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息抜き

目を覚ますと、知らない天井があった。

「あ、起きた?」

私のすぐ横に、加藤さんがいた。

「ここは?」

「ダンジョン管理局の本部だよ。局長が凍り付いた五十二階層から、転移石で天音ちゃんを回収したんだよ?」

「局長が…」

私が起き上がろうとすると、全身に痛みが走る。

けど、動けないほどじゃない。

というよりも、

「傷が…」

「ポーションかけて治しといたよ?」

あれだけの傷が治るって事は、少なくとも中級のはず。

いや、完全には治ってないから、中級か…

私は、治っていない傷を、回復魔法で治療する。

「紅茶とコーヒーどっちがいい?」

「緑茶で」

「はいはい、紅茶ね〜。」

いや、緑茶のパックあるじゃん、入れろよ緑茶。

しかし、私の熱烈な視線を無視して紅茶を出してきた。

「で?『黒』と戦ったって本当?」

「あっつ!?戦ったよ、人型の奴と。」

私は、思ってたより熱かった紅茶を、冷気で冷やしながら返事する。

「砂糖とミルクは?」

「いらない…飲む前に出すでしょ普通。」

気が利かない加藤さんを睨みながら、いい感じにぬるくなった紅茶を飲み干す。

「もっと上品に飲めばいいのに。」

「私は、貴族じゃないからいいの。」

漫才のようなやり取りしかしてない気がする。

「話戻すけど、『黒』は強かった?」

「過去2番目に強かった。」

「1番は?」

1番…あいつしかいない。

「グモラとかいう、試練の界十五階層のボス。」

正直、他のボスは苦戦しても、普通に勝てるという感じで、なんだかんだ弱かった。

けど、グモラと『黒』は別だ。

技術と経験とレベルを積み重ねて勝つ奴だ。

他のザコボスとは訳が違う。

「『黒』はあれでも下から2番目何だよ?」

「うん、竜型に関しては昇華者が四人集まって倒したんだよね?」

「ロサンゼルスを、瓦礫の街に変えたあいつのことね。」

竜型の『黒』が、発見されたのはアメリカのロサンゼルスだけ。

そのロサンゼルスは、四人の昇華者と竜型の『黒』の激戦で、街が完全に崩壊し、『瓦礫の街 ロサンゼルス』と呼ばれている。

「昇華者が四人いるって、『黒』って本当に化け物だよね。」

「…表向きにはね。」

「え?」

何か、伏せられるいる情報があるんだろうか?

「ロサンゼルスで現れた竜型の『黒』。あれって、竜型の中でも一番弱い個体らしい。」

「は?」

ちょっとなに言ってるか分かんない。

「『黒』は、見た目で強さが分かるけど、その中にも、当然個体差がある。これまでの『黒』の情報から調べたところ、あのロサンゼルスの『黒』は、最弱クラスらしいよ?」

大都市を壊滅させる程の力があるのに最弱?

『黒』って本当に化け物だね…

「その話、私に言って良かったの?」

「大丈夫でしょ。天音ちゃんは、未来の昇華者だから。」

昇華者って便利だなー










「お帰り」

「ただいま」

家に帰ってくると、お母さんが居るっていいね。

安心感が倍増する。

「天音はお昼食べてきたの?」

「いや、食べてないよ。でも、もう三時か…」

ダンジョンに潜ってると、時間の感覚が狂うな。

気付いたら深夜とかになってそう。

「せっかくだし、どこか喫茶店にでも行く?」

「行く!」

お母さんと喫茶店に行くなんて、いつぶりだろう?

四、五歳のときに、一回行った以来かな?

…本当、あのクソ親父を“殺して”良かった。

「どこに行く?」

「あそこ行きたい、ちょっと前に出来た、高級喫茶店。」

「喫茶ジャスミン?」

「そう!そこ!」

喫茶ジャスミン

二年前に出来た、高級喫茶店で、コーヒー1杯で二千円くらい取られる、庶民がなかなか行けない喫茶店だ。

あそこの、オレンジタルトが、本当に美味しいらしい。

…めっちゃ高いけど。

どうせ、お金には困ってないし、別にいいかな?

「いいの?かなり高いって聞くけど…」

「お腹いっぱいになるまで居ても、一日もあれば消費した分稼げるから、大丈夫だよ。」

「頼もい娘に育ったわね。」

これから、昇華者になったら、さらに頼もしくなるけどね。

私は、お母さんを連れて、喫茶ジャスミンに向かった。










「凄い…」

「綺麗ね…」

高級感漂う店の雰囲気に、私とお母さんは、開いた口が塞がらなかった。

「いらっしゃいませ、2名様でよろしかったでしょうか?」

「あ、はい。」

「こちらへどうぞ。」

奥からやってきたイケオジに連れられて、窓際の席に来る。

ここは、一応十階。

景色は…ビルの壁しか見えない。

まぁ、この辺は高層ビルが少ないから、高い階から一望とかは出来ないんだよね。

この喫茶店も、十二階建ての十階だし。

「高っ!」

メニューを開いたお母さんが、あまりの値段にびっくりしている。

「お母さんは何にする?」

「決まってるでしょ?オレンジタルトよ。」

「私も」

そして、店員さんを呼ぶために、ベルを鳴らす。

すると、すぐにさっきのイケオジの店員さんがやってきた。

「ご注文は?」

「オレンジタルト2つとブラックコーヒーを「私も」じゃあ2つで。」

「他には?」

「ありません」

それを聞くと、「少々お待ち下さい。」と言って、去って行った。

ん?

「お母さん、どうしたの?」

「え?何?」

お母さんって、イケオジって感じの人が好きなのかな?

絶対見惚れてた。

でも、再婚はしてほしくないな。

“また、殺さないといけなくなるし”

「お母さん、今日は休みだったの?」

「引き継ぎとかを全力で終わらせて、無理矢理休みを作ったの。『退職金減らすぞ!』って言われたけど、『退職金なんて無くても、今から余生を遊んで暮らせるお金があるから必要ありません。』って言ってやったわ。」

「娘のヒモになる気満々だね…」

確かに高収入だし、昇華者の寿命は人間とは、比べ物にならない。

お母さんが死ぬまで…いや、死んだ後も現役のはず。

…そうか私の親しい人が、みんな死んだ後も、私は生き続けるのか…

いや、今そんなこと考えても意味無いし、もっと別のときに考えよう。

昇華者になってからとか。

「お待たせしました、ブラックコーヒーとオレンジタルトです。」

ちょうど注文したタルトとコーヒーがやってきた。

「ごゆっくり」

ちなみに、お母さんはしっかり見惚れてた。

「それじゃあ、いただきます。」

私は、ナイフでタルトを細かく切って、フォークでさして食べる。

一緒に出されたって事は、そういうことでしょ?

「ん!」

私はびっくりした。

美味しいタルトは、かなり甘くて、生地がサクサクしてた。

けど、このタルトは甘さ控えめで、生地がふわふわしてる。

でも、この控えめくらいの甘さと、ふわふわの生地が癖になりそうだった。

それに、中のオレンジがいい感じに焼かれていて、ほんのり香ばしい。

「一万近く出す価値あるわ〜」

「ほんとね〜」

…お母さん、食べるの早くない?

私がまだ一口しか食べてないのに、もう半分近く食べてるよ…

「お母さん、お一人様一つまでだよ?これ。」

「分かってるよ、こっちのパンケーキとか、モンブランとか、色々食べたいの。」

「だからって、そんなに急がなくても…」

私がタルトを食べ終わる頃には、お母さんはメニューにあるスイーツの、半分を食べていた。




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