四本腕の巨人
「ここで終わり…いいところでお預けにされちゃった。」
私は、不満を抑えきれずにいた。
しかし、そんな事もしていられなくなる。
氷が割れ始めたのだ。
「天使を簡単に倒す殆ど、四本腕の巨人は強い。油断するな、私。」
私が構えた瞬間、氷が砕け散る。
そして、
「先手必勝!!」
私は、四本腕の機動力を奪う為に、アキレス腱を切ろうとする。
しかし、
「き、切れない!?」
今の私の腕力と、技術では、アキレス腱を切ることは叶わなかった。
しかし、かなり奥まで刃が入った。
次は必ず切る。
「どこ見てる、デカブツ!」
私は、反対側からアキレス腱を切ろうとする。
しかし、上から何か迫ってくるのを直感で感じ取り、後ろへ飛ぶ。
「剣?」
上から迫ってきた物の正体は、剣だった。
しかし、一体どこから剣を取り出したのか…
「空間収納?」
私の予想は、当たっていたようで、巨人は次の剣を取り出す。
大剣…もはや、巨剣とも言うべきその剣は、例え物理耐性があろうと、私が一撃でひき肉になる威力を秘めているだろう。
動きを鈍らせれば、大して怖くない。
動きを鈍らせるには、
「天氷!!」
やはりこれだろう。
私は、巨人の上半身に向けて天氷を放つ。
身長が二十メートルはあるだろ巨体を、氷漬けにするのは無理だ。
少しでも、上半身の動きを鈍らせ、アキレス腱を切る。
しかし、あまり効果があるようには、見えなかった。
「魔力の練りが甘かったか…仕方ない。」
私は、少しだけ移動して、
「天氷・青氷柱!!」
対個人用の天氷を発動する。
流石にこれは効果があったようで、右腕の一本を抉り、氷漬けにする。
後四回、氷を破壊される前にやる必要がある。
…いや、その必要は無いか。
「天氷・青氷柱!」
私は、巨人の目に向けて青氷柱を放つ。
「グオオォォォ!!」
巨人は、剣を手放しすべての手で、顔を抑える。
私は、その隙きを逃したりしない。
切れかけていたアキレス腱を、反対側から切り裂く。
「まずは、右脚!」
そして、地面を蹴った威力をそのまま、剣に乗せて左脚のアキレス腱を切り裂く。
「チッ、やっぱり硬い!」
それでも、アキレス腱を一撃で切れなかった。
私は、回転するようにして、反対側から斬りつける。
両足のアキレス腱を切断されたことで、巨人が倒れ込む。
「天氷!天氷!天氷!天氷!天氷!!」
私は、巨人の上半身に向けて何度も天氷を放つ。
動けないように、肉体を凍らせるのだ。
天氷は、聖属性の氷。
ただ肉体が凍りつくだけでなく、アンデットの身体を、聖属性が浄化する。
更に、動きを鈍らせダメージも与える。
私は、何度も何度も天氷を放って、肉体を凍らせる。
「ハァ…ハァ…これだけやれば、動けないはず。」
私は、巨人の上を歩いてみる。
巨人の身体は、見事に凍りつきカチカチになっている。
もう動く事は無いだろう。
私は、巨人の脊髄に向けて剣を突き立てる。
そして、蹴りを入れて脊髄を破壊しようとしたその時、
「オォオオオオ!!」
凍りついているはずの身体を動かし、巨人が手を伸ばしてきた。
「馬鹿な!?筋肉が凍りついているのに、どうやって!?」
危険を感じた私は、すぐに飛び、そのまま踵落としを十字剣に落とす。
十字剣は、巨人の脊髄を破壊した。
…筈だった。
「そんな!?」
十字剣は、確かに脊髄まで刺さっている。
なのに、巨人は死ななかった。
それどころか、立ち上がり始めた。
「アキレス腱が…再生してる…」
私は、完全に起き上がる前に、十字剣を引き抜いて、距離を取る。
「剣で倒せない…魔法で消滅させるしかない。でもどうやって…」
普通の天氷は効かない。
白吹雪は、雑魚殲滅用で威力が低い。
青氷柱は、一箇所にしか刺さらない。
全身を覆える程の攻撃でかつ、威力も青氷柱くらいの威力が必要だ。
「魔力はたっぷり残ってる。ギリギリまで溜めて、一気に放つか…」
私は、十字剣に魔力を溜めて放出することで倒すことにした。
「あっぶな!」
十字剣に魔力を流し込む作業をすること5分。
魔力が拡散しないように、こっちから攻撃できず、ひたすら逃げ回っていた。
「後ちょっとなのに、あーもう!鬱陶しい!!」
私の魔力の八割を込めてある。
これで倒せなかったら、今の私じゃ勝てない。
「緊急脱出装置があるし、駄目だったら逃げればいい。」
勝てない相手を前に、逃げる事は恥じゃない。
次勝てばいい。
けど、
「逃げる?私が?」
それは、私のプライドが許さなかった。
逃げようと考えていた事に猛烈な怒りが湧いてきた。
「あんな死に損ないのクソデカブツ相手に、私が逃げる?あり得ない!!」
私は、昇華者になる存在だぞ?
そこらの有象無象とは訳が違う!!
私があんな奴相手に逃げるなんてあり得ない!!
私の怒りに応えるように、魔力の力が強くなる。
私の怒りの意思によって、魔力が強化されている。
「さぁ、死ねデカブツ!塵すら残さずに消え失せろ!!」
私は、巨人の顔目掛けて飛び上がり、その額に十字剣を突き刺した。
そして、込められた魔力を開放する。
「天氷柱!!」
青白いエネルギーの柱が、巨人を包み込む。
私は、開放と同時に離れていた。
冷気無効があるとはいえ、あのエネルギーの気流の中で無事でいられる保証は無い。
そして、エネルギーの柱が消える頃には、巨人は跡形もなく消滅していた。