ランクアップと西新宿ダンジョン
「天音ー、昨日の事ニュースになってるよ。」
「あー、やっぱりかー。」
見てみると、『新たな転移魔法使い出現か!?』という見出しだった。
内容も、『転移魔法使いは、あらゆる分野で重宝されるので、大企業や国がスカウトに動くだろう。』とか、私の脅迫の内容が全く語られていない。
そりゃあそうだよね。
転移魔法は、あらゆる場所に一瞬で辿り着けるから、経済的にも、軍事的にも重要な存在だからね。
経済的には、大量の物資を燃料無しで、一瞬で輸送出来るから、貿易での輸送費がびっくりするほど浮く。
軍事的には、敵陣後方や本陣に軍を転送出来るから、奇襲攻撃に重宝される。
そもそも、軍隊の高速移動が可能になるから、軍事的価値がびっくりするほど高い。
酷い使い方をするなら、敵国首都に転移して核兵器を置いて、起動して転移で逃げる。
これだけで、ノーリスクで敵首都に確実な核攻撃が出来る。
転移は最強の移動手段なのだ。
そんな貴重な人材を、脅迫罪なんて下らない理由で失う訳にはいかない。
そもそも、刑務所に入れられても一瞬で脱獄出来るけど。
まぁ、だからいろんな方面から圧力がかかってるだろう。
「転移魔法保持者証明書貰ってくるね。」
「行ってらっしゃい…なにそれ?」
お母さんが質問してきたけど、答える前に転移魔法が発動した。
「やっぱり例の転移魔法使いって、天音ちゃんなのね?」
「うん、だから証明書欲しいんだけど?」
休憩室に転移したら、何故か加藤さんが居た。
加藤さん、びっくりしてコーヒー溢してた。
「局長に言って。後、この前のお礼もするんだよ?」
「あ、菓子折り忘れた。」
「あらら」
何がいいかな?
ちんすこうでいっか。
「ちょっと沖縄にちんすこう買いに行ってくる。」
「はい?」
転移魔法で、この前ちんすこうを買ったお土産屋さんに転移する。
「これください」
スピーディーにちんすこうを購入した私は、すぐに休憩室に転移する。
「ふぅ、間に合った。」
「…」
「どうしました?」
加藤さんが、なんとも言えない表情をしてる。
「転移魔法って便利だね。」
一瞬で東奔西走出来るのはまじで強いと思う。
本気で、日本一周の旅して、どこへでも行けるようにしようかな?
そうすれば、いつでも食べたいもの食べに行けるし。
「局長の部屋ってどこですか?」
「着いてきて、案内するから。」
加藤さんに案内されるって、なんか不安。
そんな、理不尽な不安を感じながら、局長室に向かった。
「失礼します。」
加藤さんが、先に中に入る。
一応、私不法侵入したからね、そのことを加藤さんに説明してもらおうって感じ。
「入って」
意外とすぐに許可が降りた。
「久しぶりだな。と言っても、君はあの時気絶してたが。」
この人がダンジョン管理局の局長…
「一応、自己紹介しておこう、ダンジョン管理局局長の一条だ。よろしく。」
「私も自己紹介したほうがいいですか?」
「いや、君のことは色々知ってるから要らないよ。それより、証明書が欲しいんだって?結論から言うと、すぐには無理だ。」
そうか…具体的には、
「具体的には、一週間程度かかる。それまで、ダンジョンでレベリングでもしておいてくれ。」
「分かりました。それと、この前のお礼です。」
私は空間収納からちんすこうを取り出す。
ちんすこうを受け取った局長は、
「ここで、沖縄のお土産が出てくるあたり、転移魔法が使えるというのはいいな。」
どうやら、局長は私がさっき沖縄に行った事がバレてるらしい。
確かに、沖縄旅行なんてそう行けるものじゃないからね。
転移魔法使いが沖縄のお土産を持ってきたら、転移で沖縄に行ってきたと思われるだろう。
「そうだ、カードを貸してくれないか?一応ランクを上げておこう。」
「え?いいんですか?」
「“将来有望”な君に、先行投資しておくんだよ。」
将来有望というのは、昇華者の件だろう。
外交のカードにもなる昇華者は、多い方がいいだろう。
早く昇華者になれよ、ってことか…
ランクがあがると、高難易度ダンジョンに行けるようになる。
千代田ダンジョンも一応高難易度ダンジョンだけど、浅い層は難易度が低いから、誰でも入れるようになっている。
でも、世の中一階層から、他のダンジョンじゃ最下層レベルの強さのダンジョンだってある。
そういった高難易度ダンジョンに行けるのは、ランクの高い冒険者だけになっている。
高難易度ということは、強いモンスターがいる。
強いモンスターがいるって事は、レベルが上がりやすい。
B以上になってたら、『西新宿ダンジョン』に行ってみるか。
西新宿ダンジョンは、東京に3番目に危険なダンジョンだ。
一階層から、千代田ダンジョン六十階層クラスのモンスターが出てくる。
ちなみに、千代田ダンジョンは2番目で、1番は渋谷ダンジョンだ。
5年前、日本ダンジョン史上最悪の事件、『渋谷大氾濫』を引き起こしたダンジョンだ。
渋谷大氾濫については、また今度話そうかな?
きっと、自分の罪と向き合ういい機会になるだろうし。
「はい、完了したよ。白神天音ちゃん、君は今日からBランク冒険者だ。」
「ありがとうございます。さっそく西新宿ダンジョンに行ってきます。」
「そうか、気を付ける事だ。あそこはかなり危険な…もう居ないし。」
私は、既に転移していた。
よし、誰もいない。
ここは、昔あることに使った場所。
人気のない路地裏だ。
ここでの廃ビルで着替えてから西新宿ダンジョンに行く。
いつもの不審者服だ。
着替終わった私は、マスクと帽子を付けて、ついでにサングラスも掛ける。
これで、私だって分かる人はいない。
「よし、行くか…」
西新宿ダンジョンに向かって転移魔法を発動する。
昔、一度だけ中に入った事がある。
そう、渋谷大氾濫の時だ。
あの時は、何処もかしこも混乱していて、簡単に入ることが出来た。
ここで、持ってきていた服に着替えて、“汚れた”服を処分したんだっけ?
懐かしいな〜
私は、同窓会で久しぶりに母校に帰ってきた大人みたいに、ダンジョンを見て回る。
そして、一通り見たあと、モンスターを探して奥に向かって進んだ。
「メタルリザードか…こんな浅い層所に出てくるなんて、流石西新宿ダンジョン。」
メタルリザードは、名前の通り、鉄で出来た鱗を持つ巨大なトカゲだ。
よく、地竜と間違われるが、トカゲである。
単なる鉄なら、十字剣でスライス出来る。
だが、メタルリザードの持つ鉄は、魔力で強化されているから、あり得ないほど硬く、戦車砲すら弾く。
それに、十字剣じゃ長さが足りないから、急所を切り刻めるかどうか…
「いや、わざわざ切る必要は無いのか…」
私は、メタルリザードの喉元に向かって走る。
あっちはまだ気付いていない。
そもそも、こっちに尻を向けてる。
メタルリザードの足元に飛び込んだ私は、スライディングで喉元まで来ると、ある方向に向けて、十字剣を突き立てる。
そして、メタルリザードが何か言う前に、
「天氷・青氷柱」
青氷柱でメタルリザードの体を内側から破壊した。
そう、私の剣の先は脳がある場所に向いていた。
メタルリザードも、鱗は硬くても中身は比較的柔らかい。
青氷柱なら簡単に貫通出来る。
そして、脳に達した青氷柱は、ヤツの脳をぐちゃぐちゃにした後、凍り付かせた。
「この方法なら、メタルリザードも簡単に倒せる。」
私は、一応死体を回収して、次の獲物を探しに向かった。
しかし、良くない方向でその願いは叶う。
「不死者の王…」
アンデット系最強のモンスター、不死者の王。
いくら西新宿ダンジョンでも、一階層にヤツが現れるなんて、聞いたことない。
最悪、転移魔法で逃げる事も出来る。
私の得意属性は、冷気と聖。
充分勝機はある。
私は、十字剣をヤツに向けて、戦闘体勢に入った。