蟹
五十六階層
巨大な亀を倒した時、突然私の体が発光した。
「あ、レベル上がった。」
しばらく上がっていなかった私のレベルが、ようやく上がって、なんだか嬉しくなってきた。
「ありがとう亀さん、甲羅の中に青氷柱ぶち込んでごめんなさい。」
そう、攻撃してもすぐに甲羅の中に隠れるので、顔がある方に回って、青氷柱をお見舞いしていたのだ。
これには、流石に私も同情してしまった。
だって、攻撃から逃げようと隠れたら、突然中に光線撃ち込まれて、殺されるんだよ?
めっちゃ、可哀想じゃん。
「この亀なんて名前だっけ?…岩っぽいしロックタートルだったかな?」
ロックタートルは、この二倍の大きさがある。
こいつは、ロックタートルではなく、ストーンタートルなのだ。
まぁ、そんなことより、この亀はスッポンみたいで美味いらしい。
「スッポンか…食べたことないけど、美味しいのかな?」
青氷柱で中身が抉られてるから、売れるか分かんないけど、一応収納に入れて持ち帰る。
お金は合っても困らないからね。
そう言えば、巨大蟹が高値で取引されてるって聞いた事がある。
居たら、氷漬けにして持って帰ろ…
「居たよ…」
噂をすればなんとやら、まさか本当に見つかるとは思わなかった。
ヒュージクラブ
クソデカイ蟹で、中にはズワイガニより美味いと言われる身が、ぎっしり詰まっているという、極上の蟹だ。
何より、巨大なので、もとより大量の身が詰まっている。
一匹いくらで売れるのか、気になる所だ。
「傷付けないように…白吹雪。」
私は、そ~っと白吹雪を蟹に当てる。
急激な温度変化に弱いはずだから、しばらく当て続ければそのまま冷凍出来るはず。
当然、それで蟹が抵抗しないはずもなく…
「うわっ!?危なっ!!」
蟹とは思えないような速度で、攻撃してきた。
あのデカいハサミにやられたら…
いや、それ以上にこの速度が厄介だ。
蟹の外骨格は硬い。
そんなものが直撃するんだよ?
ハンマーで殴られるようなものだよ。
ハサミは気にしなくていい、問題は、こいつの攻撃に当たらない事。
「もっと冷やしたら動きが鈍くなるかな?」
私は、白吹雪の威力をあげる。
ついでに、範囲も狭くして全部蟹に当たるようにする。
威力も上がるし一石二鳥だね。
すると、蟹の表面が凍り始めた。
「冷凍蟹にして食べるから、そのまま大人しくしててね〜」
冷気の威力が上がった事で、蟹の動きが急に鈍くなる。
逃げ出そうとしてるみたいだけど、逃がす気はないから。
すると、逃げられないと判断したのか、丸くなって寒さから、身を守る事にしたらしい。
「よしよし、そのまま動かないでね?」
私は、天氷を発動して、一気に急速冷凍する。
氷漬けになった蟹を眺める事数分。
魔力が流れ込んでくる感覚を感じた。
世間的に、経験値と呼ばれるものだ。
つまり、蟹を倒したという事。
「空間収納に入れて、持って帰るか…いや、待てよ?」
私は、いい事を思いついて、蟹を空間収納に入れるのを辞める。
そして、転移魔法を発動した。
千代田ダンジョンの前
沢山の人で、奥が見えないほどの人集りが出来ている。
その中央にある、巨大な蟹。
管理局や警察が出動して、人が近付かないように等間隔に並んでいる。
もちろん柵もある。
「つまり、一度ここに持ってきて、組合の職員に見てもらうつもりだったと?」
「このデカブツを組合に持っ行ったら、床が抜けるかも知れないでしょ?だから、ここに持ってきて、職員に見てもらうって考えてたの。」
「空間収納は使えないの?」
「使えますよ?」
「じゃあそこに入れろよ。」
なんとか言い訳して、もう少し有名になるまで時間稼ぎがしたい。
絶対高値で売れるはず。
でも、これ以上は無理かな?
仕方ない、収納するか…
私は、巨大蟹を収納する。
「これでいいんでしょ?組合に置けないって言われない?」
「言われないからさっさと持って帰れ。あと、置けなかったら自分で持ってればいいだろ!」
はぁ、そんなに怒鳴らなくてもいいのに。
何処かから買い取りたい、って電話かかってこないかな?
取り敢えず、組合に行って魔石を売っとくか。
私は、何か言われる前に転移で組合に向かった。
「ずいぶん沢山持ってきたのね〜」
「しばらく来てませんでしたから。」
モモ姐さんに、しばらく溜めていた(忘れてた)魔石を見せる。
これで、久しぶりに空間収納の中が軽くなった。
今は、巨大蟹が入ってるけど、そのうち売りに出すつもりだ。
「そう言えば、転移魔法が使えるようになったののよね?」
「はい。おかげで、だいぶ移動が楽になりました。」
「いいわね〜転移魔法。私も家と職場を簡単に行き来出来るようにしたいわ〜」
モモ姐さんの筋肉なら、別に苦じゃない気がするんだけど…
それは言わないでおこう…
それよりも、蟹のことをモモ姐さんに相談したほうがいいかな?
モモ姐さんは、頼りになるし信頼できるから、話しても大丈夫なはず。
「モモ姐さん、実は相談したいことが…」
「別にいいわよ?」
「実は…」
私は、蟹のことや、高値で売りたいという事を、モモ姐さんに伝えた。
「なるほどね〜、それなら自分で持っておいて。買い取りたいって人が見つかったら、組合に電話が来るだろうし。」
「分かりました、それまで待ってればいいんですね?」
「ええ、その通りよ。果報は寝て待てって言うしね。」
そうか…じゃあそれまでもう一回千代田ダンジョンに潜ってくるか。
私は、三百七十万という大金を受け取ると、七十万は現金化して、残りはカードに入れておいた。
こんなに要らないかも知れないけど、現金は念の為持っておいた方がいいだろう。
「もう一匹蟹見つからないかな〜」
そんなことを考えながら、千代田ダンジョンに向かった。