安心
他の方が書いた小説を読んでいると、セリフがある時は一行開けているのをよく見るので、今回からそうしてみます。
「加藤さん、どうしました?」
「どうしたじゃ無いでしょう!!」
出会ってそうそう怒鳴られた。
「周りの人に迷惑ですよ!もう少し声を小さくしてください!」
ここは、某ハンバーガーチェーン店。
一般人も来ている。
そんなところで、大声を出さないで欲しい。
こっちが恥ずかしい。
「ハァ…どうしてあんな怪我したの?」
「不死者の王です。西新宿ダンジョンの一階層に不死者の王が現れたんです。」
「なんですって!?」
「しー!」
寝耳に水どころの話じゃないだろう。
いくら高難易度ダンジョンとはいえ、一階層からノーライフキングが出てくるなんて、危険どころの話じゃない。
ダンジョン管理局の副局長なら、絶対聞き捨てならない話だろう。
「それ、本当?」
「一階層のモンスター如きにやられるほど、私が弱いと思いますか?」
「…ごめんなさい、嫌味みたいになったわね。」
「いいですよ。私も信じられないので。」
ノーライフキングが一階層にいる以上、討伐されるまでは西新宿ダンジョンには、接近禁止命令が出されるだろう。
ノーライフキングを討伐出来るのは、Sランク最強格か、昇華者くらいだ。
アンデット系最強の名は伊達じゃない。
…私馬鹿だな。
絶対勝てないじゃん、あの時の私は何を考えてノーライフキングに挑んだんだ?
取り敢えず、西新宿ダンジョンにはしばらく行かずに、真面目に千代田ダンジョンでレベリングするか…
急がば回れ。
近道しようとせず、堅実にいかないと。
「その時の状況を詳しく聞きたいんだけど?」
「いいですよ?」
それから、軽く一時間は事情聴取された。
「天音ちゃん!!」
「長谷川さん!?どうしてここに…」
千代田ダンジョンに入ろうとした時、長谷川さんに声を掛けられた。
「私も千代田ダンジョンに向かうからだよ。それよりも、怪我は大丈夫なの?」
「怪我は大丈夫です。回復魔法は得意なので…どうして私って分かったんですか?」
「ネットに怪我した天音ちゃんの写真が出回ってるんだよ。それを見たとき、血の気が引いたよ。」
やっぱり出回ってたか…
そうなると、もう消せないだろうな〜
どうせ、昇華者になったときに、写真なんていくらでも出回るだろうけど。
「天音ちゃんも千代田ダンジョンに潜るんでしょ?一緒にいかない?」
「いいですよ?どこまで潜ったことありますか?」
「十階層だよ?まだボスを倒してないんだよね〜」
十階層か…
ボス部屋の前、行けるか?
…行けそうだね。
「じゃあ、ショートカットしましょうか。」
「え?」
私は、長谷川さんの手を掴むと、十階層のボス部屋の前に転移した。
「これが転移魔法か〜、転移トラップとそんなに変わらないね?」
「同じ転移ですから。私が後ろから回復魔法を使い続けるので、ボスは長谷川さんが倒して下さい。」
確か、十階層のボスは、微強化オークが二体だったはず。
長谷川さんがどこまで強くなってるか…
前は、オーク一体にやられてたからね。
ヤバそうなら、私が倒せばいっか。
「よし、行きます!」
長谷川さんは、ボス部屋の扉に手をかける。
扉は、ゆっくりと開き、中に二体のオークが居ることが確認出来た。
長谷川さんは、ボス部屋に入る。
扉が閉まる前に私も入る。
「「ブモオオオオオ!!」」
「甘いね!火球!!」
「へぇ」
長谷川さんは、魔法が使えるようになったらしい。
オークの一体に、長谷川さんの火球が直撃する。
当然、その程度では有効打にはならない。
目的は、2対1の状況を作らない事。
長谷川さんは、以前とは比較にならないほどの速度でオークと距離を詰める。
「はあ!!」
あっという間に後ろを取った長谷川さんは、オークのアキレス腱を切る。
機動力を奪って、倒すつもりなんだろう。
すると、長谷川さんはオークの背骨に剣を突き刺した。
もちろん、それでは背骨は破壊出来ない。
すると、
「ちぇいあああ!!」
長谷川さんは、オークに突き刺した剣に蹴りを入れた。
なるほどね…私のやり方を真似したのか。
けど、あれは剣へのダメージが大きい。
すぐに剣が駄目になる。
けど、
「まずは、一体!」
脊髄を確実に破壊するだけの、威力がある。
私も、あれで巨人を倒してたし。
にしても、あの動きができるって事は、相当レベル上げたんだろうな〜
長谷川さんも、かなり強くなってるね。
もしかしたら、私いらなかったかも。
そんなことを考えてると、すぐそこまでオークが来ていた。
火球を食らっていた方のオークだ。
長谷川さんを危険だと思ったのか、比較的弱そうに見える私のことを殺しに来たか…
「豚野郎、氷漬けになりたくなかったら、今すぐ回れ右をして戻れ。」
私が本気で睨みつければ、一般人なら普通に気絶するくらいの威圧感がある。
流石にヤバイと思ったのか、一歩引き下がる。
しかし、
「ブ、ブモオオオオオ!!」
まるで、なけなしの勇気を奮い立たせるように襲いかかってくる。
勝てないとわかっているのに、私に襲いかかってくるか…
「その勇気に免じて、痛みなく一撃で殺してあげる。」
私は、近付いてきたオークの首をはねる。
オークの首は、鮮血を散らしながら中を舞う。
オークの表情なんて、わからないけど、あのオークは安らかな顔をしていたと思う。
こういう時、モンスターも生物なんだって思う。
モンスターも何かを食べて、寝て、遊んで、命の危機を感じて戦う。
だからといって、同情はしない。
同情すれば、殺意が鈍る。
殺意が鈍ると、腕が鈍る。
そうなれば、死ぬのはこっちだ。
私が死なないために、私はこれからもモンスターを殺す。
「天音ちゃん…」
「はい?」
「私は、合格?」
合格…とは言えないかな?
正直、これで合格にしてしまうと、いつか長谷川さんを殺すことになるかもしれない。
「長谷川さん、合格とは言えません。」
「え!?」
「剣の使い方です。あの使い方は、剣にかかる負荷が大きすぎます。あれではすぐに剣が駄目になります。」
それは、お金がかかるし、何より…
「ダンジョンにおいて、武器は第二の心臓です。武器が無ければどうやってモンスターから身を護るんですか?」
「それは…」
「ここで合格と言ってしまうと、いつか長谷川さんを殺すことになるかも知れません。だから、剣の扱いには気を付けるか、予備の武器を持っておいてください。」
『神』の武器は壊れないって聞くけど、私も予備武器を持っておいた方がいいかもね。
じゃないと、長谷川さんに強く言えないからね。
長谷川さんとは、そこで別れて、私は五十五階層に転移した。