武器と凡人の限界
一度組合に帰って、新しい剣の購入と、魔石の売却をした。
剣は、4万円と結構高い。もちろん他の武器も。
だから、冒険者は武器の手入れは欠かさず、歪んだりすればすぐに修理に出す。
剣を、一回限りの消耗品として使う馬鹿は、金持ちくらいだ。
それか、普通に馬鹿なだけか…
「あ、天音ちゃん!」
聞き覚えのある声に、私は振り返る。
「長谷川さん!その格好どうしたんですか?」
長谷川さんは、ジャージ姿にプレートアーマーを着ていた。
「これからダンジョンに行こうと思ってさ、天音ちゃんは?」
私は、折れた剣を取り出して、
「剣が壊れたので、新しいのを買いに来たんです。」
「凄いボロボロだね…古いの?」
「昨日買ったばかりの新品ですよ。」
こうやって言うと、無駄遣いしてる感が凄い…
「え!?どんな使い方したらこうなるの?」
そんなに大きな声で言わないで欲しい…
「外皮が硬い上に、筋肉質のデカブツと戦ったのですよ。そのせいで、一回の戦闘で折れちゃいました。」
「へぇ〜」
ダンジョン初心者の長谷川さんには、これがどういう事か、よくわからないだろう。
周りの声に耳を傾ければ分かる。
「あれって、普通の剣だよね?」
「組合の武器屋で売ってる、4万の剣だと思う…」
「外皮が硬いくて、筋肉質のデカブツって、巨人?」
「巨人相手にあの鈍らで戦ったのかよ…」
「でも、それらしい怪我が見当たらないよ?」
「あの子、見た目の割にめっちゃ強いんじゃ…」
そう、こんな鈍らで巨人に勝つなんて、一部の猛者くらいだ。
才能でCランクまで登る奴とかだろう。
Cランクは、凡人の限界とも言われていて、才能が無い者が一生を掛けてなると言われている。
Cランクになる頃には、軽く四十路前かそれくらいになってる。
大体二十年くらいかかるって言われてる。
経験豊富なベテランってイメージ。
後は衰える一方で、一生を掛けてなると言われてる。
だから、凡人の限界って言われてる。
Cランクの人間は、三種類いる。
1つ目が、さっき言った一生を掛けたやつ。
さっき言ったから説明は要らないよね?
2つ目が、スキルや強力な武器を手に入れたやつ。
スキルで強力な技を習得したり、私の十字剣みたいに、強い武器を手に入れたやつがCランクになる。
まぁ、十字剣は『神』の武器だから、別格だけど…
3つ目が、生まれ持ってスキルを持っている、才能があるやつ。
身近な人間で言うと、矢野ちゃんだろう。
矢野ちゃんは、生まれ持って『鑑定』のスキルを持っている。
非戦闘型のスキルでも、凡人よりかは才能がある。
才能があるやつは、スキルや強力な武器が無くとも、強くなれるやつ。
つまりは、『天才』だ。
テレビとかで人気の冒険者は大体そういう天才だ。
まぁ、昇華者は天才以上の異才の持ち主だけど…
「天音ちゃん?」
長谷川さんが、声を掛けてくれた。
「すいません、ちょっと考え事をしてました。」
「そう、さっき巨人って言葉が聞こえたけど、巨人ってどれくらい強いの?」
長谷川さんも聞こえてたのか…
「巨人は、大体五メートルくらいの巨体を持つ人間というイメージです。巨体故に、物理的な攻撃力、防御力が高いんです。」
さっきの苦戦でよく分かったしね。
「巨人の一番厄介なところは、防御力です。外皮が硬く、筋肉質なので、刃が通りづらいんです。それに、巨体なので切る肉の量が多いので、更に刃が通りづらいんです。Cランクのベテランでも戦闘を避けたがります。」
あの肉ダルマを切り裂くのが、どれ程大変だったか…
「なんか、凄く実感が籠もってない?」
「この剣が折れた理由が巨人ですから…」
その一言で、組合内が一気にざわつく。
「あんな華奢な女の子が巨人を!?」
「レベルいくつだよ…」
「てか、あの鈍ら一本で巨人を倒したのか!?」
「どんな化け物だよ…」
「勧誘出来ないか?」
「無理だろ、あんな綺麗な女性と楽しそうに話してるんだぜ?パーティ組んでるだろ。」
長谷川さんは、綺麗な女性という言葉が聞こえたのか、満更でもなさそう。
「あの女の人も強いのかな?」
「でも、初心者装備だぜ?」
「それなら、あの女の子は装備着てないぞ?」
…プレートアーマーくらいつけた方がカモフラージュになるだろうか?
「そう言えば、天音ちゃんって鎧とか着ないよね?」
長谷川さんが質問してくる。
「前は着てたんですけど、動きにくいから、着るの辞めたんですよね。」
「それ、大丈夫なの?」
そうだ!あのセリフを言ってみよう!
「当たらなければどうって事無いですよ。」
「確かに、当たらなければどうって事無さそうね。」
そう、当たらなければ、ね?
「じゃあ、ダンジョン攻略頑張ってください。」
「天音ちゃんも頑張ってね!」
私は、もう一度試練の界に向かった。
「よーし、私も「あの!」はい?」
ダンジョンに行こうとした時、若い男女パーティに呼び止められた。
「さっきの人って…」
天音ちゃんの事が聞きたいのか…
「私の友達だよ。ついこの間ダンジョンの案内をしてもらったんだ。」
「ダンジョンの案内?」
「私、長谷川 由美子って言うんだけど…」
「え!?」
パーティの女性の一人が、驚いたような声を上げる。
「もしかして、タレントの?」
「そうそう、そのタレントの長谷川だよ?」
すると、組合が騒がしくなる。
「あの!私、ファンなんです!サイン貰えませんか?」
「あー、ごめんなさい。今、ペン持ってないの。」
「そうですか…」
露骨にがっかりしてる…
「すいません…」
「いいですよ、私のファンがいるって言うだけで私は嬉しいので。」
「すいません。それで、さっきの人は何者なんですか?」
何者か〜
「私もよく知らないの。会ってそんなに経ってないから…」
「そうですか…」
「でも、凄く強いのは知ってます。オークの首を、簡単にはねてるのを見たので。」
「オークの首を…」
あれは衝撃だった。私が為す術もなくやられたオークを一瞬で倒したんだから…
本当に天音ちゃんは何者なんだろうか?