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最終試練

「候補者 白神天音。」


ラフィエルが話しかけてきた。


「最後の試練を、私がつけてやる。力を示せ。」


そう言って、ラフィエルは十字剣を取り出した。

それも、一本だけ。

もう一本は、私の手の中にある。


「わかった……天使ラフィエル、貴女を倒し、私は昇華者になる!!」

「来なさい、未来ある小娘よ。」


私は、地を蹴って、ラフィエルに突っ込んだ。

















「くうっ!?」

「与えられた力に振りまわされているぞ。天音。」


私は、迫りくる剣を躱しながら、反撃のチャンスを見計らっていた。

技術、経験、魔力、筋力。

全てにおいて、私はラフィエルに劣っている。

一つ、勝っている物があるとすれば、凍結支配だろう。

もちろん、ラフィエルも冷気系の能力を持っている。

けど、大した力を感じないし、ほとんど使っていない。

ラフィエルには、神氷がある。

神氷の前には、凍結支配以外の冷気系能力は、劣化能力でしかない。

私は、神氷の下位互換、天氷しか使えない。

代わりに、凍結支配がある。

凍結支配を使えば、勝機はある!


「なっ!?」

「変わった結界ね?でも、それでは私を止められないわよ?」

「馬鹿な…どうやって、停止結界を…」

「どうやって?神氷を使えば、その程度の結界、簡単に砕けるわよ?」


甘かった…

未完成な凍結支配を過信しすぎた…

手に入れたばかりの凍結支配では、ラフィエルの神氷には対抗出来ない…


「教育あってこその試練。天音、強者同士の戦いでは、魔力の練度で勝敗が決まる。能力など、所詮手札を作るための準備手段でしかない。」

「魔力の練度?」

「そうよ。どんな能力を扱うにしても、魔力が必要になる。そして、その魔力の練度が高ければ、能力自体の強さも引き立たせる事が出来る。一回縫い付けるのと、三回縫い付けるのでは、三回の方が固く縫えているでしょう?」


なるほど、魔力の練度か…

魔力は、扱う人によって、強さが大きく変わる。

その理由は、魔力の練度にあったのか…

私の魔力は、そこまで練っていない。

普段から魔力を練り、練度を高めることで、魔力は真の力を発揮するのか…


「それに…貴女は全体的に中途半端ね。」

「…」

「きっと、格上と戦う機会が少なかったんでしょうね。自分の持っている力に対して、扱えている力が少なすぎる。素振りなんて、したことないでしょう?」

「…」

「図星ね…それだから、全盛期に遠く及ばない私にすら敵わない。」


その通り過ぎて、笑えてくる。

格上と戦う?

勝てない相手と戦わないとか言って、逃げてきた。

扱える力が少ない?

新しいことに挑戦してこなかったせいで、技をほとんど持ってない。

素振り?

技術があるから、そんなことしなくていいと思ってた。

私は、私が拒絶したあの仕組みに頼り切っていた。

あの仕組みによって手に入れた、借り物の力で一人前になったと勘違いしていた。

なんと、愚かな事だろう。

そのせいで、今、ラフィエルに手も足も出ない状態になっている。


「それなら…」 

 

私は、侵氷を放ち、停止の力も乗せる。

すると、ラフィエルは、風を起こして氷を押し返してきた。

それは別にいい。


「目くらましか?魔力で位置が丸わかりだぞ?」

「隠れるつもりはないからね!」


収穫はあった。

ラフィエルに、凍結支配が効かないわけじゃない。

侵氷は、最初の方に一度使っている。

その時は、凍結支配を使っていなかった。

そして、弾き返すどころか、防御もしていなかった。 

ラフィエルには、冷気が効かない。

しかし、凍結支配を乗せた侵氷は弾き返してきた。

つまり、ラフィエルは凍結支配を警戒している!


「私が、凍結支配を警戒していると踏んで、近接戦闘を挑みに来たか?」

「遠距離で私に勝ち目はないからね!どうせなら、近くで確実に当てる。防御しきれないほどね!!」


さっき停止結界を砕かれたのは、神氷で停止の力を弱められたから。

今の停止結界は、結界に停止の力を乗せてるだけ。

つまり、メッキをしてるようなもの。

停止の力を弱めれば、ただの結界になる。

だから、停止結界を砕かれたんだろう。

つまり、凍結支配は神氷で中和される。

そう、“中和”なんだよね。

神氷での中和は、あくまで効力を弱める程度。

中和しきれないほどの停止をぶつければ、ラフィエルにダメージを与えられる。

それに、有効打を与えられそうな技もある。

それが、『死氷剣・凍殺』だ。

停止の冷気を、ラフィエルの体内に直接流し込む。

ある程度中和されるにしても、体内で中和するのには限界がある。


「くっ!」

「へえ?ようやく、その氷の仮面を取ってくれるのかな?」

「一発当てたくらいで…いい気になるなよ小娘!!」


ラフィエルの攻撃が苛烈になる。

神氷を扱う、氷使いの天使であるラフィエルは、冷気攻撃の脅威をよくわかってるんだろうね。

冷気は、まるで毒のように体を蝕んでいく。

そして、最後には抵抗する体力すら奪われ、一方的にやられる。

凍結支配の冷気は特別なのか、ラフィエルの冷気無効を貫通するらしい。


「いっ!?」

「戦闘中に考え事とは…ずいぶん余裕そうね?」


余計なことを考えたせいで、ラフィエルの斬撃を食らってしまった。

そして、私が離れるより先に、ラフィエルの十字剣が私の腹を抉る。


「戦闘中は、一瞬の判断ミスが勝敗に直結する。覚えておくといいわ。」

「えぇ…まったくその通りね…」

「?」


気づいてないのか…


「判断ミスをしたのは、私だけじゃないよ。貴女もそうなんだよ、ラフィエル!」


私は、ラフィエルの腕を掴む。

腹を抉ったあと、すぐに剣を抜かなかった、それは、私に反撃のチャンスをくれた。


「しまった!?」

「やっと氷の仮面が剥がれたね!!」

「チッ!小娘が!!」


ラフィエルは、私の腕を振りほどこうと暴れるがもう遅い。

私は、停止の冷気を十字剣に込める。

ここで欲張らない。

欲張って、逃げられたら意味がない。

私は、冷気を込めながら剣を振りかぶり、


「天使ハラワタって!どうなってるんだろうねええええぇぇぇ!!」

「離せ!小娘がああああああああああぁぁぁぁ!!」


私は、十字剣をラフィエルの腹に突き刺し、目一杯冷気を流し込んだ。

しかし、すぐにラフィエルに手を振りほどかれ、腹を蹴られて吹き飛ばされる。


「クソが、ゴフッ…小娘風情が、やってくれる…」

「ハァ…ハァ…抉ったうえに蹴るなんて…ぐぅ…傷口が開くじゃない…」


ラフィエルは、冷気にやられてかなりのダメージを負った。

私は、抉られたうえに体を無理矢理動かし、大声を出したうえ、蹴りも食らった。

傷口がかなり開いてしまった。


「だが、いい教訓になったわね。次はないわよ?」

「年寄りも学ぶことがあるのね?それに、その体でどうやって避けるの?」

「黙れクソガキ。お前とは潜ってきた修羅場の数が違うのよ。」

「流石老害だね。無駄に経験豊富で。」


私達の纏う空気がガラリと変わる。

それは、お互い明確な殺気を出しているからだろう。

今までは、ラフィエルが私に教育をしていただけ。

しかし、これからは教育ではなく実戦…本気の殺し合いが始まるのだ。

再生能力は無くとも、回復魔法に長ける天使である私達は、腹の傷などとっくの昔に癒えている。


「せいぜい死なないように気を付けることね。このクソガキが。」

「さっさと若者に席を譲って死ねよ、この老害。」


そして、未来を賭けた殺し合いが始まった。
















白神家前


「あら白神さん。」

「あ、日吉さん。」


天音の母、白神夏菜は買い物のために家を出たところで、近所に住む、日吉沙知に出会った。

日吉とは、中学時代仲の良かった友人で、よく一緒に帰ったりした。


「天音ちゃんがニュースになってたけど…あれ、本当?」

「本当だよ。天音は、仕方なかったって言ってるけど、もう少し色々出来たんじゃ、って思ってるの。」


天音の言っている事は、納得がいく。

彼はもう助からない。

彼を生き残らせていては、胞子を撒き散らす事になる。

彼は、キノコの苗床として、一生苦しむことになる。

それなら、いっそのこと殺して上げたほうがいい。

普通はそうならない。

普通、せめてもの救いを求めて、病院へ行ったりする。


「天音は、昔からどこか人とは違うと思ってたけど、その違和感の正体がこれだったなんて…」

「天音ちゃんを、この先も愛せる?」

「もちろん。それに、今この生活が出来てるのも天音のおかげだもの。」


天音は確かに人を殺した。

でも、それは仕方のない事だったから。

人より薄情でも、私には優しく接してくれていた。

いつも、『お父さんから守る!』って、言ってたからね。

そう言えば、あの人の死体を見たとき、明らかに誰かに殺されたような死に方だったような…


「にしても、あの一瞬で躊躇いなく首をはねるなんて…やっぱり、冒険者って殺すことに慣れてるのかな?」

「殺すことに慣れてる…?」

「そうだよ、ダンジョンでモンスターを倒してるうちに、慣れちゃったとか…」


殺すことに慣れてる…

確かに、あまりにも判断が早い。

まるで、手慣れてるように…

まさか、既に人を殺した事があるんじゃ…


「…」

「どうしたの?顔が真っ青だよ?」

「日吉さん、私の旦那が死んだって、知ってるよね?」

「知ってるけど…確か、例のスタンピードで亡くなったって…」

「旦那の死体を見たとき、まで刃物で腹を引き裂かれたようだったの…」


それを聞いて、日吉さんが顔をしかめる。

普通、そんなこと言われたそういう反応するよね…


「それで、その時旦那は、回復魔法が使える天音を連れて、ひと稼ぎしようって、出ていったの。」

「………まさかと思うけど、天音ちゃんが殺したとか言わないよね?」

「言いたくないけど、疑ってしまう自分がいるの…」


空気が一気に重くなる。


「天音ちゃんは?」

「ダンジョンに行くって、言ってたわ。それと、しばらく帰ってこないとも…」


天音が、ダンジョンで何をしてるかは分からない。

でも、分かることは、なにか大きなことをしようとしてることは分かる。

それこそ、私の人生にまで影響を及ぼすような…

しかし、それは天音が帰ってくるまでは分からない。


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