表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/93

昇華

「そう言えば、この術に名前ってあるの?」


これほどの大技に名前がないのは変だ。


「無いよ?」


無いのかよ…


「じゃあ私が決めていい?」

「いいけど?」


よし、これほどの大技に命名する機会は、滅多にない。

ふさわしい名前を考えないと!

でも、もう決めてるんだよね。


「『銀世界』とかどう?」

「一面に、雪が降り積もった光景のことだよね?」

「そうだね。この技は、全てを凍り付かせる技だよね?天界が、凍り付く様を見て、これを思い付いたんだよね。」


雪が降るわけじゃないけど、辺り一面が凍り付くこの技に、ピッタリな名前だと思う。

ラフィエルには言えないけど、天界が凍り付く様を見た私が感じたことは、『美しい』だった。

全てが冷気に呑まれていく様子は、とても幻想的で神秘的だった。


「わかったわ。それじゃあ、剣を上に投げて。」

「剣を上に?こう?」


私が十字剣を投げるのと同時に、ラフィエルも十字剣を投げた。

そして、術が発動する。


「うっ!?」


あまりの冷気の強さに、私は一歩下がってしまった。

その時、ラフィエルの寂しそうな顔が見えた。


「心配しないでラフィエル。私は絶対負けないから。」

「うん、信じてる。」


誰かのために行動することは素晴らしいね。

私の冷気無効を貫いて、身体を蝕む『銀世界』の冷気。

今でも苦しいけど、私はこれに負ける気がしなかった。


「大丈夫?」


ラフィエルは、かき消えそうな声で私を心配してくれた。

本当は、こんな事しちゃいけないのだけれど、そう思う前に体が動いてた。


「大丈夫、私を信じて。」


私がラフィエルに触れる前に、理性が働いて、ラフィエルの手を握るだけに留まった。

ラフィエルの手は、氷のように冷たかった。

そして、


『合格だよ、天音。』

 

ラフィエルの声が、遠くなっていく。

私が限界を迎えてるのだろうか?

いや、そんなとこはなかった。


「ラフィエル…体が透けて…」


それどころか、色が抜け落ちて光の粒子へ変わり、上に昇ったあと消えていく。


『どうやら、世界が合格と判断したらしい。私の役目はここで終わりなんだって。』

「そんな…っ!?冷気が!!」


『銀世界』の冷気が、どんどん弱くなっていく。


『本当は、天音が私に打ち勝つ姿をこの目で見たかった…』

「なら!」

『私じゃあ、世界の力に敵わないんだよ。だから、ここでお別れだよ。』

「そんな…」


まだ、しっかりお礼を言うどころか、ラフィエルに勝ってすらいないのに…

なら!!


















「天音?」


天音は、私に背を向けて走り出した。

そして、二本の十字剣を持ってくる。


『どうせ消えるなら、せめて最後に決着を着けさせて!!』


声は、遠くなっていく一方だったけど、この言葉ははっきりと聞こえた。

天音は、剣を差し出してくる。

私は、それを受け取って、構える。


「行くよ」


この言葉が聞こえたかは分からないでも、天音は頷いてくれた。

私は、唇が歪むのが分かった。

しかし、すぐに気合いを入れ直して、天音に向かって飛ぶ。

すると、天音も飛行の術を使って飛んでくる。

その翼は、天使の持つものとそっくりだった。


『ーー!!』


もう、なんと言っているかも分からない。

でも、やることは決まっている。


「はあっ!!」


私は、持てる力を全て込めて、剣を振り下ろした。









甲高い金属音の後に聞こえてきたのは、ナニカが倒れる音だった。







骨すら残っていない。

私は、頬に一筋の氷の線が出来るのを感じた。

それを、不快に思いすぐに手で振り払うが、すぐに新しい氷の線が出来る。

私は、地面に転がっている十字剣を拾う。

その十字剣に、今度は小粒ほどの氷が幾つも落ちてくる。








甲高い金属音の後に聞こえてきたのは、ナニカが倒れる音。

その後に聞こえてきたのは、誰かの悲痛な泣き声だった。



















「ここは?」


一人の天使が目を覚ます。

そこは、まるで一面に美しい星空を貼り付けた様な世界だった。


『お疲れ様』


どこから聞こえてきたのか、まったく分からない声が聞こえてくる。

頭に直接言葉を掛けられているのではない。

どこからか、聞こえてきたのは確かなのに、どこから聞こえてきたのかが、まったく分からない。


「…報酬は?」


私は、この声に心当たりがあった。

私に昇華者を育てる事を提案してきた神。

あの神の声だ。


『もちろん用意しているよ。私の分神が連れて行くから、ちょっと待っててね?』


すると、一匹の蝶が現れて、魂を運んできた。


『記憶保護はしてあるけど、要望があれば肉体も復活させてあげるよ?どうする?』


そんなの、答えは決まっている。


「お願い。あと、私達を受け入れてくれる世界へ案内して。」


私は、追加で注文した。

それくらいしてもいいくらいの仕事をした。

流石に、これくらいの報酬は欲しい。


『いいよ?じゃあ、完全な復活と幸せな暮らしが出来る世界への案内でいいんだね?』

「それでいい。私は、あの人と、あの人との間に生まれた子供と幸せな暮らしをしたい。」

『わかってるよ。じゃあ、転移させるね。』


視界が光に包まれ、気付けば雄大な自然を一望出来る山にいた。

私の隣には、全盛期の力を持った愛しき人がいた。






「ただいま。」

「お帰りなさい。ご飯出来てるよ。」


数年後、旦那は人に化けてある国の騎士になり、収入を得ていた。

今、私のお腹の中には新しい命が居る。

どうやら、あの神の粋な計らいによって、私がしてきたことは、全て知っていたらしい。

最初は、天使を皆殺しにしてしまったことを叱られた。

けど、死んでいった天使よりも、私のことを優先してくれた。


「体の調子はどうだ?」

「問題ないわ。それに、もうすぐ生まれそうなの。」

「そうか。もし、何かあったら教えてくれ。陛下にも、突然抜けるかも知れない事は伝えてある。」


やっぱり、私の旦那は頼りになる。

この人を選んで本当に良かった。

私は、これ以上ない幸せを感じながら、新しい命が生まれるのを待った。

天音、こっちは元気だよ?

私は、天音が幸せに暮らせるように願ってるから。














「う、うん〜?」


いつの間にか眠っていたらしい。

…ここ、マグロの冷凍庫並に寒いんだけど?

冷気無効が無かったら、私死んでるよ?

馬鹿なんじゃないの?


「ん?」


私は、背中に変なものがあるのを、感覚的に感じた。

何処で入れたのか分からないけど、何故か空間収納に入っていた姿見を取り出す。


「え?」


そこに写っていた私の姿は、まるで別人のようだったから。

黒髪はクリーム色の長髪に、目は青と黄金のオッドアイ、肌はアルビノのように白く、まるで雪のようだった。

それよりも、


「純白の翼に、頭の上の黄金に輝く環…」


その姿は、まるでラフィエルのようだった。

そう、私はついに天使へ昇華したのだ。


「そうか、さっき寝てたのは、『進化の眠り』ならぬ、『昇華の眠り』的なあれだっのかな?」


だとしても、この冷凍庫で眠るのは馬鹿だと思う。

そんなことは、どうでも良くてね?

問題はこの姿をどうするか何だよね?


「流石に天使の姿で、人前に出たら目立つよね…」


目立つなんて話じゃない。

世間どころか、世界的にこの話で盛り上がると思う。

でも、昇華者は普通に人の姿をしてる。

つまり、人に化ける方法があるに違いない。


「この先に、オーブでもあるのかな?」


私は、いつの間にか開いていた扉の方を見る。

そして、その奥に何かあるのが見えた。

近づいてみると、それは巨大なオーブだった。


「これ、触れて大丈夫なのかな?」


こんなに大きいオーブ、一体どれだけの激痛を味わう事になるのだろうか?

私が、恐る恐るオーブにふれると、一気に情報が流れ込んできた。


「ああ、あああ、ああああああああああ!?」


この世のものとは思えない様な激痛が、私の魂に襲い掛かってきた。

オーブの情報は、魂の記憶領域に直接流れ込んでくる。

魂の痛みというのは、肉体のあらゆる苦痛の比ではない。

よく、出産の痛みは、鼻からスイカを出すようなものと言われるけど、魂の痛みは形容し難い苦痛だ。

表現が出来ない、そんな桁外れの苦痛。


「いつまで…続くのよ…」


一般的なオーブは3秒ほどで終わるが、このオーブは既に30秒は経ってる。

一体、いつになったらこの苦痛から、開放されるのか…

私はそんなことを考えながら、ひたすら耐え続けた。

















東京ダンジョン災害観測施設


ダンジョンの災害をいち早く感知するための施設で、主にスタンピード発生の観測をしている施設だ。

そんな施設で、警報が鳴り響いていた。


「状況は?」

「変な状態です。とんでもない魔力を検出したことに変わりはありませんが、モンスターの生体反応が通常時とまったく変化がありません。」

「妙だな、強力な個体が出現すれば、モンスターは逃げ出す。それに、モンスターの群れが出現すれば、それを感知するはず。一体何が…」


突然の出来事に、職員は皆混乱していた。

こんな数値見たことないからだ。

もし、これがスタンピードであれば、昇華者が出てくるような大災害になる。

それを知っているからこそ、『もうダメだ…』なんて言い出す者まで現れていた。


「コレは、災害じゃないから安心して。」

「緋神さん!?」


職員の視線が一気に集まってくる。

日本の昇華者である、緋神彩が現れたのだ、誰だって注目する。


「災害じゃないというのは、どういうことでしょうか?」

「新しい強者が現れただけだよ。気にしないで、私が行ってくるから。」


そして、緋神は転移で件のダンジョンに向った。


「新しい仲間、一体どんな奴かな?」


その声は、どことなく楽しそうだった。



ついに…ついに天音を昇華者に出来た!

これで、ようやく話の舞台が広がる…

それと、ラフィエルに契約を提示した神、私の別の小説を読んで頂いている方なら、気付いていたかも知れませんね。

…ここでも、既に書いてたかな?

書いたことを全部覚えてるわけじゃないので、既にこの小説でも出てきてるかも知れませんね。

出てきてたらごめんなさいm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ