己を知れば
昨日は、貴重な一日を、酔っぱらいの介護に費やすという、大失敗をしてしまった。
今日こそは、試練の界の攻略を進めないと。
という事で、私は今6階層にいる。
6階層も変わらず巨人のアンデット。
けど、1から4階層の巨人に比べると大きくなってる。
大体十メートルくらいだろうか?
それでも、あの記録で見た巨人に比べれば小さい。
「天氷」
私は、ノーマルの天氷で攻撃してみる。
「一撃じゃあ無理…時間差でぎりぎりか。」
天氷は、聖属性の氷。
アンデットが触れれば、ダメージを受ける。
当然、氷漬けになれば受けるダメージも増える。
一撃で倒せなくても、氷を割られなければ、継続ダメージを与えられる。
少し、時間がかかるけど、楽っちゃ楽だ。
でも、
「近接戦闘の経験を積んでおかないと、この前みたいな事になる。」
あの時、無意識に天氷の新しい使い方を発見していなければ、死んでた。
私は、武器の性能に頼りすぎた。
基礎を疎かにして、上を目指そうとしていなかった。
その結果があれだ…
壁に叩きつけられ、なす術なく死にかける。
『怠惰』とは、よく言ったものだ。
七つの大罪の意味は、それそのものが罪ではなく、罪になり得る感情の事だ。
後は、死に至る罪、とも言われている。
私は、怠惰だった。
借り物の力で最強になった気でいた。
強くなったつもりだった。
昇華者になれると、本気で思っていた。
なんて幼稚な考えだろうか?
怠惰以前に、私は幼稚だった。
楽して最強になれるなら、誰も苦労しない、みんな昇華者になってる。
チートなんて無い。
ラノベチートの正体は、圧倒的な才能。或いは、借り物の力。
私は後者、借り物の力で最強になった気でいただけ。
何かを得るには、必ず対価が必要だ。
力の場合は、努力。
自身の時間を対価に、努力して身に付ける。
努力するという事は、時間を対価に力を得るという事。
何もしてない奴が、何かを手に入れられる訳が無い。
でも、金持ちの子供とかは、何もせずに得られてる?
違う、得られてるんじゃない、“貰ってる”んだ。
だって、自分は何もしていない。
貰った力で遊んでいるだけ、つまりは借り物の力。
しかし、それを自分の物にするには、努力する必要がある。
上に立つ者として、相応しい態度、行動、信頼、成果。
そういった物は、自分で行動しないと手に入らない。
誰かにやってもらったでは、ただのメッキ。
いつか剥がれて、ボロが出る。
私は、自分の身で実感した。
借り物の力で大きくなって、何もできずにやられた。
今、生きていられるのは、運が良かっただけ。
二度と、あんな事が起こらないように、私は行動する。
ちょうど、巨人のアンデットが現れた。
私は、十字剣をしまい、別の剣を取り出す。
普通の、なんの変哲もないただの剣。
これで、あいつと戦う。
私は、一度深呼吸をする。
そして、私は駆け出した。
痛感した。
自分がどれ程武器の性能に頼っていたか。
さっきは、一撃で倒せた巨人が、いつまで経っても倒せる気がしない。
理解はしていたつもりだった。
レベルアップという仕組みはあっても、ステータスという仕組みは無い。
だから、アンデット相手にどれだけ攻撃しても、急所以外には、意味がないという事に。
アンデットは、動く屍、すでに死んでいる存在。
だからこそ、出血多量で死ぬこともない。
急所を破壊して倒すしか意味がない。
急所…首、頭。
アンデット相手では、首をはねるか、頭を潰す以外は効果がない。
心臓を潰すのも、出血多量や、脳などの内臓に血液が回らなくなる事で死亡する以上、血がなくとも活動出来るアンデット相手では、弱点になりえない。
心臓を潰して死ぬのは、ヴァンパイアくらいだ。
…そんな事すれば、大抵の生物は死ぬけど…
私には、人外並の身体能力はあっても、某有名巨人を駆逐するアニメのような、立体機動装置はない。
そもそも、アレと違ってこっちは首というか、脊髄を完全に破壊しないといけないから、労力が段違いだ。
それに、巨人の皮膚は硬く、大量の肉を切り裂くのも一苦労だ。
あれ?あのアニメのキャラクター、私より怪力なんじゃ…
特に兵長とか…
うん、深く考えるのはやめよう。
けど、喋ってるだけじゃ、戦況はまったく変わらない。
どうやって、脊髄を破壊するか…
「おっと。」
巨人が拳を振り下ろしてくる。
!!
ここだ!
私は、壁を蹴って巨人のうなじに登る。
「脊髄を破壊するだけでいい、切り裂く必要はない、なら!」
私は、剣を全力で突き刺す。
しかし、完全に脊髄を破壊出来なかった。
「アアアァァァァ!!」
アンデットは、痛みを感じない。
でも、自身の身の危険は感じる事は出来る。
巨人は、私を振りほどこうとする。
「もう遅い!!さっさと死ね、死に損ないのクソデカブツがぁ!!」
私は、剣に向けて全力を蹴りを放つ。
剣は、深々と突き刺さり、巨人の脊髄を破壊した。
「たった一体倒すだけでも、ここまで時間が掛かるなんて…」
自分の弱さを再確認出来た。
『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』
孫子の名言だったはず。
相手と自分の情勢を知れば、何回戦っても負けないという意味だったはず。
私は、今日自分の力がどれ程なのかを、ある程度理解した。
もう何度か同じ事をすれば、鍛錬をするための、基準が分かるはず。
厳しすぎず、楽すぎない、そんな基準を知るためには、自分を知らないといけない。
世界は待ってくれない。
昨日の失敗分は、今日取り返さないと、世界や周りに置いていかれる。
そうならないように、私は人一倍走らないといけない。
昇華者になるなら、三倍も四倍も早く走らないと。
時間は有限だ、早く剣を回収して次の敵を…
剣は、巨人のうなじに深々と突き刺さり、引き抜いてみれば、ポッキリ折れていた。
「剣って、消耗品なんだ…」
ここまで簡単に消耗するとは、思わなかった。
今日は、2話くらい投稿する予定だったのに、昼寝して、時間を全て潰してしまいました。
皆さんは、こうならないように、早寝早起きを心がけましょう!