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精神的変化

「外に出るよ?」

あれから、どれだけの時間が経ったかは分からない。

ずっと、自分の世界に入っていたから。

この女性のお陰で、私は傷一つついていなかった。

でも、誠くんは違った。

どんなに強い回復魔法を使っても、誠くんが良くなることはない。

外に出た後も、私はぼーっとしていて、あの女性が説明をしてくれた。

「おーい、大丈夫ですかー?」

職員さんの声ではっとした。

でも、ちょうど誠くんが運ばれていった時だったから、私は思わず泣いてしまった。

職員さん達は困惑しているし、周りの人は同情の目を向ける事しか出来ていない。

あの女性は、電話をしているようで、私のことは眼中に無いらしい。

私は、散々泣いた後、疲れて寝てしまった。










目が覚めると、病院のような所で寝ていた。

「目が覚めたようね?」

私のベットの横で、ゴリマッチョのオカマがいた。

「えっと、モモさんですよね?」

「ええ、私はモモよ?」

モモさんは、組合で受付嬢をしている人だ。

誠くんとダンジョンに潜る前に会っていた。

すると、モモさんはスマホを取り出して、誰かに電話を掛ける。

「もしもし?例の人が起きたわよ?」

例の人…私の事か。

電話の相手は誰だろう。

「分かったわ、じゃあね。」

モモさんは、電話を終える。

「貴女を助けてくれた人、その人に電話してたの。安否が気になってたみたいだからね。」

「そうですか…」

「えーっと、夏海ちゃんだったわね?」

「はい。」

私の名前、覚えてくれてたのか…

「貴女を助けてくれた人、根は優しいし、いい人なんだけど、ちょっと言い方がきつい時があるから、覚悟しておいてね?」

いや、そんな人と話したくないんだけど…

でも、命の恩人だし、それくらい受け入れたほうがいいか…



数分後、病室に私と同い年くらいの少女が入ってきた。

「いらっしゃい、あら?それは?」

「お見舞いのカステラです。途中のお菓子屋で買ってきたんですよ。」

途中にお菓子屋さんがあるのか…

「へぇ〜、美味しいの?」

「いえ、食べたことは無いです。」

なにそれ?

ちゃんとお見舞いする気あるのかな?

それとも、それっぽい物を買ってきたとか?

どっちにしても、私に興味無さそう。

「で、あの人は?」

「あ、えっと、上杉夏海です。高校二年生です。」

「あっそ、白神天音、高校は辞めた。」

なんと言うか、この人、親しい人以外興味ないタイプの人間だ。

「高校二年生って事は、天音ちゃんと同い年じゃない。」

「そうですね、同い年ですね。顔も名前も知らないので、どうでもいいです。」

「天音ちゃん、本当に人に興味ないわよね…」

同い年なのか…というか、この人失礼過ぎない?

「ダンジョンデートしてたんだっけ?あれ、強い人とか経験豊富な人が一緒じゃないと、ただの心中だよ?」

「っ!」

慰める事くらいしてよ、普通そんな言い方しないでしょ。

なんなのこいつ、人を思う気持ちとかないの?

私は、誠くんを失った悲しみよりも、この女への怒りの方が大きくなった。

「助けてもらったのに、睨むってどういう事?」

「恩着せがましいですね。こんなことなら、あそこで誠くんと一緒に死ねばよかった。」

私の言っている事は、失礼極まりない事だ。

命の助けてもらった人に、あの場で死んだ方がよかったなんて、嫌味や皮肉なんてレベルを通り越してる。

でも、周りも許してくれるはず。

コイツは、悲しんでいる人の傷口を、無意識に抉ってる。

このくらい許されるはず。

「じゃあ、今から死んでみる?」

そう言って、コイツは剣を取り出した。

「ええ、殺ればいいじゃあないですか!私を殺してみなさいよ!」

私は、起き上がって近付く。

すると、コイツは剣を振り下ろして来た。

そんな、本気にするとこないじゃん!?

避けられない、確実に首に当たる。

これ、死んだかな?

私の首のすぐそこまで剣が届いたその時、

「やめなさい!!」

モモさんが止めてくれた。

私は、その場にへたり込んでしまった。

「ハァ…ハァ…」

呼吸が荒い、死の恐怖で焦ってたのか。

「なんてことするの!?」

モモさんが、アイツの肩を掴んで怒鳴る。

当然だよね、あと少しで目の前で殺人事件が起こるところだったんだから。

「もしかして、それもビックリソード?」

ビックリソードって、一切傷付ける事が出来ない、本物そっくりの剣のはず。

「ええ、これは…」

アイツは、私の方を向いて剣を振る。

すると、剣が頬を掠って、チクリという痛みが走った。

「痛っ!?」

私が思わず手を当てると、何か濡れたものを触るような感触があった。

手を見てみると、そこには血がついていた。

「本物…」

「天音ちゃん!いくら貴女が…」

モモさんは私の方を見て、途中で口を閉じた。

私の前では言えない何かがあるんだろう。

「とにかく、どうしてこんなことしたの!?」

すると、

「彼女がそれを望んだからです。」











「彼女がそれを望んだからです。」

そんな理由で…

今日の天音ちゃんは、何かおかしい。

以前の天音ちゃんなら、こんなこと言わないし、そもそもあんな事もしない。

昇華者になりかかっている事で、精神が変わってきてるのかしら?

「だからって、貴女が人殺しになるだけよ?どうして…」

人殺し?

天音ちゃんは、夏海ちゃんに剣を振り下ろす事に、なんの抵抗も感じていないように見えた。

まさか、もう人を…

「天音ちゃん、もしかして、もう経験してるの?」

「何をですか?」

ここまで来たら、引けないわね。

「…人殺し」

天音ちゃんは、きょとんとして、

「まさか、そんなことしませんよ。」

そりゃあ、そうよね。

普通、人殺しなんてしないわよね?

でも、天音ちゃんが変わってきてる事に違いはない。

昇華者は、人間のことを他種族としか考えていない。

だから、人殺しに対する抵抗も薄いらしい。

有名なのは、あの子の言った『人殺し?ゴブリンを殺すくらいの感覚ですよ?』だ。

同族でなくなった事から、精神的にも簡単に人を殺せる。

人を傷つける事も簡単にやってしまう。

天音ちゃんも、そうなってきているんだろう。



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― 新着の感想 ―
[一言] 詳しい事は何も書かれていなかったけど、Eランクの二人は実力で51階層に行った訳では無く、転移罠でも踏んだのか???
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