無理ゲー
「チッ!速い!!」
不死者の王、最強各アンデットだけあって、遠近共に強い。
近接では槍を使い、遠距離では魔法を使う。
魔法の威力と、魔力の量なら勝っている。
けど、近接戦では全てにおいて負けている。
そもそも、槍とレイピアではリーチが違う。
下手に近付けば串刺しなんてあり得る。
串刺し…そうか!
ノーライフキングから距離を取ると、私は氷の槍を作り出す。
「特別製よ!受け取りなさい!!」
そして、全力で投擲する。
ノーライフキングは、当然氷の槍を弾こうとする。
しかし、氷の槍はいとも簡単に砕け散る。
そして、閃光と共にノーライフキングの持つ槍が凍り付く。
爆氷だ。
爆氷の瞬間凍結を利用して、槍を氷漬けにして重くする。
今なら槍が使えない!
近接戦闘で有利にたてるはず!
私は、ヤツの懐に潜り込み、胸部を一突き。
「硬い…でも!」
剣は、ほとんど突き刺さらなかった。
だが、私は青氷柱を発動する。
これで、ヤツの心臓に風穴を開ける!!
青氷柱は、ノーライフキングの心臓を捉えて発動した。
しかし、
「しまっ!?」
なんと、ノーライフキングはそれを無視して、天音の腹を蹴り上げた。
「ぐはっ!?」
その衝撃は凄まじく、一撃で肋骨を粉砕し、内臓を破裂させた。
天使装備を着ていれば、もう少しダメージを防げただろう。
しかし、着替える事を忘れていた天音は、普通の服でノーライフキングと戦闘を始めてしまい、大ダメージを負うことになった。
天音は、意識が朦朧とする中、十字剣を回収していつでも発動出来るようセットしておいた転移魔法を発動する。
「がはっ!?」
「え?」
場所の指定をしていなかった為に、不安定な転移を行う事になった。
「きゃあああああああああ!?」
転移した先は、街のど真ん中。
突然血塗れの女性が空から降ってきたのだ。
周囲の人は大パニックになる。
そして、比較的正気を保つ事が出来た人によって救急車が呼ばれ、天音は病院へ搬送された。
「…ここは?」
目を覚ますと、明らかに病院に居た。
絶対病室でしょここ。
ということは、転移は成功したのか…良かった〜
しかし、ここはどこだ?
私は、ナースコールを鳴らす。
「痛った!?」
どうやら、傷は治っていないらしい。
「仕方ない、自力で治すか…」
私は、回復魔法を使って傷を回復させる。
そして、分かった。
「肋骨がほぼ全部折れてる…」
たった一回蹴られただけでこれだ。
多分、内臓も傷付いてる。
回復魔法のゴリ押しで治せるとはいえ、一撃でこれだ。
それに、青氷柱が効いてたかも分からない。
「流石、最強各アンデット。私には早かったか…」
そんなことを言っていると、看護師さんが入ってきた。
「そんなに体を起こして!安静にしてて下さい!!」
「すいません…あの、ここは何病院ですか?」
「ここですか?」
転移先の指定をしていなかった。
日本である事は間違いないけど、何処に転移したかは分からない。
「那覇中央病院ですけど?」
「那覇…沖縄まで飛んできたのか…」
確かに沖縄に転移することは多かった。
だから、沖縄への道が作られかけていて、そこを通じて転移したかな?
何度も同じ場所に転移すると、草原を歩いたかのように道が出来る。
獣道をイメージしてくれると分かりやすいだろう。
あんな感じで道が出来る。
「そう言えば、ニュースになってますよ?『転移魔法使い、重症!!』って。」
「どこまで報道されてます?」
「全国放送で、突然血塗れの女性が空から降ってきたって、放送されてました。」
顔さえ流れていなければ、一応問題ない。
まぁ、絶対ネットに上がってるだろうけど。
「取り敢えず、傷が酷いんですから絶対安静ですよ?」
「治療費って十万出したら足りますかね?」
私が質問すると、
「さあ?足りるんじゃないですか?」
ふぅん?
私は、空間収納から十万円を取り出して、看護師さんに手渡す。
「お世話になりました。」
「はあ?」
看護師さんが十万を受け取ったのを確認すると、転移魔法を発動した。
「あ、服返してない…まぁ、今度返しに行けばいいか。」
「天音?」
私が振り返ると、目を丸くしたお母さんと警察官が二人居た。
警察官の存在が場の空気を重くしてる。
主に、私が話しにくいって意味で。
「ただいま」
「おかえり」
他愛もない会話をした後、逃げるようにクローゼットに向かった。
「いやいやいや、白神天音さんですよね?」
「はい、そうです。」
「どこから現れたんですか?」
どこからって…
「那覇から空間を超えて…」
「天音、治療費払ってきた?」
お母さんが、口を開こうとした警察官を止める。
「払ってきたよ、ナースコールで呼んだ看護師さんに渡して来た。」
「いくら?」
「現金十万を手渡し。」
「足りるの?」
「んー、分かんない。」
そうか、看護師さんが言ってたのも適当かもしれないからね。
「着替えてから、服を返すついでに払ってくる。」
「うん、行ってらっしゃい。」
私は、着替の服をささっと選んで、洗面所で着替える。
警察官が来てるから、流石にあそこで着替えるのは勇気がいる。
何か、話し声が聴こえるけど、無視無視。
サッと着替えた私は、服を畳んで病院へ転移した。
「よし、ついた。」
「え?今急に…え?」
おや?看護師さんがいたか…ちょうどいいや。
「これ、返しときますね?」
「あ、はい。」
「後、どこで料金払えはいいですか?」
流石に捕まりたくはない。
転移で逃げ出せるけど。
「えっと、着いてきてください。」
私は、看護師さんに案内されて、受付まで来た。
「お支払いですか?」
「はい、カードでお願いします。」
「かしこまりました。」
これで、犯罪者にならずに済むはず。
「ありがとうございました。」
やっぱり、カード払いは楽でいいね。
ワンタッチで支払いが出来るから、ストレスフリーに買い物が出来る。
まぁ、何かあったときのために現金は持ってるけど。
転移は、移動は楽だけど発動までが大変。
簡単にポンポン使っているように見えて、実は結構な高等技術だったりする。
十本のピンをジャグリングしながら、片足で玉乗りをするようなもの。
控えめ言って無理ゲー。
私が転移魔法を使えるのは、オーブの力で自転車を漕ぐ感覚で使えるように、記憶にインプットされてるから。
自転車は、十年くらい乗ってなくても、問題なく乗れるよね?それと同じで、出来て当然のような技術として私は習得してる。
…道具の力を使って。
別に?道具に頼っても、最終的には私の力になるんだし?それは、結果的に恥ずかしい事でもなんでもないですよ?はい。
…虚しいな〜、何が悲しくて一人でこんな事考えないといけないんだろう?
やめよう、自爆するだけだ。
知らない、私は何も知らないんだよ〜。
別に悲しくないよ〜。
よし、帰って麦茶でも飲もう!
私は、転移魔法で家に帰った。