解析と焼き鳥
「ありがとう、今日はとっても楽しい一日になったよ。」
「色々してもらってすいません、白神先輩。」
「いいわよ、私も二人の恋愛の様子を見てて楽しかったし。」
下ネタと恋愛は、万国共通だからね。
誰が見ても楽しいものなのよ。
「はい、タクシー代。」
「ありがとう、天音はどうするの?」
私か…
「加藤さんを拾って、焼き鳥屋にでも行こうかな?って考えてる。」
そう言うと、二人は哀れむ様な目をして、
「加藤さんに優しくしてあげるんですね。先輩」
「良かった、顔も知らないけどなんだか嬉しい気持ちになるね。」
正直、どうして二人が感動してるのか、まったく分からなかった。
あんな、碌でもない女に同情する理由が分からない。
…いや、知らないからだけなんだろうけど。
そこに、タクシーがやって来る。
「それじゃあ、またね。」
香織が、タクシーの中に入った。
「先輩、今日は本当にお世話になりました。」
矢野ちゃんもタクシーの中に入っていった。
私はそれを見送ると、スマホを取り出し、電話をかける。
「もしもし、加藤さん?」
『天音ちゃ〜〜ん!!』
私は、思わずスマホを耳から離す。
「まだ仕事中ですか?」
『うん、でももうすぐ終わるよ?』
「なら、ちょうど良かった。焼き鳥屋にでも行きません?私が出すので。」
スマホの奥から息を呑む音が聞こえて、嫌な予感がした私は、スマホを耳から離した。
『ありがとう〜~!!』
スピーカーにしてないのに聞こえる程の大声、周りに人が居なくて良かった。
『八時くらいに天音ちゃんの家に行くね?』
「分かりました、待ってますからね?」
『ありがとう!天音ちゃん愛しt』
変な声が聞こえたので、途中で電話を切った。
八時?今六時だよ?
…取り敢えず、家に帰って魔力操作の練習でもしようかな?
私は、昇華者の脚力と持久力をフル活用して、家まで走った。
「欲しいなー、転移魔法。」
一般人とは、比較にならないくらいの持久力があるとはいえ、移動が面倒くさくなってしまう。
「転移魔法で、シュッ!ってやってパッ!って家に帰れたらな〜。」
空間収納のやり方を解析すれば、出来ないことはないだろうけど、
「解析がひたすら面倒くさい。」
前にも、空間収納を解析して、空間魔法を使えるようになろうとしたけど、結局出来なかった。
「もう少しだけ、やってみるか…」
私は、空間収納を起動して、解析を始める。
「ん?解析ってこんなに簡単だったけ?」
まだまだ時間が掛かりそうとはいえ、以前解析した時よりも早く解析出来ている気がする。
「レベルアップの恩恵かな?」
レベルアップして、頭が良くなった、って話はよく聞く。
それの影響だろうか?
そんな事を考えていると、
ピンポーン
家のチャイムがなった。
「はーい…加藤さんか…」
「ねぇ、酷くない?」
加藤さんは、半分涙目になっている。
「というか、もう八時なのか…」
「?」
加藤さんが、如何にも?マークが浮かんでいそうな顔をする。
「何してたの?」
「空間収納を解析して、空間魔法を習得しようとしてました。」
「うわぁ…」
加藤さんは、顔を歪める。
「それ、めっちゃ大変だよ?電卓無しで、十桁✕十桁をするようなものだよ?」
そんなに難易度が高いのか…
そりゃあ、2時間くらい一瞬で過ぎて当然か…
「まぁ、良いじゃん。それより、焼き鳥屋に早く行こうよ?」
「お酒が飲みたいだけですよね?」
「えへへ〜」
「可愛くないですよ?」
あ、めっちゃ落ち込んでる。
う〜ん、ここまで落ち込まれると罪悪感が…
「介護とかもするので、好きなだけ飲んで下さい。」
「やったぁ~」
きっと、尻尾があったら、ものすごい勢いで振ってそうな喜び方をしてる。
というか、無いはずの尻尾が見えてる…疲れてるのかな?
私は、ルンルン気分の加藤さんについていったせいで、周りから、奇妙な物を見る目で見られた。
解せぬ。
「イヤッホー!お酒〜!!」
「これ何杯目ですか?ちょっとハイペースすぎるんじゃ…」
「イェ~イ!私はウサイン・ボルト〜!!」
「駄目だこりゃ。」
加藤さんは、ハイペースにお酒を飲みすぎて、すでにおかしくなっている。
「すいません、氷が無くってしまいまして…」
奥から、店員が申し訳無さそうに出てきた。
「おいおい、ふざけんなよ!?」
ガラの悪そうな酔っぱらいが、店員にいちゃもんをつけ始めた。
「今すぐ走って買ってこいよ、氷。ヌルい酒なんて飲めるかよ!」
「申し訳ございません。」
「んだと、ゴラァ!!」
男が拳を振りかぶる。
奥にいた女性の店員が小さく悲鳴をあげる。
そして、男の拳が店員に当たりそうになったとき、
「ヤンチャが過ぎるよ、おっさん。」
私が拳を止めた。
「何だとクソガキ!!」
男は、私の手を振り払おうとするが、ピクリとも動かない。
こいつ、冒険者か?筋力が一般人より遥かに強い。
店員を殴っていたら、どうなっていた事か…
「チッ、離せ!」
「冷たい酒が飲みたいんだろ?私は氷魔法が使える。氷ならいくらでも出してやる。けど、」
私は、冷気と殺気をブレンドした魔力を放出する。
すると、加藤さん以外の全員が顔を青くする。
「お前の頭を直接冷してからだ。」
私は、髪の毛だけを氷漬けにする。
「ヒィ!!」
そして、冒険者カードが男のポケットから落ちてくる。
ランクはEランク。
「調子に乗るなよ?雑魚冒険者。」
私は、一回睨みつけて席に戻った。
「ヒュ〜、流石だね〜天音ちゃん。」
「加藤さん、残業ですよ?ほら。」
私は、男の冒険者カードを加藤さんに渡す。
すると、加藤さんは嫌そうにして、
「明日するから、預かっとくね~」
と言って、カードをポケットにしまった。
そこで、さっきの男が口を開く。
「俺のカード…」
ああ、そうか…
「言ってなかったね、この酔っぱらいは、ダンジョン管理局の一応エリートの加藤。一般人への暴力行為でペナルティが発生するね。」
男は、魂が抜けた様な顔で座り込んだ。
因果応報ね。