飛行練習
「まったく…どこに行ってるんだお前は。」
「場所が分からなくて…」
「場所が分からない?いつもの場所に決まってるだろ?何処をどうしたらそうなるんだ。」
だって、この世界に来たばっかりだし…
どうしよう?記憶喪失ってのが、通じるかな?
それが通じなかったら、いったいあと何回怒られるんだろう?
「お?おい、天音!どこ行ってたんだよ!」
「心配したんだからね?ハルトエル隊長から、天音がおかしくなったって聞いたから。」
「こいつ、迷ってたんだぞ?しかも、場所が分からないって訳の分からない事を。」
誰だよこいつら…
「この人達、誰?」
「「「は?」」」
「え?」
いや、そんな訳分かんないみたいな顔されても…
私だって分かんないんだから…
「俺のことわかるか?」
「誰?」
「アルエルだよ!!」
「アルエル?…誰?」
あれ?なんかこの人…この天使落ち込んでる。
もしかして、可愛そうなことした?
「じゃあ、私の事は?」
「分かんない。」
「エリアエルだよ?よく話してるでしょ?」
「?」
「どうしたの?なんか変だよ?」
「もしかして…あれか?記憶喪失。」
お!天使にも、記憶喪失は通じるのか!
でも、ここで『私、記憶喪失なんです!』とか言ったら信じてもらえないだろうな〜
あっちで話が進むまで待たないと。
「天音?自分の名前わかる?」
「白神天音。」
「そこはわかるのね?じゃあいくつ?」
「17」
「うーん、ちょっとサバ読みすぎ…」
失礼な、私はほんとに17歳だよ!!
「じゃあ、家はどこにある?」
「家?知らない。」
「これは致命的ね…じゃあ、これから何しに行くの?」
「分かんない。」
「ん〜、いつもの天音もそう言いそう。」
「じゃあ、お前の家族の名前は?」
「分かんない。」
「はい、これな〜んだ?」
「…なにそれ?」
「あの天音がホッポミに反応しないだと!?」
「確定だな。」
「何があったか知らないけど…」
え?ええ?
「「「天音、記憶喪失になったのか…」」」
「はい?」
という事で、よく分からない理由で私の記憶喪失が確定した。
「フラフラしてるぞ!もっとシャキッとする!!」
「そうは言われても、難しいんだよこれ〜」
私は、飛行の術を使って、飛ぶ練習をしていた。
フワフワと浮かぶくらいなら、余裕なんだけど、高速で飛び回るとなると、難易度が跳ね上がる。
ママチャリにしか乗ったことないのに、急に自転車のレースに出ろって言われても無理があるのと同じだ。
自転車は誰でも乗れるけど、レースに出るには練習が必要なのと同じで、飛ぶ事は出来ても、高速飛行は練習しないと無理って事。
「それができないと、戦場で真っ先に死ぬぞー!!」
「戦場って何!?私って兵士なの!?」
「ハァ…記憶喪失した部分と、そうじゃない部分が分かりづらいな。」
今は、そんな事どうでもいいよね?
せめて、一緒に飛ぶとかして教えてよ!!
急にやれって言われても、出来るわけないじゃん!!
「天音、大丈夫?私と一緒に飛ぶ?」
「うん!お願い!!」
「じゃあ、俺も…」
「あ、別に要らない。」
「別に…要らない…」
アルエルとか言う天使は、フラフラと落ちていった。
う〜ん?可愛そうだったかな?
まぁ、エリアエルが付いてくれるから、ほんとに要らないんだけどね。
励ますのは、ハルトエル隊長にやってもらおう。
「もっと落ち着いて、平常心だよ。平常心。」
「落ち着いて、平常心。」
私は、一度深呼吸をして、魔力の流れを整える。
すると、ふらつきがマシになった気がした。
それに、魔力の流れが整った事で、平常心も戻ってきた。
「そうだよ!その調子だよ!!頑張れ天音!」
「うん、えーっと?このまま翼に魔力を流して、体勢を整える…だよね?」
「そうそう、もっと魔力を流してもいいと思うよ?」
あー、こんな感じかな?
まだまだ遅いけど、それでもさっきに比べたら、かなり速く飛べるようになった。
あとは、これを繰り返せば…
「じゃあ、一緒に飛んでみよっか?」
「え?」
すると、エリアエルが私の手を掴んで、
「行くよ?」
「え?ちょまああああああああああああああ!!?」
ジェットコースターが、可愛く見えるほどの速度で、立体飛行する、エリアエル。
多分、音速とか平気で超えてるよ。
「ストップ!ストップ!!」
「え?ストップ?」
「ぐぇ!?」
突然、急ブレーキをかけるエリアエル。
そのせいで、私も無理矢理止まる事になり、慣性が働いて私だけ吹き飛ぶ。
しかも、エリアエルが手を掴んでるから、無理矢理体が伸びて、全身に激痛が走った。
「大丈夫?」
「そう思うなら、もっと優しくしてほしかった…」
「あはは、天音ならあれくらい大丈夫だと思ってて。」
何?私のこと殺す気だったの?
私が昇華者見習いじゃなかったら死んでたよ?
加減って物を知らないのかな、この天使は。
「取り敢えず、やってみて?」
「出来るか!!」
自転車初心者を大型二輪に乗せてどうするんだよ!!
動かせるわけないでしょ!?
私、つい最近飛行の術を手に入れたばっかりなんだよ!?
初心者にそんな高等テクニック出来るか!!
「エリアエル、それはやりすぎだ。もう少し優しくしないと。」
「ええー?じゃあ、あんたが教えればいいじゃん。」
「そうだな、お前が教えるよりはマシだと思うぜ?」
「…じゃあよろしく。」
「絶対信用してないだろ。…まぁ、エリアエルの後なら納得だけどよ。」
少し、不安が残るけど、一応教えて貰うか…
これでも駄目なら、隊長に教えてもらおう。
「お?ちゃんと飛べるようになってるじゃないか。」
「まぁ、俺が教えたので。」
「なるほど、納得だな。」
結果的に言うと、めちゃくちゃ分かりやすかった。
エリアエルとは、教えることの技術に、雲泥の差があった。
たった三十分で、高速飛行が出来るようになったんだよ?
アルエルは、『お前の飲み込みが早いから。』って言ってたけど、普通に教えるのも上手かった。
「じゃあ、なんとか明日には出発出来そうだな。」
「いよいよですね。」
「そうだね、この日のために頑張ってきたんだしね。」
何かがあるらしい。
…もしかして、巨人との戦争か?
グモラと同じかそれ以上の強者がいる戦争。
正直、行きたくない。
いや、もしかしたら戦争じゃないかも知れないし…
「そうだったな、天音は忘れたんだったな。明日、遂に巨人と戦う。」
デスヨネー
「君達は新兵として、戦争に参加してもらうという事だ。特に天音、君の『神氷』には期待しているぞ?」
「え?神氷?……十字剣のことですか?」
「確かに、剣もそうだが、神氷はもっと別の物だ。神々ですら、喉から手が出るほど欲しいという、あの神氷だぞ?」
神氷…十字剣じゃないとなると、もとから備わってる能力なのか?
それなら、生まれながらにスキルとして持ってるはず。
それがないって事は、スキルとして覚醒してないか、そもそも持ってないか。
というか、どうして私が天界にいるんだ?
前世の私が天使だったとか?
それなら、記録氷であの天使に憑依してた事にも納得がいく。
それか、あの天使が十字剣と神氷の持ち主で、私が二代目とか?
昇華者は、試練の界で育成され、昇華する種族から力を引き継ぐらしい。
つまり、試練の界は道場で、試練を乗り越えると先代から道場を引き継ぐみたいな感じ。
って事は、私はあの天使から力を引き継ぐのかな?
神氷は、あの天使の能力で、私はそれを引き継ぐって感じか…
…うーん、よく分かんない。
まぁ、その時が来たらわかるでしょ?
「まぁいい。明日は遅れるなよ?」
「分かってますよ。」
「それじゃあ、解散!!」
その瞬間、視界が光に包まれる。
光が収まった時には、試練の界に戻って来ていた。
「また、明日来いって事か…」
私は、転移魔法で家に帰った。
明日は忙しくなるだろうしね。