大嶋さん
「俺、大嶋 流輝って言います!」
「そ、そうですか…白神 天音です。よろしくお願いします。」
大嶋さんね…動画投稿しているって言ってたけど、人気なんだろうか?
そんなことを考えていると、大嶋さんはメニューを開いて、
「何にしますか?俺は、この『フィッシュ南蛮定食』にします。」
フィッシュ南蛮定食…そんな、定食あったんだ。
「じゃあ、焼きうどんと、お好み焼きと、たこ焼きにします。」
最近、食べる量がかなり増えた。…体重も。
ま、まあ、筋肉は脂肪よりも重たいって言うし?筋肉が付いたと考えれば…
「冒険者って、よく食べるって聞きますけど、本当なんですね~」
「そ、そうなの。沢山動くから、その分沢山食べんるです。」
「自分、ダンジョン行ったことないんですけど…売れるために、ダンジョンに行こうかなって、考えてるんです。どうでしょう?」
いや、しらんがな。
自分で考えろよ。私に聞かれてもね~、
「ダンジョンは…」
「あっ、カメラ回してもいいですか?」
「…いいですよ。」
一応、サングラスをかける。
「はい、えーっと…さっきなんて言おうとしてましたか?」
「…ダンジョンは、入場料がいりますよ?」
「命のことですか?それは分かってます。」
「怪我が、治らない事も多々ありますよ?」
「それも分かってます。」
うーん、決意は硬そう。
正直、この人がダンジョンに行っても、モンスターに食われる未来しか見えない。
余計な犠牲者は、出さない方がいい。
「死にますよ?」
「人間、いつかは死にますよ。」
「ダンジョンでの死は、記録としてしか残りませんよ?分かってますか?」
目の前の大嶋さんは、
「貴女も、俺が冒険者になることを止めるのか!?」
急に怒鳴りだした。
「ええ、止めますよ。冒険者として成功出来るのは、運のいい奴か、生まれながらの天才だけですよ。私には、貴方がそうとは見えない。」
「…」
「その様子だと、はっきり言われた事はないみたいですね。」
この際、もっとはっきり言ってしまおう。
「私が言っても説得力はないかも知れませんが、冒険者は、想像以上に夢のない仕事ですよ?私は、運よく強い武器を見つけたお陰でそこそこ稼いでますけど、前は、命がけで一日頑張って、ようやく一万稼げるくらいでした。」
これは、体験談だから自信を持って言える。
「入場料に命を払ってるのに、死ぬ気で頑張って一万ですよ?割に合わなさ過ぎる。」
正直、あの一年半は、本当に無駄に時間を消費しただけだった。
まぁ、その無駄な一年半のお陰で、昇華者への道が開いたんだけど。
「それでも行きたいなら、止めません。ただし、大怪我したり、死んでも文句は言えませんよ?ダンジョン内での出来事は、全て自己責任ですから。」
「分かってます、分かってますよ。俺がダンジョンに行った所で、売れないだろうし、ただ無意味に死ぬだけだって…」
本当に、分かってるんだね。でなきゃこんな言い方なかなか出来ない。現実を見たからこその、悲痛な叫びだ。
「でも、何もやらずに俺の人生、何だったんだ?ってなるくらいなら、ダンジョンで色々やって、結局駄目だったって、やって後悔して死にたいんです!このまま、無意味に生きて、死ぬくらいなら…ダンジョンで死んだほうがマシだ!!」
周りが何事かとざわつき始める。
「何だあれ?」
「あれだろ?人生に失敗して、最後の頼みの綱として、冒険者になろうとしてんだろ?」
「冒険者なんて、いいことないのによ。」
「どうせすぐに死ぬだろ?」
うん、私もその考えに賛成だ。
一般人には怒られるだろうけど、冒険者としては真っ当な意見だ。
「ダンジョンで死んだほうがマシ、ね…そんなだから失敗するのよ。」
「は?」
「死ぬことを前提にして、冒険者になる馬鹿は、冒険者じゃない。ただの自殺願望者だ。」
大嶋さんは、ぽか~んとしている。
「ダンジョンで後悔して死ぬ?『病は気から』って諺知ってる?自分は病気になるって考えてると、本当に病気になるよってこと。合ってるか知らないけど。」
「そこは、確証を持って下さいよ…」
「はいはい、つまり、ダンジョンで後悔して死ぬなんて考えてるから、そんな死に方するのよ。考え方が後ろ向き過ぎる。」
大嶋さんは図星なのか、俯いてしまう。
「だいたい、後ろ向き歩いてこけない訳が無いでしょ?どこに、どんな障害物があるかわかんないだから。」
後ろ向き歩いたら、必ずどこかでこける。
「じゃあ、何で貴方が前を見ないか分かる?」
「それは…」
「自分に自信がないからでしょ?前を見て、現実と向き合う覚悟が無い。だから、そうやってずーっと後ろ向きで、どこかでこけるんだよ。それが、失敗だ。」
そんな、魚みたいに口をパクパクさせないでよ。
「何もやらずに?確かにね。貴方は何もしてない。百メートル走で、後ろ向きに走る馬鹿がどこにいる?いたわね、私の目の前に。貴方は、スタートラインに立ってないんじゃない。走り方を間違えてる。正しく走れないのに、いいタイム…もとい、いい結果が得られる訳ないでしょ?」
間違ったやり方で、いい結果を得たいなら、それは相当な努力が必要になる。
でも、凡人にそんなことは出来ない。
「よく言うでしょ?駄目ならやり方を変えろって。あれは、貴方みたいに、方法を変えるんじゃなくて、自分の手段を変えろって意味。針の穴が大きい物を使っても、通す糸がロープだったら、失敗するに決まってるじゃん。」
「でも、ロープが通るくらい大きい穴の針を使えれば…」
「ん?失敗するよ。」
何いってんだコイツ?
「ロープが通るくらい大きい穴の針をってことは、ロープよりも細い糸を持つ人は、みーんな出来るって事だよ?そんなことしても、『それくらい皆出来るから』って言われて終わりだよ?」
「あっ…」
「褒められる人、成功した人は、普通は出来ない、簡単じゃない事をやってのけた人何だよ。そういう人は、細い穴に通るくらいまで、自分の紐を細くした人なんだよ。」
そんなこと、簡単には出来ない。だって、
「そのためには、普通の人が諦めるくらいの努力を積み重ねないといけない。いくら才能があっても、生まれた時から、相対性理論を説明出来る人間はいないよ。説明するには、いろんな公式や理論を勉強して、自分成に解釈して、それを他人に分かるように説明出来るようにならないといけない。その行程が“努力”だ。」
「努力…」
「天才だって、生まれたときから出来たわけじゃない。生まれた時は、皆と同じように、何も出来なかった。努力することで、才能を磨き上げ、素晴らしいものにしただけなんだ。」
かの発明王エジソンも、生まれた時から電気の扱い方を知っていたわけじゃない。
「つまり、一回やり方を変えてみる。そして、努力する。駄目なら、もう一度やり方を変える。努力する。これの繰り返しだ。そうやって、成功するための方法を探す。駄目なら、根本的に道を変える。例えば、会社員になるとか?」
「…」
「この方法を表す言葉がある。『試行錯誤 TRIAL&ERROR』私達のご先祖様や、歴史に名を残す偉人。ひいては人類史も、これの繰り返しだ。まさに試行錯誤。」
取り敢えずやってみる→失敗する→やり方を変える→やってみる→失敗する→やり方を変える→繰り返し。
この過程こそ、“努力”というものだ。
しかし、多くの人は、これが出来ない。何故なら、人間は楽な方へ逃げようとする習性があるから。
「成功したいなら、苦労くらいしろよ。ビックリするくらい安い料金だよ?」
私がそう言ってから、大嶋さんは黙ってしまった。
結局、それから一言も喋る事なく、私は昼食をたいらげた。
もちろん、お金は大嶋さんに払わせた。
人の金で食うメシは上手い!
皆さんも、試行錯誤してみては?