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昇華者達

十分

私がオーブの情報を得るのにかかった時間の事だ。

オーブの情報処理能力には個人差があり、処理能力が高ければ高いほど、苦痛や必要な時間が小さく、短くなる。

つまりどういう事かと言うと、人の領域を遥かに超えた昇華者である、私ですら形容し難い苦痛を十分も味わうことになるほどの情報量だったというものだ。


「確かに、それくらいの情報量はあった。」


私が得た情報は変わってしまった世界の在り方だった。

それはまるで、胸糞悪い鬱小説を読んでいるようだった。

分かってはいた。

世界は残酷で、救いがあるような優しい物ではないと…

何処かで理不尽な結果が待っている。

それを理解して、進む以外に前へ進むしか、良き未来は手に入らないということを。

しかし、これはあまりにも救いがない。

今までの努力は何だったのか?

そう、問いたくなるような未来が待っている。

それを私は理解してしまった。


「知らぬが仏。世の中、知らないほうが幸せなことが沢山ある。それは、本当だったみたい。」


この、非情な現実に抗う術を…

知ってしまった者の、必死の無駄な抵抗を…

現実から目を背けず、それを否定する力を…

私は欲しているんだ。


「でも今は…少し疲れた。」

 

私は、溢れ出る魔力を抑え込み、試練の界を出た。


















「よし、これでいい最後だね。」

「え?俺は、ゴブリンダンジョンにいたんじゃ…」


私は、最後のダンジョンに残っていた冒険者を連れ帰ってきた。

そこには、大量のマスコミと何百人もの冒険者が待機していた。


「また、あんたか組合長。私や管理局が大丈夫だと言っているのに、どうしてそれが聞けないのかな?」

「何事も、最悪を想定すべきだ。この冒険者達は、スタンピードで発生したモンスターを貴女が取り逃がしたときのためのものだ。」

「私が取り逃がす程のモンスターを、貧弱冒険者が止められるわけがないでしょう。」


意外なことに、反論は上がらなかった。

貧弱冒険者というのは思うところがあったかも知れないが、私が取り逃がす程のモンスターを、自分たちでは止められない事はわかっているらしい。


「それに、これはスタンピードじゃないって、私と管理局が言ってたでしょ?」

「じゃあ、あの魔力波は何だったのだ?」

「それは、もうすぐ分かるって言ってるでしょ?」


まったく…どうしてこんなにもせっかちなんだか?

ん?


「魔力波が弱まって…」

「魔力が漏れ出てる事に気付いたか…もうすぐ出てきそうだね。」


私は、面白そうに笑っているけど、冒険者やマスコミは警戒してるらしい。

きっと、とんでもない化け物が出てくるとでも思ってるんだろうな〜

そして、魔力波がかなり微弱なものになった頃、ダンジョンから、人影が現れた。


「やっぱり君だったか。」

「え?」


ダンジョンから出てきた人物は、数百人の冒険者と大量のマスコミを見て驚いている。


「白神さん?」


後ろから、誰かが声を上げた。

少し前に、合法人殺しで有名になった人物だ。

転移トラップで飛ばされた報道陣を助け、その時にもう助からない人をカメラの前で殺したのだ。

そのことで、大炎上。

合法人殺しで、時の有名人になったものの、親友の熱烈な弁明によって、合法人殺しはメディアの誇張であったことや、恩知らずとしてメディア側が炎上することになり少しずつ話題に上がらなくなった。


「これは…なんの集まりですか?」

「このダンジョンから、大災害レベルの魔力波が検出されてね、何が起こるんだ!?って集まってきたんだよ。」

「そうなのですか…」


ふ〜ん?

しらを切るつもりか…

どうやって、自白させようかな〜?

そんなことを考えていると、


「さっきの魔力波は、お前のものだったのか?」

「お前…」

「ああ、君のものだったのか?」


流石にその物言いは失礼だと思うな〜

それに、一冒険者だと思って見下してるんじゃ…


「どうしてそう思われるのですか?」

「検査機が示す魔力波の元が、君だからだよ。」

「壊れてるんじゃないですか?」

「どうだろうね?それよりも、転移魔法が使えて、千代田ダンジョンに八十階層まで潜っている。それどころか、君の記録は嘘だらけだ、ちょっと、話を聞きたいんだが?」


周囲がざわつき出す。

そうだよね、記録が嘘だらけ…つまり、カードの内容が改ざんされているということ。

偽りの内容で冒険者を続けていたのだ。


「改ざんを行ったのは誰だ?」


組合長は、嫌味ったらしく質問する。

こいつ、殺されるんじゃ?


「一条さん。」

「なっ!?」


カードの改ざんを行える人物で、一条と言われると一人しか居ない。


「そうか…どうりで見つけられないわけだ。」

「は?」

「管理局に守られていたのか…いや、それどころか、国家ぐるみで存在を隠蔽されていたのね。」

「お前…何者だ?」


それで、冒険者のデータベースを見ても見つからないわけだ。

管理局によって、カードが改ざんされ。

国によって、個人的な情報は隠蔽される。

いくら私といえど、情報が無ければ見つけられない。


「それで?自分から言う気はないの?」

「なんのことですか?私がなにかしたとでも言いたいのですか?」

「ふ〜ん?私が誰だか知ってるよね?」

「緋神彩。日本の昇華者ですよね?」

「よく分かってるじゃん。貴女の正体はもう分かってるの、他人にバラされるのは嫌でしょ?だから、白状しなよ。」


まるで、白神天音がなにかしたような言い方だね。

周りの視線も鋭くなってるし。


「私は別に…」

「じゃあ、私が当ててあげようか?」

「それは…」

「ハァ…」


まったく、いつまでもうじうじと…もっと強気になれよ。

仕方ない、


「何を怖がる事があるんだか…」

「怖がってませんけど?」

「じゃあ、自分で言えば良かったのに。」

「え?」

「もう遅い。どうしてこんなことも言えないのかな?新たなる昇華者・白神天音。」


あーあ、言っちゃった。

自分で言えば良かったのに。


「しょ、しょしょ、昇華者!?」

「ワ〜ヲ、百点満点の小物の台詞。」

「そんな…こいつが昇華者?そんなわけ…「何?」ひっ!」

「それはさ、私の目を節穴だって言ってるようなものだよ?それでも違うって言うの?」

「も、申し訳ございません!!」

「謝る相手が違うでしょう?」


ハァ…この小物が騒いだせいで、周りまで騒がしくなってきたじゃん。

ん?


「よし、全員揃ったみたいだし、私達も行こっか?」

「どこに?」

「昇華者が集まる場所だよ。案内してあげる。」


私は、白神天音の手を引いて転移魔法を発動した。


















「ここは…」


案内された場所は、幻想的で不思議な世界だった。


「ようこそ、昇華者の世界へ。」


緋神彩が、振り向いてそう言ってくる。

見れば、椅子が並べられていて、世界の昇華者達が揃っていた。


「神界語は話せるよね?」

「神界語?あー、あの言語ね。」


オーブの中にあった情報の中に、二つの言語が入っていた。

それが、天使語と神界語。

天使ヘ昇華した私が、天使の言葉を話せるようにするための、天使語。

基本的に何処でも使える神界語。

もちろん、神界語が話せるのは一部の存在だけで、異世界の人間に神界語で話しかけても『は?』ってなる。

ただ、どこの世界でもこの言葉は使われているので、そいつを通訳にして話せる。

今は、全員覚えてることをいい事に、ここでの共通語にしてるみたいだけど。


「おいで、君の席はこっちだ。」


私は、緋神彩に連れられて、一つの浮島に着く。

そこには、質素な椅子が一つ置かれているだけだった。


「この浮島は、君のものだから好きに形を変えられるよ?」

「どうやって?」

「魔力を流して理想の席を想像するんだよ。」


いざ、試してみると、簡単にできてしまった。

私は、全体的に氷で出来た椅子を作る。

低反発のフカフカクッション付の素晴らしい椅子を作り上げる。


「出来たみたいだね。それじゃあ、始めようか。」


聞き慣れない言葉で質問してくる緋神彩。

神界語だ。

緋神彩も自分ので席に戻り、こっちを見てくる。


「じゃあ、自己紹介から始めようか。私が最初でいいかな?」


皆頷いている。


「それじゃあ、『悪魔』に昇華した『緋神 彩』だよ。一番馴染みがあるかな?」


日本の昇華者だからね。

他の昇華者に比べて良く知ってる。


「では、私も。『エルフ』に昇華した、『フレディ・アンダーソン』です。イギリスの昇華者ですね。」 


物静かそうで、顔の整った若い男性。

流石エルフ、めっちゃイケメン。


「次私ね~『吸血鬼』に昇華した、『アンナ・フローシュ』だよ〜。ルーマニアだね〜」


ルーマニア…一瞬舌なめずりしてたように見えたのは気のせい?


「次は俺がしよう。『人狼』に昇華した、『ハンス・クーリッヒ』だ。ドイツの昇華者だな。」


ドイツ…ソーセージ食べてそう。


「じゃあ俺がやらせてもらう。『鬼』に昇華した、『ロハン・カーン』だ。インドの昇華者だ。」


インドか…阿修羅とかかな?

というか、インドってヒンドゥー教のイメージがあるんだけど、どうなんだろう?

でも、仏教の始まりはインドって、聞いたことがあるから、それかな?


「次は私ね。『人魚』に昇華した、『アイナ・コソラ』よ。フィンランドの昇華者だよ。」


フィンランド?北欧神話かな?

でも、よくイメージする人魚って西洋のイメージだからおかしくはないか。


「じゃあ俺がしよう。『インキュバス』に昇華した、『ユン・インソン』だ。韓国の昇華者だ。」


インキュバス…通りで変な気配を放ってるわけだ。

おそらく、魅力系のオーラでも放ってるのかな?

そして、韓国の昇華者ねぇ?

…整形じゃないよね?


「次私ね。『ハーピー』に昇華した、『クレア・コックス』よ。オーストラリアの昇華者だよ。」


オーストラリアか…

牛と鉄鉱石のイメージしか出てこないんだけど、私殺されないかな?


「次は私。『ラミア』に昇華した、『サラ・ロマーニ』だよ〜。イタリアの昇華者だね~。」


イタリアか〜、ピザって言ったら殺されるのかな?


「次は僕だね。『妖精』に昇華した、『リアム・ワット』だよ。カナダに住んでるだ〜」


取り繕ってるのかも知れないけど、めちゃくちゃ小さいんだけど?

小人よりも小さくね?

ネズミくらいのおおきさしかないんだけど…


「じゃあ、俺が行く。『ドワーフ』に昇華した、『デニス・ヤノフスキー』だ。名前で分かる通り、ロシアの昇華者だ。」


なんちゃらスキー、ってロシアぐらいだろうからね。

後は旧ソ連の構成国とか…


「次は俺だ!『巨人』に昇華した、『マイケル・ジョンソン』だ!アメリカの昇華者だぜ!!」


暑苦しい…

それよりも、巨人か…


「最後は私だな。『竜』に昇華した、『チェン 智勇ジヨン』だ。中国の昇華者だ。」


チェンを知らない奴は居ないだろう。

世界で最初に昇華者へ至り、世界最強と呼ばれる昇華者。

ひと目見ただけで分かった。

私では、相手にならないと…

チェンは、それほどの強者の風格を持っていた。


「じゃあ、私も自己紹介する。『天使』に昇華した、『白神天音』よ。新参だけどよろしく、」


一応警戒しておくか…

そして、私の警戒は正しかった事になる。


「天使だと?」


アメリカの昇華者、マイケルが睨みつけてきた。

キエーーーーーーーーーーーー!!!!!!

名前考えるのめんどくせーーーーーーーー!!!!!!

いちいち調べないとその国にあった名前がわからないから、一体何度Google先生を頼ったか…

ホントはアジア圏の昇華者がもっと多いはずなんだけど、アジアの名前独特過ぎて調べられん!!

あーあ、二度とこんな事しねー!!

というか頼まれてもやるつもり無い!!

疲れた…

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