居候の日常
話を合わせるための追加投稿です。
「ねぇ、私のシュークリーム知らない?」
「シュークリーム?冷蔵庫に入ってたやつ?」
「そうそう。あれ、どこにあるか知らない?」
私は今、質問と言うなの脅迫を受けている。
何せ、威圧たっぷりのいい笑顔で質問してきているのだ、脅しと変わらない。
「シュークリームかぁ…私のお腹の中だね。」
「そう、じゃあ、今から貴女の腹を開くから動かないでね?」
「唾液と胃液でグチャグチャになったシュークリームなんて、食べたい?」
すると、彩はピタッと止まって、青筋を浮かべてる。
…余計なこと言ったかも。
「あのシュークリームさぁ〜凄く美味しい洋菓子店の、数量限定のシュークリームなんだよね〜。」
「そ、そうなんだ…」
今度は、威圧ではなく殺意を込めて睨まれてる。
すると、ソファーの背もたれに壁ドンをするように、手をドンッ!と押し付けて。
「私が楽しみにしてたやつなんだけど…どうしてくれるの?」
「え、え〜っと〜」
「数量限定であり、期間限定でもあるから、もう売ってないんだけど?」
「あー」
壁ドンされるとドキドキするって言うけど、それはキュンキュンであって、今の私とは訳が違う。
私は、今にも殺されるんじゃないかという、恐怖でドキドキしてる。
「美味しかった?」
「ほっぺが落ちそうなくらい美味しかった。」
「オーケー、その羽根引き抜いて、翼を若禿させてあげるからさっさと翼出せ。」
不味い…天使の純白の翼が赤くなっちゃう。
どういうことかって?
絶対強引に引き抜こうとするだろうから、血が出てくるって事だよ。
「翼出せ」
「…」
「ん?」
「わかりました…出しますよ。」
私は、彩の威圧に押されて翼を出す。
すると、羽根を掴む感覚があり、掴まれた羽根が引っ張られる。
「ふわふわだね。羽毛布団にしたいくらい。」
「同居人の羽根を毟って作った布団なんかで寝たい?」
「…夢のないこと言わないで。」
その後も、何故か一本も羽根を抜かれなかった。
それどころか、ひたすら羽根を撫で回されてくすぐったい。
「あんっ!」
「なに?翼にも気持ちいい所があるの?」
「わかんないいっ!?」
どうやら、翼にも弱い所があるらしく、そこを執拗に触られて全身の力が抜けていく。
「ちょっと…やめて…」
「シュークリームの恨みだ。」
「ほんとに…不味いって…あっ…」
別に、私も彩もそっちの興味はないけど、傍から見ればかなり百合百合しい状況だ。
実際は、私が勝手に彩のシュークリームを食べたことを怒られてるだけなんだけどね?
けど、この姿は絶対に他の人に見せられない。
絶対誤解されるから。
それから、十分以上の間、彩は私の弱い部分を触って普段の恨み辛みを吐いていた。
「ハァ…ハァ…」
「ふぅ…スッキリした。」
「それは…良かったね…」
私は、全身の力が抜けて、ソファーで液体になっている。
そんな私を見て、彩が嗜虐的な目を向けてくる。
「なに?まだ私で何かするつもり?」
「いや?だらしない姿の天音の写真を取っておいて、いざという時の脅しの材料にするんだよ。」
「脅しって…絶対ろくな事に使わないでしょ…」
どうせ、私が何かした時に言うことを聞かせるための材料とか。
私に何かをやらせたい時にこの写真を前面に出したりとか。
「そうだ。取り敢えずシュークリームのお詫びとして、この前見てたワイン買ってきてよ。」
「いや、あれ十万以上したよ?」
「昇華者なら、それくらいポンと出せるでしょ?買ってきて。」
たかだか数百円程度のシュークリームのお詫びに、十数万のワインを買わなくちゃいけないとか…
行きたくない〜
でも、行かないと写真を使って何かしてくるだろうし…
「わかったよ。行ってくるよ。」
私は、文句を言いながら服を着直すと、外に行く準備をして、転移で店まで向かった。
夜
「天音〜」
「なに?」
私は、ソファーでゴロゴロしてる彩の方を見る。
私は今、久しぶりに皿洗いをしている。
普段は放っといたら彩がやってくれるけど、『私の苦労を味わってろ』とか言って、私に皿洗いを押し付けてきた。
「映画見ない?」
「なんの映画?」
「冒険ものだよ。ダンジョンで転移トラップに引っかかった高校生達がダンジョンの外を目指すお話。」
「いわゆる、王道ってやつ?」
ダンジョンが現れてから、ダンジョンを舞台とした映画が一気に増えた。
昇華者に関する映画もあるらしく、実際に昇華者が登場したこともあったらしい。
…敵役として。
「面白そうだけど、私今皿洗いしてるんだけど?」
「そこは自分でどうにかして。」
「そんな無茶苦茶な…」
そう言って、DVDを入れる彩。
どうせもうすぐで皿洗いも終わるし、大丈夫だとは思うけどそんなすぐに見ようとしなくても…
「ほらほら。さっさと皿洗いを終わらせて、一緒にお酒でも飲みなが見ようよ。」
「はいはい。」
彩に急かされたので、手早く皿洗いを終わらせて、コップを二つ持っいく。
一応、氷を入れておく。
一瞬で氷を出せるのも、氷使いの特権だね。
「ありがとう。」
「まだ始まってないよね?」
「まだCMの段階だよ?始まってないに決まってるじゃん。」
言い方に悪意を感じたけど、触れないでおこう。
そして、ワインをコップに注いだタイミングで映画が始まった。
話は、ザ・王道という感じで進み、お酒も進んだ。
途中で別の安いお酒に切り替えて、沢山飲めるようにした。
「見て見て!ノーライフキングだって!!」
「絶対こいつらじゃ勝てないじゃんwww」
「あっ!逃げ出してる!」
途中、初心者高校の前に、ノーライフキングが立ちはだかるという絶望的過ぎる状況になり、お酒の回った私達は爆笑していた。
今考えると、何故あそこで笑えたのかわかんないけど、この時の私達は笑っていた。
「どう?映画見てのよかったでしょ?」
「まだ途中なのにそれ聞く?」
「確かにw」
お酒が回っておかしくなった私達は、些細なことで怒ったり笑ったりして、映画を楽しでいた。
また今度、お酒を買ってきて彩と映画を見よう。
ある日の昼間
珍しく、彩が昼に帰ってきた。
元々連絡は来ていたので、お昼ごはんを作っておいた。
しかし、
「ふざけてるのかな?」
「…」
「ん〜?これが私の昼ごはん?」
「そうだよ?」
私が作ったお昼ごはんは、お湯を注いで3分のカップ麺だった。
ちなみに、連絡が来てすぐに作ったので、三十分近く経ってる。
「立てなくなるまで、羽の急所をいじってあげようか?」
「やめて。あれ、マジで苦しいから。」
「じゃあ、これは貴女が食べて?」
「要らないよ、こんな伸び切ったラーメンなんか。」
すると、彩の額に分かりやすく青筋が浮かぶ。
口は引き攣ってるし、眉間にしわを寄せてる。
いつ、襲いかかって来ても、おかしくない状況だ。
「貴女、家事の『か』の字も知らないの?」
「『か』くらいわかるよ。馬鹿にしないでほしいね。」
「あっそ。取り敢えず、一発フルスイングで殴らせろ。」
「暴力反対」
「あ?」
「すいませんした」
彩には、暴力反対を使わずとも、私を追い出すという事が出来る。
貝紐として生きたい私からすれば、同じ昇華者に養ってもらうのが一番いい。
だって、寿命が人間の比じゃないからね。
ずっと私のために働いてくれるよ。
彩は、私の作ったカップ麺を放置して、いつもカップ麺が置かれてる棚を開ける。
「あれ?私の『ハイパーカップ ニンニクマシマシ豚キム』は?」
「私が食べちゃった。」
「よし、今すぐ荷物をまとめて出ていけ。」
「嫌だ!どうか御慈悲を!!」
「黙れ!!さっさと出てけ!!」
彩がこんなに怒るとは思わなかった。
そんなにこれ楽しみにしてたのか…
「一応聞いておくけど、美味しかった?」
「ニンニクがきつすぎて、そんなに…」
「オッケー、死ね。」
「いや、酷くない?」
流石にそれは直球過ぎると思う。
そんなに怒らなくても…
「そうだ。天音が楽しみにしてた、あのどら焼き。昨日の夜食べちゃった。」
「は?」
「美味しかったわ〜、甘さ控えめだから、天音の好きそうな味だな〜って思いながら食べてた。」
「…」
は?
彩が、私のどら焼きを食べた?
私がわざわざ並んで買ったどら焼きを?
…ぶち殺してやろうかな?
「いや〜、同じ目に合わせて仕返しするのは楽しいね。」
「え?マジで食べたの?」
「食べたよ?確認してきたら?」
私は、急いでお菓子棚の一番上を見る。
しかし、そこには昨日まであったどら焼きの箱が見当たらない。
「彩」
「なに?」
「ちょっとその面かせや。」
久々にキレた。
勝手に人のお菓子食いやがって…
開店前から並んだんだよ?
この私が、開店前からだよ?
ちょっと許せない。
「天音。よくそれ言えたね?」
「そうね。今までごめんなさい、勝手に食べちゃって。これからは、食べた直後に報告するね。」
「あっそ。じゃあ、私は天音が並んで買った物から優先的に食べてくね。」
私達は、本気で殺意を込めて睨み合う。
顔は笑ってるけど、目がまったく笑ってない。
そして、私が空間収納に手を入れた瞬間、
「チッ!勘のいい悪魔だね。」
「ちょっと、殺意が高すぎるんじゃない?あっ、天音って天使だったね。」
私達は、室内で剣を取り出して、鍔迫り合いをする。
ちなみに、鍔迫り合いをした時に、剣同士がぶつかり合った事で、けたたましい金属音が響き渡った。
もし、近くの部屋に人が居れば、騒音のことでクレームを入れられるくらいうるさかった。
…防音加工はされてるだろうから大丈夫だとは思うけど…
「どうする?どんな内容なら、お互い手を引けると思う?」
「そりゃあ、勝手に人のお菓子を食べないでしょ?」
「私、絶対守れる自信はないよ?」
「だろうね。天音がこの約束を守るなんて、天地がひっくり返ってもありえないよ。」
今、しれっとけなされた気が…
「じゃあ、勝手に食べたら相手になにか奢るとか?」
「それならまあ…」
「よっしゃ。新しい財布を手に入れたぞ。」
私のことを、財布扱いですか…
酷すぎる…
そんな感じで、今日も一日が過ぎていった。
 




