真なる試練
「めっちゃ燃えてるけど、大丈夫?」
「そんなのほっとけばいいよ。どうせそのうち鎮火するんだし。」
この前の取材のとき、適当に返事してヤバいこと言っちゃって、それが炎上してる。
家族には、このことは伝えてある。
すると、特に反応がなくて、びっくりした。
「変な噂とか広がってない?」
「広がってるけど、うちの家族は噂とか全然気にしない人だからさ。」
「なるほどね、ノーダメージと…」
家族全員が神経が図太いし、お金も私がいくらでも稼いでくるから、問題ない。
だから、多少陰口を言われても、まったく気にしないのが、白神クオリティー。
「ところで、試練の界の調子はどう?」
「次が、真なる試練なんだって。だから、それに備えて千代田ダンジョンでレベル上げしてる。」
「へえ〜?念には念を入れてってこと?」
「そう」
これで後顧の憂いを無くす。
千代田ダンジョンが、百三十階層型到達したら、西新宿ダンジョンでレベル上げしよう。
あそこなら、レベル上げがしやすいはず。
「じゃあ、行ってくるね。」
「いってらっしゃ~い。」
私は、転移で千代田ダンジョン百二十五階層まで飛んだ。
「ふぅ~、かなりあっさり百三十階層まで来ちゃった。」
私は今、百三十階層にいる。
五階層降るだけとはいえ、こんなに簡単に来れるとは思わなかった。
仕方ない、今から西新宿ダンジョンに行くか。
「あそこなら、少しは手応えがあるはず。」
そう、思っていた時期が、私にもありました。
現在、西新宿ダンジョン二十階層。
大した手応えを感じることなく、ここまでやってきてしまいました。
「うん、私も強くなった。」
多分、ノーライフキングが出てきても楽勝だと思う。
これなら、もう少しレベルを上げれば、十七階層も大丈夫なんじゃ…
よし、面倒くさいし今から十七階層に行くか!
ゴブリンダンジョンの試練の界がある部屋に転移した。
「転移で引き返す事が出来ない!?」
石板には、そう書いてあった。
どうしよう…転移阻害がかけられてるのか。
いや、それを含めての試練だ。
そう簡単に辞めていいものじゃない。
『試練へ進むか?』
「進むに決まってるでしょ?ここまで来て、甘えた事は言わない。」
『では、進むといい。』
そして、無駄に大きい扉が、ゴゴゴ、という重低音を響かせながら開いた。
扉の奥は、絶えず変色する、七色の転移門があった。
私は、その転移門へ向って歩き出した。
「…まずは、子供からか。」
視界が晴れてくると、そこには二メートルほどの巨人の子供が、数百体いた。
そして、そいつらからは、死の気配を感じなかった。
天氷は対策されている。
それどころか、この部屋は魔力が撹乱されている。
魔法は使えない。
「肉体能力と技術で戦え、って事か…」
魔力を練ることは出来るから、それで肉体と剣を強化して、残りは剣術で戦うしかない。
私は、巨人の子供数百体に向って、一歩踏み出したその時、
「天使ーー!!」
「コロスーー!!」
「ヤッツケルーー!!」
巨人の子供が先に襲ってきた。
子供と言うけど、二メートルを平気で超える巨体がある。
まったく可愛くないし、ただただ気持ち悪い
「一体ずつ潰さないと…」
私は、十字剣を構えると、地を蹴った。
私が本気で動けば、このくらいの距離なんて、あっという間に詰められる。
巨人との距離を、一瞬で詰めた私は、近くの巨人5体の首をはねる。
やっぱりというか、子供の巨人の首では、私の剣を止めることが出来ず、豆腐を切るように切り裂く事ができた。
「これなら、速攻で終わらせたほうがいいね。」
私は、そのまま巨人の首をはねながら、高速で駆け回った。
数百体の巨人は、三十秒程で全滅した。
「次の試練は、どこに行けばっ!?」
突然視界が白く染まり、どこかへ飛ばされる。
視界が戻って頃には、さっきと似たような光景が広がっていた。
「なるほどね、今度は五メートルくらいかな?」
五メートルほどの、子供の巨人が数百体いた。
つまり、少しずつ大きくしていくんだろう。
「ちょっと大きくなったくらいで、私に勝てると思わないことね!!」
私は、さっきと同じように巨人と距離を詰めて、首をはねながら高速で駆け回る。
「28……29……30!!よし、ピッタリ三十秒で殲滅完了。」
どうせ、これからも同じような感じだろうから、タイムアタックでもしようかな?
流石にそれは、試練を舐めすぎてるかな?
…まぁ、厳しくなるまではやっててもいいかな?
「次は…十メートルくらいか。」
この辺から、首を狙う事の難易度が跳ね上がる。
十メートルだよ?
高さ結構あるからね?
「これなら、飛行の術を使って攻撃したほうがいいかもね。」
私は、飛行の術なんて使って、飛び上がる。
相変わらず、巨人がなんか言ってるけど、聞く気はないからどうでもいい。
「今は、光でできた翼だけど、すぐに本物の翼に変えてみせる!」
天使への昇華は目前だ。
後は、最後の障害である、真なる試練を超えるだけ。
でも、まだまだ始まったばかり何だよね…
「そんなことを考えてる暇があるなら、行動したほうがいいか。」
私は、翼を広げて飛び立つ。
飛行の術があれば、身長差なんて関係ない。
どんな高さでも狙うことが出来るからね。
「ふーん、ショートケーキくらいの硬さはあるかな?」
十メートル巨人の首をはねた感想がこれ。
豆腐よりは硬いけど、全然余裕で切れる。
それよりも、本当にタイムアタックしないと不味いかも。
「魔法阻害のせいで、魔力の消耗が…」
飛行の術も、魔法の一つだから、阻害の対象になってしまう。
今は、無理矢理発動してるけど、それはかなり魔力の消耗が激しい。
傾斜のキツイ坂道を、自転車で駆け上がるようなもの。
そんなことすれば、めちゃくちゃ疲れる。
それと同じで、逆境で無理矢理力を使えば消耗が激しくなるって事だよ。
「こいつで最後…ふぅ、十メートルでもこれだけ魔力を消費するって考えると、結構不味いかも。」
魔力が回復するまで休みたいところだけど、待ってはくれないか…
また、視界が白く染まる。
そして、更に大きくなった巨人が、同じように並んでいた。
「ふふっ、これくらいなんてことないわ!!」
強がってみるけど、それで状況が良くなったりしない。
飛行の術を使わずに戦えば、体力をかなり消耗することになる。
これからも大きくなっていく一方なら、出来るだけ消耗は避けたい。
「かと言って、魔力を消耗しすぎるのも良くない…」
これから、どんな難敵が待っているか分からない以上、魔力には余裕を作っておきたい。
体力は、魔力で代用出来るからね。
「これは試練だ。楽な道なんてない、リスクを背負わないと試練を超えることは出来ない。」
なら、効率よくやるしかない。
常に飛行の術を使うのではなく、出来るだけ使わずに、巨人を足場にして戦う。
足場に出来そうな巨人が居ないときは、飛行の術で距離を詰める。
「これが、正しい攻略法かどうかは分からないけど、両極端にやるよりかはいいはず。」
私は、その方法で試練を次々と超えていった。
しかし、
「四つ腕が…こんなに…」
度重なる連戦で、体力も魔力も消耗した頃、四つ腕巨人が数百体いる部屋へ送られた。
相変わらずの魔法阻害。
氷華剣や死氷剣は、魔法の併用で使う技だ。
魔法阻害が掛かったこの部屋で技を使えば、本来の威力を出すには、どれだけの魔力が必要になるか…
「弱気になるな…心が弱れば、力がどんどん落ちていく。」
魔力等の力を扱うとき、精神力が強ければ強いほど、魔力等の力も強くなる。
逆に、心が弱れば精神力も弱くなり、魔力等の力も弱くなる。
そして、本来の力を出せないことに不満を覚え、また弱気になる。
心が弱るということは、その悪循環だ。
「私は、白神天音。天使に昇華する、未来の昇華者だぞ?こんなところで折れるほどヤワじゃない!!」
弱った心を、無理矢理奮い立たせた私は、十字剣に魔力を込めて、数百体の四つ腕巨人に突っ込んだ。
「ハァ…ハァ…倒したぞ、四つ腕の群れ。」
なんとか攻撃を食らうことなく、四つ腕を殲滅することが出来た。
しかし、その代償は大きかった。
剣を杖代わりにしないと立てないほどに、体力を消耗し。
魔力は、技を連発したことで、三割しか残っていない。
「まだあるの?」
視界が白く染まり、また別の部屋へ飛ばされる。
そこには…
「サイクロプスと…四つ腕と…六つ腕…」
数は変わっていないだろう。
でも、厄介な奴らが集まっている。
トロールが居ないだけマシだと思うけど、さっきとの試練から、難易度がどれほど上がった事か…
「ハハッ!!まだ立てる、魔力も三割も残ってる。私はまだまだ戦える!!」
そう、思わないとやっていけない。
普通に考えて、勝てるわけがない構図だ。
かろうじて怪我はしていないものの、満身創痍の私と、強敵三種が数百体。
それでも、昇華者へ至るためには、超えないといけない壁なんだ。
「天使、死ニカケ。」
「弱イ弱イ。」
「踏ミ潰ス。」
なんですって?
「デカいだけの脳無し共が舐め腐りやがって…天使を怒らせて、そんなに死にたいか?」
これほどの怒りを感じたのは、エリアエルが死んだ時以来だ。
私が弱いだと?
空を住まう天使を、地に這いつくばる巨人如きが踏み潰すだと?
「ふざけやがって…異世界からやってきた死に損ない共が…今すぐ私が地獄に送ってやるよ。」
私が、殺意を乗せた視線を巨人共に向けると、奴らは一歩後ろに下った。
こんな腰抜け共に、誇り高き天使が負けるはずがない…
負けていいはずがない!!
私の殺意に応えるように、魔力が今までに見たことないくらい綿密に練り上がる。
力が溢れ出してくる…
魂が震えている…
それは、恐怖ではない。
突如として世界へ現れ、魂を縛り付けた異常な世界の仕組みという鎖から解き放たれようと、藻掻いている。
レベルやスキルという、パワードスーツを付ける代わりに、本人の才能を封じた仕組みから解き放たれようと荒れ狂っている。
そのことを理解した時、言い表しようのない殺意が湧き上がってきた。
「全ては、どこの誰とも分からない神の掌の上から…他者を玩具としか見ないクソ野郎が…」
私は、お前の作った仕組みから抜け出してやるよ。
それがお望みなんだろ?
そして、膨れ上がった殺意は、私を縛り付けるシステムを破壊して、本来の力を解き放った。
私の、本来の力を…
「凍結支配『干渉凍結』」
私は今、この時をもって、世界の縛りから解放された。
システムは仮称です。
そのうち、本来の名前を出します。
……いつになるか分かんないけど。




