お酒
「よいしょっと。」
私は、酔っぱらい(加藤さん)をソファーに寝かせる。
途中、何度も仕事中だと言ったのに、この酔っぱらいは、ビールを飲み続けた。
そのせいで、酔いつぶれて眠ってる。
そう、酔いつぶれて!
そのせいで、私は周囲の人の視線に当たりながら、家に帰ってきた。
そりゃそうだよね、こんな昼間からスーツ姿の女性が酔いつぶれて、少女に背負われてたら気になるよね。
私は、幸せそうに寝てる加藤さんを見て、怒りが湧いてくる。
『♪〜』
加藤さんのスマホに電話が掛かってきた。
「加藤さん!電話なってますよ!!」
私は、加藤さんの体を揺すって起こす。
「変わりに出といて〜」
「はぁ!?」
私が、次何か言う前に、加藤さんは電話を取って、私にスマホを差し出した。
『ーーー!』
電話から何か聞こえる。
私は、仕方なくスマホを受け取り、電話に出る。
「加藤さんは、酔いつぶれてます。ほら、加藤さん?」
「天音ちゃんが出といて〜」
「ね?」
スマホの向こうから、ため息が聞こえた。
『あー、それで誰が電話に出てるんだ?』
「白神 天音と言います。」
『白神 天音…加藤が護衛してる奴か。それで天音さん、どうしてその酔っぱらいは酒を飲んだんだ?』
…怒られないかな?
「私が焼き肉に誘いました。」
『なるほど、それでか…ちなみに、加藤が出したのか?』
「いえ、私です。加藤さんは酔っ払って、何するか分からなかったので…」
また、スマホの向こうからため息が聞こえた。
『いくらになりました?全額返しますので。』
「いえ、ほとんど私が食べた肉でお金がかかってるので、大丈夫です。」
『そうですか?取り敢えずビール代くらいは払います。』
別にいいのに…
私は、何度か要らないと言ったけど、結局一万円貰う事になった。
『それで、本題なんですが、加藤に伝えておいてくれませんか?』
「いいですよ?なんですか?」
『管理局に電話があった、次こんなことしたら減給な?って伝えて下さい。』
「あ、ハイ」
ドンマイ、加藤さん。
また今度、昼間から居酒屋行こうね。
『それでは』
そう言って電話は切れた。
取り敢えず、加藤さんに減給のこと伝えるか…
「加藤さん〜、減給ですって〜」
「なんですって!?」
「あ、起きた。」
加藤さんは、減給という単語を聞いた途端、飛び起きた。
「管理局に電話があったんですって。次こんなことしたら減給な?って伝えてって言われました。」
「ええ〜、私頑張ってるのに〜」
加藤さんは、愚痴を言い始めた。
私は無視して、新聞を開く。
「あ〜!」
中に広告が挟まっていて、新聞から落ちてきた。
「はぁ〜、やる気削がれる〜」
「ん?なにこれ?」
加藤さんが掴んだ広告には、新しい酒屋さんが出来たという広告だった。
「あ〜、これここの近くですね。私、十七歳なんでいけませんけど。」
「行きましょう!!」
「は?」
加藤さんが目を輝かせている。
「まぁ、いいですよ。」
「やった~!」
そして、加藤さんは、スキップしながら酒屋に向かった。
「いらしゃいませー。」
中は、凄くお洒落な内装になっていて、色んなお酒が置かれていて。
「凄い…」
私は、店の雰囲気に魅了されてしまった。
加藤さん?
カゴを持って走っていったよ?
「私が来られるのは、3年後かぁ〜」
早く20歳になりたい気分にはなる。
私は、ゆっくり店を見て回った。
十分ほど経った頃、
「加藤さん?これはどういうことですか?」
加藤さんに呼ばれて来た場所は、レジだった。
「お願い、今月金欠なのよ。お願いします〜!!」
「大人の威厳という物は無いのですか?」
「威厳?酒のツマミに美味しいの?」
駄目だこの人、お酒の事しか考えてない。
私が見つめても、ずっと目を輝かせてるだけ。
「はぁ、犯罪にならないですよね?」
「さぁ?なったら捕まるのは私だし、別に良いでしょ?」
だからって、未成年に奢って貰うか?酒屋で。
そうだ!
私は、お札を取り出して、
「後で返して下さいね?」
加藤さんにお札を差し出した。
「ありがとう!ちゃんと返すから!」
察しのいい加藤さんなら、意味は分かってくれるはず。
私は、お金を貸しただけ。
加藤さんは借りただけ。
これなら、捕まらないでしょ?
…多分。
結局、十万くらい消費した。
「加藤さん、今から飲むんですか?」
「ええ、こんなに美味しそうなお酒を買ったんだもん。味見くらいしたいよ。」
「とか言って、全部飲まないで下さいね?」
きっと、半分くらい無くなりそうだ。
一本で2万くらいする。
焼き肉屋での様子を見てると、平気で飲み干しそうだ。
「天音ちゃんも飲む?」
「もしもし、警察ですか?ここに未成年にお酒飲ませようとする人が…」
「ごめんごめん!冗談だから!」
十八歳に飲ませようとするなら、まだ分かる。
百歩譲って分かる。
一応、成人してるから。
でも、十七歳の私に、未成年の私にお酒を飲ませようとする神経が分からない。
ほんとに通報してやろうか?
「ねぇ、天音ちゃん、今良くないこと考えなかった?急に寒気が…」
「気のせいですね。」
「いや、ね?」
「気のせいですね。」
「だから…」
「気のせいですね。」
私が、にっこり笑うと、加藤さんはようやく黙ってくれた。
その後、加藤さんは“何故か”私を気にしながらお酒を飲んでいた。