表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/93

長谷川さん

私の名前は、『長谷川はせがわ 由美子ゆみこ

そこそこ売れてるタレントだ。

テレビの生放送で、たまたま女の子が男達に囲まれてるのを見つけてしまった。

何もしないで、炎上するくらいなら、助けたほうがいい。

「ちょっと!何してるんですか!?」

ひっ、睨まれた。

「姉ちゃんには関係ない話しだ。」

言うと思った。

「そう?私には、いい年した男達が少女を囲んでなにかしてるようにしか見えないけど?」

どうだ?

「借金の取り立てだよ、ほらな?関係ないだろ?」

う、借金の事まで踏み込むのは…

すると、少女が何もない所に手を伸ばして、手が消えた。

え!?

そして、少女の手には、茶封筒があった。

「ん、三十万。今はこれしかないから。」

あんな、女の子が三十万も持ってるなんて…

「おい待てや。」

男が帰ろうとする少女を呼び止めた。

「なに?」

「期限はとっくに過ぎてんだ。今日中に返してくれねえと、そういうとこ行って、稼いでもらうぜ?」

このゲス…

「期限切れ?死んだクソ親父にでも言ってよ。」

クソ親父…もしかして、お父さんが借金を作ったのかな?

「おいおいwどうやって言うんだよ?」

一発殴ってやりたい…

コイツ、女を何だと思って…

しかし、少女はニヤリと笑って。

「こんな風に…ねッ!」

その時、氷漬けにされそうな気配が少女から放たれる。

そして、残像が見えるほどの速度で回し蹴りが飛んでくる。

私は、恐怖で腰が抜けてしまった。

というか、回し蹴りがスレスレで飛んできた男は失禁している。

「私を脅して何させようとしてたか知らないけど…」

少女は目を細くして、

「お前等程度の雑魚相手に、私がビビると思うなよ?」

怖い…

恐怖で動けなくなるってよく聞くけど、まさか本当だったなんて…

「さっさと失せろよ。それとも、私が蹴り飛ばして返した方がいいか?ええ?」

すると、男達は、情けない悲鳴を上げて逃げていった。

「あのなりで情けない声だな。」

少女が家に帰ろうとする。

「あ、あの!」

私は、声をかけてしまった。

「なに?」

うぅ、怖い…でも、

「凄いですね!冒険者やってるんですか?」

私は、勇気を出して質問した。

けど、

「まあね。」

少女はそれだけ言うと帰ってしまった。






「何かようですか?」

次の日、私は組合であの少女が来るのを待っていた。

そして、話し掛けたらこう返された。

「えーっと、私一応冒険者のカード持ってて、良かったら一緒にダンジョンに潜ってほしいな〜って。」

私も、この子みたいに強かったら、絡まれた時に役に立つと思ったんだ。

だから、勇気を出して頼んでみた。

けど、

「軽い気持ちで、ダンジョンに潜ると、痛い目見ますよ?」

軽い気持ち…

そんなことはない!タレントはストーカーに怯えながら帰ることもあるんだ、軽いなんて、

「お金が欲しい、自衛が出来るくらい強くなりたい、それが理由なら、深くまで潜れませんよ?いつか死にます。」

その言葉には、実感がこもっている気がした。

もしかしたら、大怪我とか、仲間を失ったとかがあったのかな?

「付いてきてもいいですが、自分の身は自分で守って下さいね?」

「はい!」

許可は取れた、この子について行く、そうすればきっと私も強くなれる。



「大丈夫ですか?長谷川さん。」

「はぁ…はぁ…大丈夫、です。」

私は、結局何も出来ずに、足手まといになっています。

少女…天音ちゃんは、とんでもなく強い。

何よりあの武器。

私が借りた武器とは、比べ物にならないくらい強い。

私は、なんとか立ちあがって、天音ちゃんについて行く。

「あれは…オーク。」

モンスターの定番の一つ、『オーク』

力が強く、まともに打ち合うのは危険と言われている、モンスター。

「私にやらせてください!」

天音ちゃんにダメ元で頼んでみる。

「…はぁ、いいですよ。」

「ありがとうございます!」 

天音ちゃんの、オッケーは出た。

そして、さっきからダンジョン投稿者が私達を撮影してる、これ以上恥ずかしい姿は晒せない!

私は、オークに向かって剣を構える。

「ブモオオオオ!!」

オークが雄叫びを上げて向かってくる。

私は、少し引き付けて、横に飛んで回避する。

(よし、ここで腹を切る!)

私は、オークの腹目掛けて剣を振る。

私の剣は、オーク腹に直撃し、肉を切り裂く。

しかし、

「剣が!」

剣は、途中で止まり抜けなくなってしまった。

そして、その隙は致命的だった。

「ブモオオオオ!!」

オークの怒りのフルスイングが私を殴り飛ばした。

「ーーー!!」

私は、激痛に声にならない悲鳴をあげる。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

私が、痛みに悶えている間も、オークは待ってくれない。

私の腹に、オークの蹴りが直撃した。

私は、蹴り飛ばされ、壁に激突する。

体中から、血が吹き出す。

痛い…痛い…痛い

死ぬ…

「たす、けて…」

しかし、誰も来ない。

遂に、私の目の前まで来たオークは拳を引き絞り、


首が飛んだ。


「え?」

私は、何が起こったか理解出来なかった。

「見てられませんね。」

天音ちゃんだ。

天音ちゃんが、オークの頭を切り飛ばしたんだ。

そして、私の側まで来てくれた、天音ちゃんは、魔法を使う。

「回復魔法です、じっとしてて。」

天音ちゃんの魔法のお陰で、体から痛みが引いていく。

傷も治っていく。

「ありがとう、あと少しで死んでました。」

「だから言ったでしょう、軽い気持ちでダンジョンに潜ると死ぬって。」

「そうですね、天音ちゃんの言うとおりでした。」

治療が終わり、天音ちゃんは空間収納から、ナイフを取り出す。

解体するんだ。

天音ちゃんが、オークの鳩尾にナイフを突き立てる。

そして、慣れた手付きで解体を進める。

気まずい…何か談笑でも。

「天音ちゃんは、学校行ってないの?」

「学校は、辞めました。」

「え?」

学校を辞めた?

冒険者として生きていくつもりなんだろうか…

「普通に働くより、ダンジョンの方が稼げるんです。それに、冒険者に学歴はいらないし。」

ダンジョンに生きる事を選んだのか…

「大怪我とかは…」

「昨日したばかりですよ。」

「昨日?」

そうは見えないけど…

いや、さっきの回復魔法、あの大怪我を簡単に治せるなら、なんとかなるのかも。

「私って、冒険者向いてます?」

「さあ?」

なんとも適当な答えが帰ってきた。

「ダンジョンは、一攫千金。運が良ければ、一生遊んで暮らせる程の大金が手に入る。」

「でも、その運がいいって言うのが、とんでもなく難易度が高いんですよね?」

「最悪、怪我しなくても何も得られず、無駄な時間を過ごすことになる。」

確かに…最悪がそれ?

「最悪は、死ぬことじゃないんですか?」

「ダンジョンで、死は当然。死ねば0になる、無駄な時間を過ごすのは、1すら増えない。」

なおさら分からない。

死んで0になるより、生きて1も増えない方がマシだ。

「例えどこで死んでも0になる。そもそも、ダンジョンなんて、死と隣合わせの場所で、死ぬのは当たり前。」

天音ちゃんは「けど…」と続けて、

「ダンジョンには、命を賭けるだけのリターンがある。それなのに、何も得られなかったら、それはハイリスク・ゼロリターン。ただ、危険な目に遭っただけ。」

「あ…」

「ダンジョンの最悪は、死ぬことじゃない。何も成せない事、それが最悪だよ。」

確かに、『ダンジョンの入場料は命』なんて言葉がある。

命の入場料を払ってるのに、何も得られなかったら、ただ損しただけになる。

「冒険者は、ハイリスクを承知だ。だからこそ、ハイリターンを夢見てるんだよ。」

その言葉に、私では越えられない壁を感じた。

天音ちゃんは、リスクをしっかり理解してる。

私は、知らなかった…

それを、この場で理解出来たのは、幸運な事なのかも知れない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ