酔っぱらいの介護
「天音ちゃん家でお泊り〜」
「はぁ、また酔っぱらいの介護か…」
私は、うんざりしながら加藤さんを支えて、帰路を歩いていた。
正直、どうしてあんな約束しちゃったのか、後悔している。
酔っぱらいの介護なんて地獄でしかない。
酔っぱらいの対応をしてる警察も大変なんだろうな〜
やっぱり警察官には、感謝しかない。
「天音ちゃん、もう一軒行かない?」
「行きません、さっさと帰りますよ。」
「え〜、良いじゃん、行こうよ。」
はぁ、これだから酔っぱらいは…
コレに同情する二人の心境がマジで理解出来ない。
そんなことを考えながら、歩いていると、
「何あの人だかり。」
人だかりと管理局の車が止まっていた。
冒険者が何か問題を起こしたかな?
「ただでさえ低い冒険者の評判を、落とさないでほしいな〜。」
私は、少し見に行ってみることにした。
「ぶち殺してやんよ!!」
「やってみろよクソ野郎!!」
「二人共落ち着いて!!」
はぁ、どうして管理局なんて仕事選んだんだろうか?
俺は、目の前で起こってる冒険者同士の喧嘩を見てうんざりしていた。
「駄目だな、酔っ払ってるせいで、話にならん。」
「どうします?あいつらこれでもCランクなんですよね?」
「ああ、だから俺等じゃ抑えきれねぇ。」
Cランクは、凡人の限界なんて言われてるが、普通に強いやつが多い。
こいつらも、腕力だけは強い。
どうしたものか…
「死ねぇ!!」
俺達が、呑気に作戦を練っていたせいで、一人が殴りかかろうとした。
その時、後ろからものすごいスピードで俺の横を通り過ぎた奴が、男の前に立ち、裏拳で男を殴り飛ばした。
「な!?」
「あいつ…何もんだ?」
よく見たら、うちの妹と同じくらいの少女だった。
そんな少女が、Cランクの冒険者を殴り飛ばしたんだ。
「何邪魔してくれてんだ!死ね!!」
もう一人の男が、謎の逆ギレをして、少女に殴りかかった。
しかし、少女はひらりと回避して、カウンターを鳩尾に叩き込み、気絶させた。
「すげぇ…」
俺が素直に驚いている中、先輩は、
「剣術の応用か?あの裏拳、抜刀に動きがそっくりだ…」
少女の身のこなしについて、考察していた。
「おい、クソガキ。よくもやってくれたな、お礼だ、俺の剣を喰らえ!!」
先に殴り飛ばした方の男が大剣を振り下ろした。
「危なっ!?」
少女は、一瞬で剣を取り出し、受け流した。
そして、出来た隙きを見逃さず、剣を振り上げて顎に直撃させた。
「折れた剣で…」
そう、さっきの行動は、折れた剣で行っていた。
俺は、先輩の考察が気になってしまった。
「剣術のスキルでも持ってるのか?じゃなきゃあんな動きは出来ない…」
「ねぇ。」
「ん?」
少女が先輩に声を掛けた。
「管理局の人間でしょ?さっさと回収したら?」
「ああ、済まない。」
俺達が回収に向かおうとした時、
「あんまり私を探るような考察はしないでね?不快だから。」
詮索するな、という事だろう。
少女は、少しだけ歩いて足を止めた。
「流石天音ちゃんだね〜、よしよし〜」
俺達は、少女の頭を撫でている女性を見て、目を疑った。
「加藤さん、私そんなに子供じゃないんです。頭撫でるのやめてくれません?」
「ええ〜?」
加藤さん…やっぱり、
「「加藤副長!?」」
『加藤 紫織』
ダンジョン管理局の二人の副局長の一人だ。
何故そんな人がここに…それも酔っ払って。
「副長…副局長か?加藤さんって、エリートだとは思ってましたけど、副局長だったなんて…」
「ふふん!私は凄く偉いんだよ?だから、もう一軒行こうよ〜」
「行きません、もう帰ります。」
「ケチ〜」
「大体、副局長って事と、はしごする事になんの関係があるのですか?」
確かに…
「私の命令ではしごしようって事。」
「減給されるような人に命令されるんですか?」
「あーあ、言っちゃった!私傷付いてるのにな〜!言っちゃったか〜」
うわ〜、面倒くさいタイプの人だ…副局長とお酒に行くのは絶対やめよ。
「はいはい、大変でしたね〜。さ、帰りましょうね〜。」
凄い、受け流すのが上手い。
「ヤダ〜!まだ飲むの!」
「駄目ですよ、家で炭酸ジュースでも飲みましょう?そして、さっさと寝てください、明日は仕事ですよ?」
この子、加藤さんの扱いに慣れてるな…
「う〜、天音ちゃんの馬鹿!この人でなし!!」
「はいはい、それでいいですよ~」
「鬼!悪魔!メスオーク!!」
「んだと?」
あ、コレヤバイやつ…
「先輩、逃げましょう!!」
「分かってる!けど、あいつ等を乗せねえと。」
あー、忘れてた!
「誰がなんだって?」
「あ、いや、その、ね?」
強烈な殺気で酔がある程度冷めたのか、加藤副長が慌ててる。
「あれ?酔が冷めてしまいまた?ついでに身体も冷やしてあげますね?」
加藤副長の周りに氷が現れる。
「天音ちゃん?どうして氷が出てきてるのかな?」
副長は、冷や汗ダラダラで質問する。
「決まってるじゃないですか。汗をかいて、熱がってる加藤さんを、氷漬けにして冷やしてあげる為です。百年くらい眠ります?」
副長が、視線で助けてほしいって言ってきたけど、思わず目をそらしてしまった。
「あ、天音ちゃん、あれは酔った勢いで「酔った勢いで?」そ、そう!酔った勢いで!」
副長、それ良くないと思います。
「私、ここまで酔っぱらいの介護しながら歩いて来たんです。暴れるし、はしごしたいなんて言い出すし、罵声は浴びせられるし、よく頑張ったって思いません?」
「お、思います。」
「ですよね?私、相当ストレス溜まってるんです。サンドバッグが欲しかったところなんです。」
副長は、また冷や汗を流して、
「まるで、サンドバッグがあるみたいな言い方だけど…」
「…」
少女は、何も言わずニコニコしてる。
そして、恐怖に負けた副長が、
「すいませんでしたーー!!」
凄い勢いで、ジャパニーズDO☆GE☆ZAをする副長。
「この怒り、法に触れず晴らすには、どうすれば良いでしょう?」
「えっと〜、ダンジョンで発散するとか…」
「私は、ストレスの原因で発散したい所ですが?」
副長は、慌てて話題変えようとする。
「ま、まあ、一旦天音ちゃんの家に行こうよ。お母さんも待ってるんだじゃないの?」
「そうですね、一旦帰りましょう。家なら人の目もないですし。」
自分の首を絞めたな、副長。
「あー、私酔も冷めたし、自力で帰るね。」
「今夜は、ずっと一緒ですよ?徹夜でお話ししましょう。嫌なら、肉体的にでも良いんですよ?」
結局、諦めた副長は、少女の家に連れて行かれた。