天界
「アア〜!!恥ずかしいッ!!」
私は、試練の界で悶絶していた。
「試行錯誤 TRIAL&ERRORって厨二病かよ!?うわあ〜黒歴史だ〜!!」
そう言えば、あいつあれ録画してるんだっけ?
投稿される前に止めないと!
「電話…連絡先持ってない!」
そうだった、連絡先持ってないんだった…終わった。
あの恥ずかしいのがネットの海に放たれるとか、嫌すぎる。
「後悔先に立たずだっけ?起こってしまった事は仕方ない、割り切ろう、うん、そうしよう。」
私は、吹っ切れることにした。
5階層
「やっぱりデカいな〜」
この先に、ボスがいる。
ボスは、おそらくアンデット系のモンスターだろう。
もしくは、巨人。多分、アンデットの巨人だろう。
「5階層のボスは、1から4階層までのモンスターの傾向にあったモンスターになるらしい。って事は、巨人のアンデットのクソデカイやつかな?」
天氷一発で倒せる程、弱くない筈だ。警戒しないと、死ぬかもしれない…
剣や装備が強いだけで、私自身のレベルは低い。おそらく、30くらいのはず。
トップクラスの冒険者は、軽く100を超えるらしい。
まだ、3割程度のレベルしかない。
「昇華者への道のりは遠いね…」
果たして、私が昇華者に成れるのはいつになるのか…
お金は、試練の界で、アンデットを天氷で消滅させるお仕事をするだけで、結構貯まる。
何より、効率がいいんだよね、解体しなくていいから。
天氷で消滅させて、残った魔石を回収するだけの、簡単なお仕事。
それで、数十万稼げる。しかも、半日で。
これが、下の階層でも同じなら、そのうち半日で数百万稼げる様になるかも知れない…
ん?
魔石の買い取りをしてるのって国だよね?
経済破綻しそうじゃない?
冒険者って、十万人くらい居るはずだから、えーっと?
昔の私みたいな雑魚でも、毎日、一万は稼いでる。
私と同じくらいでも、パーティを組んでる筈だから、効率は一人よりいいはず。
トップ層は、毎日、百万くらい稼いでそう。
国家予算足りてるの?絶対、経済破綻するでしょ。
ん~~?まぁ、後で調べればいっか。
私は、扉に触れてみる。
すると、扉はゴゴゴと、低い音を立ててゆっくり開き出した。
中から、冷気が漏れ出してくる。
装備で、冷気への完全耐性がある私からすれば、大したことない冷気だ。
私は、冷気を無視して中に入る。
「広すぎでしょ…」
中は、昔、無理矢理連れて行かれた東京ドームと、同じくらいの広さがあった。
そして、その中央に冷気の発生源が、あった。
「デカい…十メートル…いや、二十メートルはあるかな?」
その正体は、氷漬けにされた、ニ十メートルはありそうな巨人がいた。
そして、私はその巨人の正体を知っていた。
「単眼巨人…」
肌の青い、単眼の巨人…サイクロプスだ。
ゲームでは、終盤に登場して、その圧倒的な体力と、攻撃が脅威の危険なモンスター。
ダンジョンでも、度々発見報告があり、仲間が踏み潰されただの、棍棒で重戦士がぺちゃんこになっただの、その攻撃が危険視されている。
しかし、サイクロプスの最も恐ろしい所は攻撃力じゃない。
その、巨体だ。
外皮は、岩のように硬く、筋肉質な体をしている為、外皮を切れても、大量の筋肉に阻まれ、致命傷を与えることが難しいのだ。
目を狙おうにも、巨体故にそこまで攻撃を届かせるのも一苦労であり、近接攻撃しか出来ないパーティは、何もできずに負ける。
「おまけに、巨人系のモンスターは氷属性への耐性が高い。そもそも、レイピアの十字剣でサイクロプスにダメージを与えるって、どんな縛りプレイよ…」
あと、コイツ、アンデットだ。
痛みを感じない、つまり、最強格のタンクだ。
「天氷が有効なのが、せめてもの救いかな?…あれは?」
氷漬けのサイクロプスの前に、弱い光を放つ氷があった。
近づいて見てみれば、その氷は長方形で、まるで本のようだ。
私は、手を伸ばして氷を掴む。
すると!
「うわ!なにこれ!?」
突然氷が発光し、私は目を瞑る。
光が弱くなり、目を開けると、
「どこ、ここ?」
辺りには、青空と草原が広がっていた。
「空島?」
草原は、不自然に途切れていて、下を見てみれば、崖になっていた。
見渡せば、似たような島はいくつもある。
その全てが浮かんでいる。
「天界ってやつかな?」
でも、氷と天界にどういう関係が…
すると、体が勝手に動いて、空島から飛び降りる。
「ええええええええ!?」
ヤバイ、死ぬ!
しかし、背中に何か生えてくるような感覚があり、それが動くことで、落下が止まり、前に飛び始めた。
「白い…翼」
そうか、天使。
ここが天界なら、天使がいてもおかしくない。
そして、しばらく飛んだあと、家の沢山ある空島に着いた。
私は、その家の中の一つに入る。
『✳✳✳✳、✳✳✳✳』
私の口から、変な言語が出てくる。
『✳✳✳✳、✳✳✳✳』
家の奥から、男性の声で同じ言語が聞こえてくる。
そこには、ベットから半身を起こした天使の男性がいた。
随分と、顔色が悪い。
「体調が悪い…いや、弱ってるのか。」
その男性の天使の力は、今にも消えそうなほど弱々しい。
何かあったに違いない。
私は、台所に向かい、料理を作り始める。
…私?
そう、疑問に思った瞬間、体から引き剥がされる。
そこには、女性の天使がいた。
「あの天使の体に憑依してたのか。」
とても仲がよさそうだ。
もしかして、夫婦なんだろうか?
料理を作り終えた女性の天使は、完成したものを男性の天使の元に持っていく。
そして、談笑をしながらご飯を食べ始める。
「平和な暮らし…これのどこに巨人との関係が…」
そのまま、何か起こる訳でもなく、二人の天使は食事を終える。
そして、何事もなく、食器を洗い終わる。
…何も起こらない。
私は、暇だったので、外に行くことにした。
「本当に天界に来たって感じ…」
周りには、天使しかいないし、空島はのどかで明るい。
「あれは…」
私の目線の先には、巨大な空島と、神殿と城を足したような巨大建造物があった。
「大天使とかがいそうな城…」
私が、城に見とれていると、まるでガスタンクが爆発したような轟音と、地震と錯覚しそうな振動が、体の奥まで響いてきた。
何事かと、辺りを見回すと、
「何、あれ…」
城のある、巨大な空島の端に、空間の亀裂が入っていた。
悲鳴と、天使達の混乱したような声が聞こえてくる。
そして、またあの轟音と振動が響く。
「亀裂が…」
また、轟音が響く。
そして、亀裂が大きくなる。
辺りに武装した天使が集まってくる。
何度か轟音が響き、
「ああ…」
空が砕け散った。