剣術と戦争
「う〜ん、また折れた…」
私は、試練の界で巨人と戦っていた。
頭蓋骨をかち割るのは無理そうだから、脊髄を破壊してるけど、やっぱり剣が折れてしまう。
「十字剣…でも、他に武器を持ってないし…」
私は、仕方なく十字剣を使うことにした。
そして、また巨人と剣で戦ってみる。
「結構硬い…でも、カボチャを切るくらいの感覚でいけるね。」
やっぱり、十字剣は強さの次元が違う。
正直、アンデットしか出てこないなら、天氷を撃ち続ければ、余裕で攻略出来る気がする。
「あれ?小部屋?」
試練の界では、広い部屋と通路しか見たことがない。
まぁ、アイテムがないから、小部屋が要らないという理由で無いはずなんだけど…
「あれ?アイテムあるじゃん。ガセだったのかな?」
ネットの情報はあまり信じない方がいいかも。
小部屋には台座があり、その上に水晶玉のような物が置いてあった。
「もしかして、『スキルオーブ』?」
ダンジョンで手に入るスキルは、スキルオーブと呼ばれる水晶玉のようになっている。
でも、私がスキルを獲得したところで、昇華者にスキルは関係ないんだけど。
私は、取り敢えずスキルオーブに触ってみる。
すると、
「うわ!?」
オーブが輝き消滅する。
「は?」
なんだったんだろう?
ッ!?
「ううぅぅ!!」
突然頭に激痛が走った。
この感覚は、『記憶』に直接情報が流れ込んでくる痛み…
スキルの習得には、こんなに激痛を感じるものなの?
実際の時間では、十秒くらいだったはず。
けど、私には永遠のように感じられた。
「ハァ…ハァ…」
こんなに激しい痛みを伴ったんだ、きっといいスキルが…!?
私は、何もスキルを獲得していなかった。
「そんな…じゃあさっきの激痛は…」
いや、あれは確かに記憶に直接情報が流れ込んでくる痛み。
何かしらの情報を得てるはず!
私は、記憶を探ってみた。
すると、
「もしかして、剣術の習得?」
私は、剣の技を多数獲得していた。
それだけじゃない。
剣の扱い方について、学んだ事が沢山ある。
「でも、習得した技の数が少ない気が…他にもあるのかな?」
全て集めたら、剣術をマスター出来るんだろうか?
私がそんなことを考えていると、外からアンデットの気配を感じた。
「ちょうど良かった。新しく手に入れた力を試す為の、人柱になってね?」
踏み込んだ瞬間分かった。
いつもとは、動きがまるで違う。
精錬され、とても綺麗な動き方をしている。
そして、巨人の首目掛けて飛び上がり、流れるように剣を振って、首を落とした。
「凄い…技術って大事なんだって、よく分かる一瞬だった。」
素早く、綺麗に、最低限で事を済ませる。
技術の大切さがよく分かる。
これでも、オーブを一つしか手に入れてない。
何個あるかはわからないけど、全部集めたら、一体どんなことが起こるんだろうか?
私の心は、今にも踊り出したいくらい、ウキウキだった。
一瞬だった。
あれから、一回も休むことなく十階層までやってきた。
それも剣術だけで。
ひたすら走り続けて、巨人を見つけたら切り刻む。
それを繰り返して、十階層まで駆け下りてきた。
「十階層、一体どんな強敵がいるのか…なんだかワクワクしてきた。」
これから、ボスと戦うというのに、気分は遠足に行くみたいだ。
軽い休憩も済ませてあるし、魔力も満タン。
魔力の揺らぎも殆ど無い。
私は、満を持してボス部屋の扉を開いた。
中に入ると、腕が四本ある巨人が氷漬けになっていた。
「巨人の亜種かな?それか阿修羅みたいな感じの種族か…」
何にせよ、まずは『記録氷』を調べてみよう。
ちなみに、『記録氷』は、今考えた名前だ。
私が、記録氷に振れると案の定眩い光が放たれる。
目を閉じて、記録の世界へ入るのを待つ。
「ここは…」
私は、激しい風を感じて目を開けた。
辺りを見回すと、百…いや、千はいそうな数の天使達が、楔形の陣形で飛んでいた。
周りが雲しか見えなくて、よく分からないけど、天界ではない気がする。
すると、先頭の天使が雲の中に入った。
それに続いて、他の天使達も雲の中に入る。
私の…私が憑依している天使の番が来る。
私は、凄まじい速度で急降下する。
分厚い雲の中を、高速で飛び続けていると、爆発音が聞こえた気がした。
「あれは!!」
雲を抜けた先には、戦場があった。
幾千、幾万の巨人の軍勢と、幾千、幾万の天使の軍勢が争っていた。
「戦争…確かに天使の国である天界を襲撃したら、天使対巨人の戦争が起こるだろうけど…」
見渡せば、複数の天使に囲まれ、一方的にやられている巨人。巨人に掴まれて、羽をもがれ、地面に叩きつけられる天使。
上空からの、魔法の雨にやられる巨人。
迂闊に近づき、踏み潰された天使。
天使の武器で、急所を突かれて息絶える巨人。
巨人の武器で、身体がぐちゃぐちゃになって死ぬ天使。
とても、見てられない光景だった。
私は、私が憑依している天使は、“両手に”十字剣を構え、巨人の軍勢に突っ込んで行った。
二本の剣を巧みに使い、次々と巨人の頭を落としていく天使。
その存在に気付いた巨人達が襲い掛かってくるが、相手にならない。
全員首を落とされて終わりだった。
『✳✳✳、✳✳✳✳✳!!』
天使の一人が、ある方向を指さしている。
そこには、腕が四本や六本の巨人達が迫ってきていた。
巨人達の増援だ。
四本、六本腕の戦闘能力は高く、次々と天使が犠牲になっていく。
それを阻止するべく、私の憑依した天使は、一人突っ込んで行った。