十六階層?
「どうしよう?」
このまま試練の界を進むか。
それとも、千代田ダンジョンでレベル上げをするか。
…試練の界かな?
早く昇華者になりたいし、周りの人も、私が昇華者になることを待ってる。
「よし、十六階層へ!!」
私は、転送装置を使って、十六階層へ降りる。
転移の影響で視界が真っ白になる。
そして、視界が戻ってきた時、私は目を疑った。
「どこ…ここ…」
そこは、昨日見た洞窟のようなダンジョンでは無く、球体状の石造りの部屋だった。
「記録氷…」
青白い光の道の先に、記録氷と転送装置があった。
私は、光の道が実体を持つものなのか、足先で触って確かめる。
「実体は一応あるのか…」
それが、踏める事を確認すると、私は、一歩踏み出した。
突然、割れるんじゃ無いかとビクビクしながら、光の道を進む。
部屋は無駄に広く、片道…つまり、半径だけで五十メートル以上ありそうだった。
横に五十メートルなら、少し遠いくらいに感じるだろう。
しかし、縦に五十メートルでは、訳が違う。
バンジージャンプも五十メートルくらいあったはずだ。
つまり、バンジージャンプという、スリルを目的とする物と同じ高さがあるのだ。
正直、私が高所恐怖症なら発狂してたはず。
「これくらいなら、問題無い。割れても飛行の術で飛べばいい。」
そう、自分に言い聞かせながら進んだ。
そして、半分くらいまで来たとき、
「……………そうだよね。」
パリパリという音が後ろから聞こえてきた。
「こういう道は壊れるのが定番だよねぇぇーーーー!!」
飛べるとは言え、怖いものは怖い。
高所恐怖症じゃないんだろ?って?
じゃあ、仮にお前が虫を食えたとして、好き好んで食うのかよ?
食わねえだろ?
エビみたいな味がするって言うけど、それならエビ食えよって話なんだよ。
高所恐怖症じゃないからって、好きでこんな事しないつーの!
「割れるの速くない!?私が走るより速いって、あっ、ちょまあああああぁぁぁぁ!!………いや、ね?」
飛行の術があるから落ちないんだけどさ、やっぱり急に足場が崩れたら怖いじゃん?
怖いでしょ?
別に、ちょっとくらいビビってもいいじゃん!!
「ハァ、次からこういう道があったら、絶対歩かないようにしよ。」
私は、記録氷の所まで飛んで、もう一度足場が崩れないか、確認した後、記録氷に触れた。
そして、いつも通り視界が光に包まれる。
「天音!おい!起きろ天音!!」
私は、誰かに起こされて、目を開く。
「…誰?」
「はあ?何言ってんだお前は。ハルトエルだ、お前の上司のな。」
ハルトエル?誰それ?
というか、この人天使?
ハルトエルと名乗る男には、立派な純白の翼と黄金の環が頭の上にあった。
「私が見えてるの?」
「…お前、遂におかしくなったか?」
「失礼な…というか、会話が成立してる。記録じゃない?」
「さっきから何をブツブツと…まぁ、いい。まともになるまでそこで休んでろ。」
それだけ言うと、ハルトエルとかいう奴は、愚痴を吐きながら去っていった。
取り敢えず、状況を整理しよう。
記録氷に触った→光に包まれた→ハルトエルに起こされた。
うーん、これも試練の一つなのか?
ここ、明らかに天界だもんね。
十五階層で、飛行の術を手に入れた事を考えると、天界で飛ぶのに慣れろってことかな?
そもそも、ここがダンジョンかどうかって話なんだよね〜。
さっきから、転移魔法が発動出来ない。
とてつもなく遠い所にいるから、私の魔力じゃあ転移出来ないとか?
それか、転移阻害が掛かってるか。
でも、転移阻害があると、壁に阻まれてるみたいな感覚があるから、転移阻害ではないはず。
となると、とてつもなく遠い所にいる?
いや、もう一つの説がある。
「天界の城。あれに傷一つ付いてない。あの馬鹿でかい巨人に破壊されたはずなのに…」
あの巨人に破壊されたはずの城が、傷がない状態で残っていた。
つまり、巨人が攻めてくる前、過去に来たのかも知れない。
今のところ、3つの説がある。
一つ目は、とてつもなく遠い所にいる。
二つ目は、転移阻害が掛かってる。
三つ目は、過去に来た。
一つ目の説は、一番簡単だ。
私を遠くへ転移させればいいだけだから。
転移は遠く行くほど消費する魔力が増える。
だから、私の魔力では飛べないくらい遠くへ飛ばせば、帰ってくることは出来ない。
二つ目の説は、正直一番可能性が低い。
だって、妨害されているような感覚が無いから。
転移阻害が掛かってるなら、壁に阻まれてるような感覚がある。
でも、それがない。
つまり、転移阻害ではない可能性が高い。
三つ目の説は、正直よく分からない。
過去へ飛ぶ方法があってもおかしくないだろうけど、そこまで大掛かりな事をするくらいなら、遠くへ飛ばした方が楽だ。
やっぱり、可能性は低い。
「何処か遠く、或いは特殊な空間に飛ばされたとかかな?」
何にせよ、ハルトエルとか言う奴に従えば、この試練は突破出来るはず。
よし、そうと決まれば早速ハルトエルの所へ行こう!!
あいつどこ行った?