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取材と不毛な争い

間に合った…

「白神先輩、大丈夫かな?」

「大丈夫だと思うよ?天音の精神力はすごいからね。」

「確かに先輩が本気で動揺してるところなんて、見たことないけど…」

「でしょ?だから、きっと大丈夫だよ。」


それでも、気になってしまう。

だって、テレビの前で堂々と人殺しをしてたからね。

確かに、あれはどうしょうもなくて、彼を殺すことが最善の策だった。

でも、躊躇いなく殺したのがまずかった。


「すいません、関東テレビの者なんですけど。お時間いただけないでしょうか?」

「私はいいですけど…「私もいいよ?」じゃあ、大丈夫ですよ?」

「ありがとうございます。このあと取材したいんですが…」


取材か…親友って事で、私達にどう思ってるか聞きたいのかな?

と言っても、先輩を擁護するような事しか言わないけど…

それで、少しでも先輩への印象が変わるといいんだけど…





カメラが回り、カンペが出される。


『白神さんは、どんな方でしたか?』


どんな方…


「天音は、ちょっと変わった人だったね。なんと言うか、人に興味がないというか、なんとも思ってないというか…身近な人が死んでも、親しい人じゃないと、親戚でも悲しまなそうな印象があったね。」


確かに…あの人は、人の幸も不幸も、どうでもいいって感じの人だった。


「私は…そうですね、優しくしてもらってたので、そこまで変には感じませんでした。…ただ、確かに他人にとことん興味がない、って雰囲気がありましたね。」


私がコメントすると、カンペが一枚めくられる。


『白神さんが彼を殺したことについては、どう思われますか?』


もうその質問か…


「いつか殺さないといけないとはいえ、カメラの前でやったのはまずかったと思いますね。ただ、あれは必要なことだったので、しょうがないと思ってます。」


私と、ほとんど同じだ…

なんて言おう…


「私もほとんど同じですね。もしかしたら、急なことで、先輩も焦ってたのかも知れませんね。私もキノコについて調べたんですけど、本当に助からないみたいなので、胞子を外に持ち出さないためにも、あれは仕方なかったと思います。」


その後も、いくつかの質問があった。

中には、そんなこと聞いて、どうしたいんだろう?という内容の質問もあった。

そして、


『最後の質問です。白神さんは今後どうされるべきだと思いますか?』


は?


「なんですかそれ?失礼じゃないですか?」


流石に香織も黙ってられなかったらしい。


「確かに、天音は炎上してますけど、天音が何をしようと天音の勝手じゃないですか?それに、胞子に侵され、死体を持ち帰ることも難しかった彼を連れて帰ってこれたのは、天音のおかげなんですよ?」


その通りだ。

それにもう一つ大切なことがある。


「もし、あそこに白神先輩が行ってなかったら、あそこにいた人はみんな死んでたかも知れないんですよ?彼等にとって、白神先輩は命の恩人なんですよ?取り上げられてないだけかも知れませんけど、彼等の感謝の言葉を聞いたことないんですけど、そこはどうなんですか?」


今世間は、先輩の批判で溢れている。

人を殺しておいて、どうして罪に問われないんだ!

しかし、それ以上に先輩は人を助けてる。

千代田ダンジョンの八十階層に飛ばされて、死者が一人というのはあまりにも少ない。

それもこれも、先輩のお陰なのだ。

それなのに、


「確かに、先輩は助けるためとはいえ、人を殺しました。しかし、それ以上に先輩は人を助けてるんですよ?悪い面だけ報道して、良い面は報道しないって、どういうことなんですか?それ、下手したら名誉毀損になるかも知れませんよ?情報を発信する立場にいるなら、正確な情報を包み隠さず全て報道してくださいよ。」

「断片的な情報を流して、天音を貶めて…自殺でもさせたいんですか?それとも、国民全員で天音をイジメたいんですか?話を盛り上げる為に情報を断片的にして、結果その人が自殺したら、それは殺人と変わりませんよ?周囲に被害を出さないために、苦肉の選択をした天音と比べて、あなた達はどうなのですか?」


私達の剣幕に押されて、カメラマンは撮影を中止した。

きっと、編集でこのシーンはカットされるだろう。

結局、先輩を救えなかったかも知れない…

しかし、私の心配は徒労となった。

あの取材が、ネットにライブ配信されていたのだ。

そして、関東テレビは大炎上。

それだけでなく、先輩を悪者扱いしたテレビ局は、全て炎上し、謝罪会見を開くほどになった。

白神さんが人を殺した事に変わりはない!!

そう先輩を批判する声ももちろんある。

それでも、世間的に『仕方なかった』が浸透し、その声も少なくなっていった。


「今日も電話は繋がりませんね。」

「どこかへ転移して行ったきり、帰ってきてないらしいよ?」


自殺…流石にそれはないか。


「もしかして、試練の界に居るんじゃないの?」

「え?」

「ほら、最近天音かなり強くなったでしょ?隠してるだけで、昇華者になれるくらいには強くなったんじゃないの?」

「確かに…イギリスの昇華者が、最終試練を突破するのに、一週間かかったってあったね。」


確か、数々の試練を越えて、次の試練へ挑むために休憩することが多々あったらしい。

きっと、先輩もそれで時間がかかってるんだろう。


「次に先輩と会うときは、昇華者になってるかも知れませんね。」

「そうね。いつの間にか強くなってるからね。」


そんな話をしながら、先輩が帰ってくるのを待っていた。


















「「ハァ…ハァ…」」

「息が…あがってる…じゃん…ハァ…もう…年なんじゃ…ないの?」

「うるさい…わね…フゥ…ガキのくせに…体力無い…のね。」


何故か、時間を知りたいと思うと、視界のどこかに時計が現れて、現在時刻が分かる。

かれこれ、丸一日は戦ってる。

時間が経つに連れて、どうすればラフィエルに大ダメージを与えられるか考えるうちに、神氷対策がいくらか出来るようになった。

もちろん、ラフィエルも凍結支配の対策をしてきてる。

それでも、凍結支配はかなり強力で、ちょっとやそっとの対策では、大した効果がない。

そして、与えるダメージは私の方が多い。

その結果、魔力の消耗量は同じくらいの割合になっている。

この状態が続けば、最後まで勝敗が分からなくなる。

それは、非常に良くない。


「天音、私達くらいの強さになってくると、どちらが先に魔力等のエネルギーを使い果たすかの勝負になるの。怪我は、魔力の続く限り治せるからね。」

「その結果、なかなか死なないから、こんな不毛な争いになるのね。ひたすら面倒くさいね。」

「じゃあ、その場から動かないでね。」


すると、ラフィエルが首に向けて剣を振り下ろしてきた。

私は、当選回避する。


「どうして避けるの?せっかく面倒くさいことを終わらせてあげようと思ったのに。」

「逆に、どうして避けないと思ったの?私は、昇華者になるために死ねない。貴女も長く生きてるなら、このくらいの気持ち、感じたことあるでしょ?」


私もラフィエルに斬り掛かり、鍔迫り合いになる。


「私は、疲れたであろうクソガキを休ませてあげるために、善意でやってあげたのに、その言い方は何?」

「年老いて、自分が疲れて休みたいからやったんでしょ?貴女みたいなクソ老害に優しくしてもらうつもりはない。」


お互い、全力で相手の剣を押す。

魔力操作にもなれて、ラフィエルと同じ腕力を出せるようになった。

その結果、鍔迫り合いで互角に戦えるようになった。

しかし、新しい問題も生まれた。


「これ4回目だよ?いい加減離れてくれない?」

「そっちが離れなさい。私のことを散々老害って呼ぶんだもの。当然若者が引いてくれるのよね?」

「そんなわけ無いでしょ?老害なんだから、若者に席を譲って死ね、って私は言ってるの。だから、老害が引いてよね?」


天使は誇り高き種族。

その分プライドも高い。

そして、くだらない維持を張り合って、どっちが先に鍔迫り合いを辞めるかで、小一時間くらいこの状態が続く。

もちろん、その間ずっと相手を罵ってる。

正直、ただただ体力と魔力を消耗するだけの無駄な時間だ。


「腹でも蹴って、私のことを無理矢理離れさせたら?」

「じゃあ、天音がそれをしたら?」

「このプライドのぶつかり合いで、そんな無粋なことするわけないでしょ?」


これが、小一時間続くのだ。

時間も体力も魔力も精神も無駄に消耗する、最悪な状況だ。

ちなみに、離れるときは、お互い体力が切れて腕に力が入らなくなった時で、本当に阿呆らしいしか感想が湧いてこない。


「また腕が動かなくなるまで続けるの?これなら、殴り合ってる方がマシなんだけど?」


一度、鍔迫り合いのせいで腕が動かなくなって、剣を落とした事があった。

その時、私が間髪入れずに殴りかかり、それが気に入らなかったのか、ラフィエルの剣を捨てて殴りかかってきた。

そして、しばらくこれまた不毛な争いが続いた。


「貴女がまた剣を落としたら付き合ってあげる。」


つまり、私次第と…鍔迫り合いば辞めないけどね?

そして、また小一時間続いた。


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