十五階層
階段を下った先には、前に見た巨大樹の森林が広がっていた。
「あちこちに、結構強い気配がある。五階層のサイクロプスと同じくらいか…」
私は、取り敢えず近くの木に登ってみる事にした。
「木登りなんてしたことないけど、筋力と体力でいけそう。」
私は、木の中腹くらいまで来たときに、あることに気がついた。
「これ、氷で足場作ればいいんじゃ…」
私は、魔法で氷の足場を作る。
強度を確認すると、氷の上に乗ってみた。
「最初からこうすれば良かった…」
私は、一定間隔で氷の足場を作る。
そして、桃の姫を助けに行く、赤いおっさんのように氷の足場を飛んで、上に向かった。
「着いた…最初からこうすれば、もっと疲れずに来れたのかな?」
うん、深くは考えずにいよう。
私がそんなことを考えていると、気配が一つ近づいている事に気付く。
出来るだけ気配を消して、ソレが近くまで来るのを待った。
そして、
「やっぱり、サイクロプス…」
五階層で戦ったサイクロプスと、同種の巨人が現れた。
私に、力を手に入れて浮かれていた私に、現実の厳しさを突き付けた、あのサイクロプスがいた。
「今なら、楽しょ!?」
私は、サイクロプスが振り返って、こっちを見てきている事に気が付いた。
気配は消していたはず、それなのに気づかれた?
「ッ!?」
私は、下を見て恐ろしい事に気付き、すぐに木から他の木へ乗り移った。
私が飛ぶのと同時に、私がいた場所に岩が飛んでくる。
轟音で、体勢を崩しそうになった。
「気付かれてるなら、隠れる必要は無いね。」
私は、すぐに木から飛び降りる。
そして、十字剣を構えながら落下した。
サイクロプスは、それを見て棍棒を構える。
「残念!」
私は、十字剣を介して、氷魔法を発動する。
十字剣を使うと、普通に発動するよりも、高威力の魔法を放つことができる。
そして、無数の氷塊が、サイクロプスに向かって降り注ぐ。
「グオォ!?」
地面や、サイクロプスに当たった氷塊は、爆発して周囲を凍らせる。
当然、サイクロプスの身体も凍らせる。
身体が凍りつけば、動きづらくなる。
「オーブから得た技術の中にあった、爆氷。普通に強い…」
『爆氷』
文字通り、爆ぜる氷。
衝撃で爆発して、周囲を凍らせるという魔法だ。
これ、青氷柱に応用できないかな?
直撃した場所に、氷が出現するっていう、厨ニ心を刺激される技が出来そう。
「グゥ…グオオォォォ!!」
「怒り状態になっちゃったかな?」
正直、まったく敵として見てない。
上から青氷柱を放つだけで、コイツは倒せる。
ただの、的でしかない。
だから、魔法の実験体として、的になってもらおう。
私は、サイクロプスに向けて、いろんな魔法を放った。
「う〜ん、流石に可哀想だったかな?」
身体が凍りついて、動かなくなったサイクロプスが転がっていた。
「これでも、死んでないんだよね…」
流石アンデット、って言ったところかな?
私は、さっきの実験で手に入れた、聖属性の魔法を使ってみる。
「名前、何にしようかな?…『ターンアンデット』で、いっか。」
考えるのが面倒くさかった私は、よく言われる対アンデットの魔法である、『ターンアンデット』と呼ぶことにした。
ターンアンデットで、サイクロプスを消滅させる。
「そういえば、どうしてアンデットの巨人しかいないんだろう?」
試練の界で、アンデットじゃない巨人と出会ったことがない。
みーんなアンデットだった。
天氷で消滅させられるから、楽でいいけど。
「もしかして、戦争で死んだ巨人をダンジョンに放り込んだとか?」
それなら、十一から十四階層の巨人が消えたのも、納得がいく。
全ての巨人を狩り尽くしてしまったから、新しい巨人が補充されなかったからのはず。
「そう考えると、天使のアンデットとか出てくるのかな?」
そもそも、天使ってアンデットになるのかな?
アンデットの天使なんて、想像したくないけど…
「巨人の数が有限なら、全て倒したら安全なのかな?」
だとしたら、試練の界でのレベリングは、有限って事になる。
まぁ、他のダンジョンに行けば良いだけなんだけど。
レベリングをするなら、他のダンジョンに行った方がいいんだろうか?
試練の界の巨人は、どれも強力だ。
自分の力を試すには、丁度いい。
「まぁ、気にする程でもないか。」
今でもレベルの上がりはいい。
わざわざ他のダンジョンに行ってレベリングをする必要も無いか。
「さて、他のサイクロプスを探しに行くか。」
私は、魔石を回収して他のサイクロプスを、探しに歩き出した。
「期待の新人?」
『ええ、と〜っても強いの。』
モモが、ある人物に電話していた。
「興味ないわ、どうせ私より弱いし。」
『そう…、昇華者の貴女からしてみれば、殆どの人が貴女より、弱いじゃない。』
モモの言葉に、少女は不満そうに眉間に皺を寄せる。
「私と人間を同じにしないでほしいね。下級種族である人間と同じにされるなんて、人間とサルを同じにしてるようなものよ?」
人間とサルを同じにする。
昇華者にとって、人間と同じにされるのは、侮辱に感じるらしい。
『ごめんなさい、そんなつもりは無かったの〜』
「分かってるよ、次からは気を付けて。」
少女は、ソファーから立ち上がり、窓に向かう。
カーテンを開ければ、ビルの頂上が見える。
「強さで私の気を引きたいなら、昇華者でも連れてきなさい。」
『そうねぇ、次からはそうするわ~』
「じゃあ切るね。」
そうやって、少女は返事を待たずに電話を切った。
電話を切った事で見えた、通知の数々にため息をつく。
「私の代わりに仕事してくれる、新しい昇華者が現れないかな〜」
窓の外を見て、
「居るわけないよね〜」
諦めて、溜まった仕事をしにむかった。