技能玉
「おはよ〜」
加藤さんが眠そうにしながら、部屋から出てきた。
「おはようございます、朝ごはんできてるので、早く食べて下さい。」
昨日は、帰ってから小一時間程説教した後、うちに泊まってもらった。
今の時刻は、六時半。
お母さんは既に仕事に行っている。
引き継ぎとか、辞める前に済ませないといけない仕事が沢山あるんだって。
「天音ちゃん、料理上手だね。」
加藤さんが褒めてくれた。
「お母さんが朝早くに出るから、朝ごはんとかお弁当を自分で作ってたので。あ、それは加藤さんのお弁当です。」
私は、加藤さんが気にしていたお弁当の紹介をする。
「お弁当箱は、私が使ってた物なんですが、中身は野菜多めで作ってます。」
「へぇ〜、女子力高いね。」
「いいえ、加藤さんって、ちゃんと野菜食べてなさそうなイメージがあったので、野菜多めにしたんです。ちゃんと食べて下さいね?」
うん、図星っぽい。
野菜ちゃんと食べないのに、あんなにお酒飲んでたら早死する。
定期的に野菜弁当でも作って、持っていこうかな?
「ごちそうさま。」
「ちゃんと噛みましたか?」
「良いでしょ別に。」
「太りますよ?」
でも、加藤さんって、あれでスタイルいいんだよね。
羨ましい体質だ。
加藤さんは、朝ごはんを食べ終わると、着替えに行った。
私は、加藤さんが着替えてるうちに、荷物をまとめておく。
…お弁当も忘れないように、入れておく。
着替え終わった加藤さんと一緒に玄関まで行く。
そして、私も外に出て鍵を閉める。
「行ってきます!」
加藤さんは、私からカバンを受け取ると、元気のいい声で挨拶してくれた。
「行ってらしゃい!」
だから、私も元気な声で送り出した。
…なんか、お母さんになったみたいな気分。
…昇華者は子供を作れないって本当なのかな?
もし、本当なら少し悲しい。
いや、記録氷の天使は、普通に結婚して子供もいた。
少なくとも、天使は子供を作れる。
問題は、他に天使がいるかどうかだけど。
私は、そんなことを考えながらダンジョンに向かった。
「これで、235体目っと。」
私は、11階層から、14階層までの4階層で、巨人を狩りまくっていた。
理由は簡単、15階層から、急に難易度が上がったから。
15階層に降りたときは驚いた。
まさか、遺跡風のダンジョンの中に、高さ数十メートルはありそうな、巨大樹の森林が広がっていたなんて。
明らかに様子がおかしく、サイクロプスが歩いていたので、一度レベル上げのために、この4階層でレベリングをしていたのだ。
「う〜ん、まったく気配がない。狩り尽くしたか?」
だとしたら、また別の階層でレベリングをすればいい。
取り敢えず、11から14階層は使えなくなった。
「一応、隠し部屋が無いか調べてから行こう。」
私は、隠し部屋を探して歩き回った。
一時間後、
「フッ!」
私は、ある壁を十字剣で突き刺す。
「ギャア!?」
すると、壁は悲鳴を上げて倒れ、消滅した。
壁に擬態したアンデットだったのだ。
「確か、『偽壁霊』だったけ?」
偽壁霊は、もたれ掛かったりしない限り、襲ってくる事は無い。
冒険者からは、隠し部屋発見の重要な手がかりと言われている。
気配は、まったく感じ取れなかった。
けど、金眼からは逃げられない。
見たとき、これが偽物の壁ということや、アンデットであるということまで分かった。
試練の界で手に入るアイテムは別格だね。
ミミックウォールの向こうには、部屋があった。
「やっぱり隠し部屋があったか…」
隠し部屋には、前みたいな水晶玉があった。
ネットで調べてみたら、アレは『技能玉』って言われてるらしい。
スキルと同じ要領で、技術を得ることができて、努力を否定するようなアイテムらしい。
だよね、水晶玉に触れるだけで数年分の技術が手に入るって、努力は無駄って言ってる様なものだからね。
でも、剣の才能が無い人でも、剣を使えるようにさせる、という利点もある。
それに、オーブで得た技術を教えることで、多くの人が剣を使えるようにさせる目的もあるんだろう。
というか、後者の目的の方が強いはず。
それが『魔法』
魔法は完全に未知の技能だった。
最初は誰も使えない、誰も知らないって状況だった。
でも、魔法の技能玉を手に入れた誰かが、世界に魔法の使い方を広めて、今では多くの人が魔法を使っている。
魔法ってのは、難易度の高い武器を使うような物で、よほど才能が無い、なんて事が無ければ誰でも使える。
日本はまだだけど、イギリスとかアメリカとか中国の諸外国では、魔法が必修科目になっていたりする。
特に、イギリスでは魔法の専門学校があるくらいには、魔法への関心が高い。
そのうち、魔法敗戦国とか言われそう。
「さて、このオーブには何が入ってるかな?」
私は、オーブを使う。
すると、やはり激痛が襲ってきた。
「うぅ、やっぱり痛い…」
十秒程で痛みは引いた。
けど、オーブを手に入れる度に、あの激痛に襲われるのはちょっと…
「これは…魔力操作?」
今回手に入れた技術は、魔力操作に関するものだった。
私は、氷魔法を発動してみる。
「なに、これ…」
いつもの倍はありそうな大きさの氷が、いつもの半分の魔力で出すことができた。
それに、魔力操作には技術が向上したことで、身体能力もかなりあがった。
「これなら、十五階層も行けるかも…」
私は、巨大樹の森林である、十五階層に向かった。