、彩の話を妨害しようとすると、私の脳天に手刀が落ちてきた。
待って、普通に痛い!
「天音は普段「アイタタタ!」天音ちゃん?」
「は、はい!」
「ちょっと、ここから飛び降りようか?」
そう言って、彩はフェンスの先を指差す。
「えーっと…いくら昇華者でも、大怪我すると思うんだけど…」
「大丈夫、ちょっと首の骨が砕けるだけだから。」
「私に死ねと?」
「それが嫌なら、私の炎の手刀で心臓に風穴を開ける?」
「どのみち死ぬんですが…」
彩は、私にまったく笑っていない…というか、殺意のこもった顔を向けてくる。
怖い…
「いい?今度同じ事したら、鼻から炎入れて、呼吸器焼き尽くすから。」
「それは酷くない?」
「じゃあ、そこからライダーキックで地面に、首を叩きつけるね。」
「私になんの恨みが…」
どっちを選んでも死ぬ。
最悪の二択じゃん。
「ふぅ…それでね、天音は普段、家事全般私に押し付けて、生活費を一切出さずに、ろくに仕事もせず昼から酒飲んで、私の家に居候してる。」
「「「うわぁ…」」」
「やめて!そんな目で見ないで!!」
私は、みんなから信じられないという目を向けられる。
更に、
「これの何処が、誇り高き種族なんですか?」
「プライドは死んでも守るんだよね?じゃあ、なんで止めなかったの?」
「天音、お母さんは、貴女をそんな子に育てた覚えはないわ。」
この言われようである。
酷すぎる…どうして私がこんな目に…
「自業自得って知ってる?今の天音みたいな感じ。」
「因果応報も当てはまりそうですね。」
「どちらにせよ、生活を見直した方がいいよ?天音。」
「嫌だ!私は一生彩の貝紐として生きる!!」
「「「「うわぁ…」」」」
いや、彩までそんな顔しないでよ…
どうしよう、泣いちゃうよ?
こんな扱い受けたら、いくら私でも泣いちゃうよ?
…誰も助けてくれない、と。
はぁ…悲しい。
「もういいもん!マフィアから金奪って、自棄酒するし!」
「とばっちりを受けるマフィア。」
「こればっかりは、マフィアは悪くない。」
「自費で出せばいいじゃん。わざわざ奪わなくても…」
「天音、お母さんは、貴女をそんな子に(以下略)」
ねえ、そんなに寄って集って言わなくてもよくない?
私、ほんとに泣いちゃうよ?
というか、泣きたいんだけど?
「彩〜、やっぱり割り勘にしようよ~」
「は?出すわけないじゃん。自分の分ならまだしも、自棄酒するであるろう天音の分まで、出さないといけなくなるじゃん。」
「お願いします!なんでもするから!!」
「今なんでもって言ったね?じゃあ自分の分は自分で出して。」
「ええ〜」
結局、私がいかに怠けているかを暴露されて終わった。
「はぁ…」
「いい加減諦めてくれな?そろそろ、腹立ってきたんだけど?」
「そうじゃなくて、マフィアの拠点にあんまりお金がなかった事だよ。」
私は、結局マフィアの拠点を襲撃して、金を強奪していった。
私を見たマフィアは皆殺し。
金は金庫ごと奪って、ダンジョンで破壊した。
しかし、金庫の中には五十万ドルしかなかったのだ。
「五十万もあれば十分でしょ?何がそんなに不満なのよ。」
「だって、世界的観光地のハワイにいるマフィアだよ?もっと持ってると思ってたのに…」
「ハワイのマフィアをなんだと思ってるのよ…」
せめて、五百万は入っててほしかった。
そうすれば、かなり遊べたのに。
「というか、普通に自分で稼げはいいじゃん。どうして、わざわざマフィアから奪うのよ?」
「マフィアが汚い事して集めた金を、私が浄化してから使って、経済発展に繋げてるの。」
「浄化して?血で洗う事を、天使は浄化というの?」
「やめようよ、そういう言い方するの。」
確かに、彩の言ってる事は正しいんだけど、言い方に悪意を感じるんだよね。
…まあ、彩は悪魔だけどさ。
「ん?」
「私達になにか用?」
明らかにガラの悪そうな男が、近くにやって来た。
そして、
「おい日本人、有り金置いて帰るなら許してやるぜ?」
「なるほどね。どおりで値段が安い訳だ。」
天音は、私に目を向けて小さくドアの方を指差す。
意味を理解した私は、氷魔法をドアに放つ。
これで、ドアは開かなくなった。
「おい人間。このまま何もしないなら、命だけは助けてやる。あと、酒代もタダにしろ。」
「あ?……っ!!」
彩は、分かりやすく角を出して、マフィア共を黙らせる。
そして、私方を見てきたが、
「っ!?」
「残念だけど、私も人間じゃないから、人質には出来ないよ。」
私は、マフィアの首に十字剣を突き付ける。
「私ね、この悪魔に全額払われさそうになってたの。だから、タダにしてくれると嬉しいな?」
「わかった。タダにしておく。」
「ありがとう。このまま何もしないなら、警察に突き出したりはしないよ。」
すると、マフィア達はそそくさと自分の席に戻っていった。
予想外だったけど、いい誤算でもあった。
「天音。帰ったら、少しお話しよっか?」
「ヤダね。今度の勝負で、私に勝てたら好きなだけ付き合ってあげてもいいよ?」
「へえ?絶対に勝たないといけない理由が出来たね。」
そして、彩は不敵な笑みを浮かべて、私の方を見てきた。
「まあ、せいぜい負けないように頑張ってね?」
「それは、宣戦布告と受け取っていいかな?」
「ええ。楽しみにしてる。」
望むところだ。
天使の強さというものを、骨の髄まで思い知らせてあげる。
私は、今からその戦いが楽しみだった。