死氷剣
「ッ!?」
私は、直感で何か良くない事が起こると感じ、その場を離れる。
すると、私がいた場所に巨石が飛んできた。
そして、突風が吹いてきた。衝撃波だ。
「あっぶな!?衝撃波が来てたんだけど?…あんな巨石が音速で飛んでくるとか…当たったら挽き肉にされるよ。」
というか、常に殺気立ってたから気付かなかったけど、近くの巨人の殺意は私に向いてる。
まぁ、あれだけ暴れれば警戒されるか…
「けどね、私にばっかりかまってていいの?」
周囲への警戒を怠ってちゃ、他の天使にやられるよ?
ほら、何体かやられてるし。
まぁ、かといって私への警戒を怠ると木枯らしで薙ぎ払うけどね。
よし、もう一発…
「天音ーーー!!」
突然エリアエルが突っ込んできた。
「うわっ!?」
私は、エリアエルに突き飛ばされる。
体勢を立て直して、文句を言おうとした時、
エリアエルのいる方から轟音が鳴り響いた。
「エリア…エル?」
私は、エリアエルの方を見たが、そこにエリアエルの姿はなかった。
その代わりに、周囲の巨人よりも一回り大きい4本腕の巨人がいた。
その4本腕の巨人の足元は、亀裂が入っていて、まるで空から降ってきたような割れ方をしている。
「まさか…私を踏み潰そうと…」
しかし、そこに私はいなかった。
代わりに、エリアエルが…
ヤツの足元を見てみれば、鮮血が広がっていた。
「……………………殺す」
天使が身内に甘いってのは本当なんだね。
出会って二日しか経ってないエリアエルのために、ここまで殺意を覚えるなんて。
許さない、コイツは地獄が生ぬるく感じるほど苦しめてから殺す。
そのためには、どうすればいい?
どうすればヤツに、もがき苦しむ最期を見せる事が出来る?
考えろ
ヤツを処刑する技を。
私の力で、ヤツを最大限苦しめる技を。
…これなんてどうだろう?
「死氷剣・凍殺」
即興の技だけど、威力は十分なはず。
この技は聖属性を宿していない。
純粋に氷属性しか使っていないのだ。
そして、その効果は、
「体内に直接冷気を流し込む。体を冷気から守る分厚い外皮があるみたいだけど、この技の前には無意味だよ。」
十字剣を突き刺して、そこから体内に直接冷気を流し込む。
これを使えば、外皮も、毛皮も、皮下脂肪も意味をなさない。
それが、『死氷剣・凍殺』だ。
「天使が…奇妙な技を使う。」
「へえ?喋れたんだ?『グアア』とか、『グオオ』しか言えないと思ってた。」
「それは、侮辱と受け取るぞ、幼き天使よ。」
「ふうん?地を這うデカブツにも、不快さを感じるほどの脳はあるんだね?」
「見下す事しかしない臆病な羽虫共よりは、大きい頭をしているがな。」
コイツ…とことん不快なデカブツだな。
わざわざ天使の嫌う言い方をするとは。
まぁ、どうせコイツはじわじわと苦しみながら死ぬ、ストレス発散のサンドバッグになってもらおうか。
「どうしたの?動きが鈍くなってるわよ?まぁ、地を這う下等生物にしては、速すぎるくらいか。」
「くっ、なんだこれは?体が思うように動かん。」
「そのまま凍りついたら?巨大生物は、寒さで死ぬ運命にあるのよ。」
致死量がどれくらいか知らないけど、もうすぐ死ぬことに変わりはないね。
これで、20回目と…
「ぐうぅ…貴様、何を?」
「何?そうね、冷気という名の毒を体に流し込んだだけだよ。」
「毒だと?」
「ええ、私の冷気が、お前の体を内側から破壊してるんだよ。」
この技の恐ろしいところは、外皮や毛皮、皮下脂肪を突き破り、内臓に直接冷気を流し込む事。
体温が低下すると、内臓も機能が低下する。
すると、内臓が機能しなくなり、最悪壊死してしまう。
更に、冷気で血液が凍り付き、血流も悪くなる。
やがて、体全体の温度が低下し、内側から凍っていく。
生体機能を破壊しながら。
「ん?」
いつの間にか、雑魚共が私の周りに集まっていた。
どいつもこいつも…よってたかって私を狙いやがって。
そのせいでエリアエルは死んだんだよ。
そう考えると、また強烈な殺意が湧き上がってきた。
「死んどけ、死氷剣・侵氷」
私は、一回転して光り輝く粉を大量に撒き散らす。
全て、極小の氷だ。
そして、氷の粒は様々な場所に当たり、その部分を凍り付かせる。
これに触れれば、その部分から体が凍り付いていく。
これの恐ろしい所は、空気中を舞うほど氷が小さいということにある。
極小の氷といったけど、その大きさは霧と同じほどしかない。
つまり、簡単に吸い込んでしまう。
すると、口、喉、肺にまで氷は到達し、触れた箇所を凍らせる。
万が一、肺にまで氷が到達すれば、肺が凍り付き、呼吸困難で死ぬ。
そうでなくとも、凍り付いた部分のダメージは凄まじく、最悪壊死してしまう。
「苦しみだしたね。こんな霧みたいなのに殺されるなんて、思ってもみなかっただろうね。」
死氷剣は、相手を苦しめて殺す事に特化してる。
直接的な殺傷能力は低くなっていても、毒のようにじわじわと相手の体を蝕む。
「外道が…貴様それでも天使か。」
外道ね?
「別に外道で構わない。お前も知ってるだろ?天使を攻撃すれば、どうなるか。」
「お前を庇って死んだ仲間の仇討ちか?」
「ええ。エリアエルを直接殺したお前は確実に殺す。そして、こいつらが居なければ、私はお前の奇襲に気が付いていた。こいつらはエリアエルを間接的に殺した。だからこいつらも殺す。」
「チッ、厄介な羽虫だ。」
まだそれを言うか…良いだろう。
私は、奴の懐に潜り込み、鳩尾に深々と十字剣を突き刺した。
「そんなに死にたきゃ殺してやるよ。本当はもっと苦しめてから殺すつもりだったけど、私の気が持たない。」
「短気な、奴だ…ぐっ!俺を殺した所でこの戦争は終わらないぞ。我ら巨人族は、貴様らと刺し違える覚悟は出来ているからな!!」
「特攻か?無駄に命を散らす事にならないといいな。」
「ああ、お前達天使が滅びる事を、あの世で祈っているぞ。」
そういった後、私の中に大量の経験値が流れ込んできた。
死んだか…まぁ、最後に大量の冷気を流し込んだし、それで体が凍結して死んだかな?
「さて、次はお前らだ。」
私は、既に半壊している近くの巨人に向き直った。
「あれ?」
気が付くと、過去視の試練の部屋に戻ってきていた。
記憶があやふやだ、怒りに任せて暴れすぎた。
「エリアエル…」
未だに怒りが込み上げてくる。
落ち着くまで試練の界に来るのは辞めたほうがいいかも知れない。
「…?どうして魔石がこんなに…」
巨人のものにしては小さいうえに、魔力も少ない。
……ああ、この前売り切れなかった魔石か。
一度に大量に渡したせいで、買い取れないと言われてしまった。
その分の魔石が溜まってたんだ。
「これ売って、何処か遊びに行こうかな?」
どうせなら、自然の多い所に行って、気持ちを落ち着かせたい。
それか、海にでも行こうかな?ちょうど海水浴シーズンだし。
香織と矢野ちゃんを誘って、3人で海にでも行こうかな?
「何処でもいい、気持ちを落ち着かせられるなら、ちょっとくらいの浪費も悪くないかもね。」
それに、この一ヶ月働きすぎた。
魔力の大量消費は、精神的な疲労に繋がる。
ちょっとくらい休んでもいいよね?
私は、ため息を吐きながら家に飛んだ。