天使VS巨人
天使VS巨人って、なんか野球みたい…
光の渦を超えた先、そこには雲しかなかった。
「門の先に雲が重なってたか…前がよく見えねえ。」
「そうね、でも下からもよく見えないはずよ。出てきたら対空攻撃でやられた、なんて事が起こりづらいんじゃないの?」
「そうだな、そう考えるとこの雲もありだな。」
なるほどね?即落ち2コマは起こりづらいって事か…
にしても、どこまで飛ぶつもりなんだろう?
話を聞いてる感じだと、出てすぐの所っぽいけど…
私がそんなことを考えていると、先頭の天使達が一斉に降下し始めた。
「行くぞ、死にたくなかったら集中しろよ!!」
「「「はい!!」」」
そして、私達も一斉に降下を始めた。
雲は、予想以上に分厚く、思ったよりも抜けるのに時間がかかった。
そして、雲を抜けた先、
「あれが…」
確かにそこには戦場があった。
十階層で見た記録氷。
あれと、ほぼ同じ戦場が広がっていた。
つまり、私にあれを再現しろと言ってるのか。
「万なんて軽く超える数がいるね…魔力の消耗は控えた方がいいかな?」
それに、アイツらはアンデッドじゃない。
天氷の聖属性に頼ってた私には結構きついかも。
氷属性で攻めるしかないって、結構大変そう。
「青氷柱か、天氷柱くらいしか効かないだろうね。どっちも消耗が激しいから、出来るだけ使いたくない。」
となると、爆氷を使うしかないか?
でも、致命傷を負わせづらいのが、氷属性の弱点なんだよね。
それは、爆氷も同じで、外部から攻撃しても効かない事が多い。
しかし、氷属性は即効性や、殺傷能力が低くても、毒のように体を蝕んでいく。
どんな生物でも、体温が下がると動きが鈍くなる。
さらに、内臓が冷えれば生体機能にも影響が出てくる。
そして、低体温症などによって死に至る。
生物は寒さに弱いのだ。
「普通は、ね。」
冷気を防ぐ方法なんていくらでもある。
それに、強い者は通常体で、冷気に耐性がある。
特に、巨人ほどの巨体になれば、代謝も人間の比じゃない。
すると、服が無くとも冬場を生き抜く事も出来る。
レイピアを使い、得意属性が氷の私にとっては、巨人は天敵とも言える。
レイピアでは置くまで剣が届かないし、巨人は冷気に耐性がある。
けどね…
「氷華剣を使えるようになってなかったら、ここで使い物に鳴らなかったかもね。」
私だって、試練の界で何度も巨人を相手してる。
巨体を持つ相手への対策はしてるのよ。
それが氷華剣。
斬撃を飛ばすのは基礎技術だけど、習得してるやつはほとんどいない。
だって、それが出来るのはスキルか才能がある奴だけだから。
今、世界には冒険者が2億人も居るらしい。
その中で、斬撃を飛ばす事が出来るのは、十万前後と言われている。
だから、巨体を持つモンスターは多くの冒険者から嫌われてる。
そんなことを考えていると、地面との距離が近くなってきた。
「さて、私もそろそろ戦闘準備をしないと。」
私は、十字剣を取り出していつでも切り込めるようにする。
私と一番近い巨人との距離が50メートルを切る。
ぎりぎりまで近付いて、首を一撃ではねる。
その過程で、周りへの警戒を怠ったりしない。
…………今だ!!
「氷華剣・北颪!!」
北颪は、木枯らしと違い、より広範囲に攻撃出来るようにした技だ。
一撃の威力は下がるけど、今の擬人天使状態の私なら威力問題は大きく改善される。
全能力が普段より高いうえに、魔力の量も増えてるからね。
広範囲攻撃だけあって、一撃で七体の巨人を葬った。
天氷に比べれば消費魔力は少ないが、それでも連発は禁物だ。
相手は軽く万を超える巨人の軍勢。
効率的にやらないと、魔力切れでこっちが負ける。
「消費魔力の少ない技を使って一体づつ倒すか、多い技で一気に倒すか…」
一体づつ倒せば、確実に数を減らせるだろう。
けど、万を超える巨人の軍勢を相手に出来る量の魔力はない。
大技を使うのは、かなりの賭けになる。
けど、一撃で多くの巨人を倒す事が出来る。
「賭けるか…リスクを背負わないと、いい結果は付いてこない。何事も、やってみないと分かんないからね!!」
私は、十字剣に魔力を込める。
そして、
「氷華剣・木枯らし!!」
広範囲を狙うなら、北颪の方がいい。
しかし、威力が足りず、奥まで届かない可能性がある。
それなら、威力の高い木枯らしで奥まで届かせる方が、より多くの巨人を倒せる。
私の予想通り、一発で軽く二十くらいは倒せたはず。
「凄いね…どんどん力が湧き上がってくる。最高のレベリング場ね!!」
あれだけの数の巨人を倒せば、そりゃあレベルも上がるだろう。
もちろん、1や2どころじゃない。
魔力を使い尽くす頃には、どれくらいレベルが上がってるんだろうか?
なんだか楽しくなってきた。
「ん〜…この辺かなぁ〜?」
私は、上空から巨人が集まっている場所を探す。
そして、いい感じに一直線に集まっている場所を見つけた。
さ〜て、何体殺れるかなぁ〜?
「氷華剣・木枯らし!!」
今度は、すぐには数え切れない数の巨人を倒した。
ただ、固まりすぎて途中までしか、木枯らしが届かなかった。
それでも、相当量の戦果をあげてるはず。
あ〜!!こうやって、一撃で大量に倒せるとスカッとする。
それか、脳汁が溢れ出るだっけ?あんな感じ。
ヒュ〜!気持ちいいーー!!
まぁ、冷静に考えると、ただの大虐殺だけどね。
でも、まったく心が痛まない辺り、やっぱり私天使に近付いてるんだな〜って思う。
天使って、他種族のことにまったく興味を持たず、殺すことになんの躊躇いもない、ある意味ヤバい種族だ。
けど、同族には優しく、特に、家族などの身内にはかなり甘い。
「天使って、案外ヤバい種族なんじゃ…」
天使は、人助けをしてるイメージがあるけど、全ッ然、そんなことない。
むしろ、諦めが悪いと普通に殺される。
天使は、基本不干渉を貫いていて、なにかされない限りは、中立だ。
しかし、一度害を加えようものなら、種族全体で報復にかかる。
排他的な種族でもあるからね。
「うん、やっぱりヤバい種族だね。」
と言いつつ、私も話しながら大虐殺してるっていう。
何があったか知らないけど、天使に害をなして、タダで済むはずがないんだよね〜。
それに、面白いくらいレベルが上がるから、虐殺しない理由がないんだよね〜。
「フフ、これも世のため天使のため私のため、このまま虐殺されてくれ、巨人諸君。」
私はそう言って、もう一度木枯らしを撃ち込んだ。
行動と言動が、悪役のそれなのよ…




