楽しい沖縄(日帰り)旅行………のはずが
「あの〜、香織、離れてくれない?」
「どうして?」
「七月だよ?もう夏なんだよ?そんなにベタベタくっつかれたら暑いんだけど…」
私は、矢野優花
現役JKです。
私は今、先輩兼彼女の、柊香織先輩がべったりくっついてきて物理的に暑いです。
よく、私達を見て、アツアツだねって言う人はいるけど、今は物理的に暑い。
最近、どういうわけか、私が浮気してると香織が勘違いした事で、ずーっと私の傍を離れようとしないという問題が発生してます。
誤解は解けてるんですけど、白神先輩にフラレた過去を持つ香織からしてみれば、恋人が離れていくのは恐怖でしかないとか…
ん?
「私じゃない…香織、電話なってるよ?」
「ハァ、いいところだったのに。…天音?」
どうやら、白神先輩からの電話のようです。
香織が、スピーカーで電話に出ます。
『もしもし?』
「聞こえてるよ、何のよう?」
『なんで怒って…もしかして?』
「違いますからね?香織先輩がやたらとくっついてきてただけです。決してそういう事をしてた訳では無いので!!」
最近、学校内で私と香織が毎晩楽しんでるなんて、根も葉もない噂が流れています。
そのせいで男共の目が嫌らしいんです。…一部の女子も。
白神先輩にまで、変な誤解されるなんてごめんです。
『あー、邪魔したかな?』
「違いますからね!?」
『そう?それはともかく、要件なんだけど、海か山にでも行かない?』
「「海か山?」」
『婚姻届はいつ出すの?』
「それ、今関係ないですよね!?」
まずい、白神先輩が余計なことを…
香織の方を見ると、満面の笑みでこっちを見ていた。
取り敢えずムカッときたので、頬をつねっておきました。
『ちょっと色々あってね、気持ちを落ち着かせる為に、しばらく休もうかなって…』
「天音?」
そういう白神先輩の声は、大事な人を失ったような、悲しみに溢れた声でした。
「じゃあ、せっかくの海水浴シーズンですし、海に行きません?ちょうど、二人で水着を買ったところなので。」
『へえ?今どこに居るの?』
「私の家ですよ?」
すると、電話の奥からゴソゴソという、何かを探してるような音が聞こえてきました。
私達は、顔を見合わせて首をかしげていました。
『あった…じゃあ、三秒でそっちに行くね。』
「え?三秒?」
プツリと電話が切れた後、急に光の玉が現れた。
そして、光の玉が閃光を放ち、中から海に行く準備が出来てる白神先輩が現れた。
「よし、ちょっきり三秒!」
「え?」
「は?」
「じゃあ、今から沖縄行こっか。」
はい?
あー、転移魔法か。
…転移魔法!?
「え!?先輩、転移魔法使えるんですか!?」
「私は、未来の昇華者だよ?転移魔法くらい使えるよ。」
「もしかして、前に噂になってた転移魔法って…」
「写真見てないの?」
「写真?あー、ネットに出回ってたあれですか。どおりでなんか見たことあるな〜、思ってたんですね。」
あの血だらけの人の写真、白神先輩だったのか。
先輩が血だらけになるって、相当だと思うんだけど…
「取り敢えず、水着あるんでしょ?荷物をまとめて沖縄に行こう。」
「私、家に置いてあるんだけど…」
「矢野ちゃんの準備が終わったら、香織の家に転移すればいいよ。」
転移魔法って便利だな〜
私も転移魔法が使えたら、移動が楽なのに。
白神先輩が待ってるし、水着の準備をしてこようかな?
「ちょっと水着取りに行ってきますね。」
「行ってらっしゃい、日焼け止めも持ってきた方がいいよ〜」
そうだった、海に行くなら日焼け止めは必須だからね。
沖縄か〜、まさかこんなに早く行けるなんて…
夏の旅行先は、北海道にしてもらおうかな?
私は、出来るだけ早く水着の準備をして、先輩達と沖縄に行った。
「流石に人が居るね。」
「穴場って訳じゃないみたいですね。」
「前に、テレビで紹介してるのを見たことあるよ?地元民おすすめの場所だって。」
私達は、白神先輩に連れられて着替えたあと、先輩がよく来るというビーチにやってきていた。
「にしても、二人共ずいぶんと攻めた水着だね?」
「かわいいでしょ?」
「ちょっと恥ずかいですけどね。」
やっぱり、いくつか視線を感じますね。
…白神先輩、肌白くない?
「先輩、その肌は…」
「これ?何故か白くなってきてるの。天使に近付いてる影響かな?って思ってる。」
「白い肌で、水色と白の水着って結構セクシーじゃない?」
「確かに…なんというか、色気を感じますね。」
「だよね、さっきから視線が鬱陶しいんだよね〜」
昇華者に近付いて、視線とか気配に敏感になってる先輩なら、ビーチで四方八方から見られるのは、不快なのかも。
というか、際どい水着なのに視線が少ないのって、白神先輩のお陰なのかな?
「さっ、泳ぎに行こう!」
「優花も行くでよね?」
「もちろん!」
私は、二人の先輩に連れられて、泳ぎに行こうとした時、
「お姉さん達、可愛いね。」
チャラい男に絡まれました。
うわっ、気持ち悪ッ!
男が舐め回すような視線を向けてきた。
すると、サッと香織が私の前に立って、私を守ってくれました。
「私の優花に、汚い視線を向けないでくれる?」
「はあ?…あー、百合カップルか。」
「だから?何かいけない事でも?」
「いいや、むしろいいくらいだ。」
コイツ…見れば見るほど不快な男ですね。
それに、コイツ魔力を操ってる…冒険者か。
「ねぇ?邪魔なんだけど?」
「いいじゃねえか、ちょっとくらい。」
「それじゃあ、その汚い棒をおろしてくれる?」
え?……………うわぁ
マジか…
ハァ…せっかくの沖縄旅行(日帰り)が台無しじゃないですか…最悪。
「白神先輩、もうそいつ公然わいせつで殴り飛ばしてください。」
「それしたら、私が捕まるんだけど?」
「いっそのこと殺してやって。」
「おいおい酷えなw」
ハァ…どうにかして、コイツを追い払わないと。
すると、
「公然わいせつで通報するぞ?」
「やってみろよw」
香織が通報をちらつかせるけど、コイツは動じない。
「ちょっといい?」
「ん?なんだ…」
すると、二人の姿がかき消える。
白神先輩が転移させたんだ。
どこに行ったんだろう?
「どこだよ…」
「千代田ダンジョン、七十階層だよ。ここには誰も来ない。安心して、貴方を処刑出来る。」
「は?」
そして、十字剣が男の腹に突き刺さる。
男は、ものの数秒で内側から凍り付いた。
「これだけ流し込めば十分でしょ?」
「…」
「うん、死んだね。」
そして、凍り付いた男を力いっぱい殴りつけた。
すると、男の体は氷を砕いたかのように、粉々になった。
「私達にさえ、手を出さなければこうならずに済んだのに。」
近くに、凶暴なモンスターの気配がする。
きっと、骨すら残さず食われることだろう。
天音は、凍り付いた肉片を一瞥して、転移で沖縄まで戻った。
「あ、帰ってきた。」
近くにあった屋台でソフトクリームを買って、二人で食べてたら、白神先輩が帰ってきた。
「さっきの男は?」
「適当にポイしてきた。」
「ふうん?」
水着で何処かに飛ばされるとか、めっちゃ可哀想。
そう他人事のように、ふんわりと考えていたとき、
「あれ多分殺してるよ。さっきの男。」
氷水をかけられた。
殺した?白神先輩が?
「天音ってさ、人を簡単に殺せる思考の持ち主だよ?」
「どういう…ことですか?」
「法律が、天音を縛っていたから分かりやすく殺してないけど、実際は、人を殺す事になんの抵抗も持ってないのよ。抵抗があるとすれば、警察に見つかったら面倒だからくらいだろうね。」
白神先輩は、そんなに危ない思考の持ち主なのか…待って、分かりやすく殺してない?
それって、既に殺したことがあるってことじゃ…
「二人共、ちょっとこっち来て。」
白神先輩に呼び出されてしまいました。
私は、死刑宣告を受けたように、手汗が止まりませんでした。
「誰にも話さないって、約束だったよね?」
「優花は信用できる。周りに言いふらしたりしないよ。」
香織は、私の知らない白神先輩の秘密を知っているみたい。
それも、あまり良くない事を…
「まぁ、矢野ちゃんなら信用できるね。」
そんな簡単に信用しないでほしい。
それって、私に人殺しの共犯者になれってことですよね?
「さっき香織から聞いたから、なんとなく分かるでしょ?」
「…はい。」
「私は、人を殺した事がある。」
「やっぱり…ですか。」
知ってしまった。
これで私も共犯者だ。
素直に警察に話せば、大丈夫かも知れないけど、それをしたら今度は白神先輩に殺される。
「ちなみに、誰を…」
「誰?それは…よく知らないかな。」
「見ず知らずの他人を殺したんですか!?」
「襲ってきたのは相手の方。私のは正当防衛。」
「結果殺したのなら、それは過剰防衛です!!」
白神先輩は、意味が分からないと言うような顔をしました。
そこで、理解しました。
この人は、本物の狂人だ、と。
「その様子だと、一人じゃないですよね?」
「そうだね、三十人くらいかな?」
「さ、三十人?」
「そう、ダングレを皆殺しにしたから増えたんだよね〜」
ダングレ…ダンジョン内半グレの略称だったはず。
それを皆殺しにした…
確かに、ダングレは司法が届きにくい事をいい事に、好き放題してるクソ野郎の集団だって聞いたことがある。
それでも、ちょっと威圧するだけでもいいのに…わざわざ殺さなくても。
「あれは言わないの?」
「言うよ?デザートは最後に食べるものでしょ?」
デザート?まだなにかあるんだろうか?
「私の父親、しっかりとした死因って知ってる?」
「いえ、知りません。…まさか」
「そのまさかだよ。父親は私が殺した。この手でね?」
そう言って、手を見せてきた。
一見、何ともない普通の手だ。
しかし、この手には三十人と父親の血がべったりとついている。
理由は、聞かなくても分かる。
でも、一応聞いておきたかった。
「どうして、父親を殺したんですか?」
「どうして?私の人生をめちゃくちゃにしたクソ親父を殺して、何が悪いの?」
分かりきっていた答えが返ってきた。
それと同時に確信した。
この人は、人を殺すことを悪い事だとこれっぽっちも思っていない事を。
「何言っても無駄だよ?天音はそういうやつだからね。」
「そんなことは…いえ、そうですね。」
世間一般では、白神先輩みたいな人の事をこういう。
「サイコパス…」
この人は、人の命を蚊と同じように潰す事が出来る、狂人だ。