大成功
「あれ全部お芝居だったの?」
私は、組合の休憩室に来ていた。
「はい、二人のデートを正解させるためのお芝居ですよ。」
「あの涙も?」
「はい。」
モモ姐さんは、笑って、
「天音ちゃんも、結構怖いわね~」
「ふふ、そうですか?」
「それに、私が貸したアーティファクトも有効活用してくれたみたいね〜」
あのアーティファクトには、かなり助けられた。というか、あれが無いと今回の作戦は出来なかった。
「あのアーティファクトの出どころって…」
「ふふ…」
あっ、これ踏み込まない方がいいやつだ。
「それで?デートの様子はどうだったの?」
「大成功ですね。ダンジョンの中でじゃれ合いはじめましたし。」
「それは…凄いわね。」
二人は今、組合の病室で楽しそうにしている。
「二人の容態は?」
「ポーションで怪我は治ってるわ。骨折は治らなかったけど。」
「じゃあ後で治療しに行きますね。」
「そうしてあげて。それと、」
モモ姐さんの目が真剣なる。
「学校で問題を起こしたそうだけど、大丈夫なの?」
問題…あのことか。
「大丈夫です。停学、退学は怖くありませんね。」
「流石、未来の昇華者は考え方が違うわね。」
「え?」
未来の昇華者?
なんで知って…
「前に、似たような義眼を持った子に会ったことがあるの。」
「似たような義眼?」
「ええ、『悪魔の赫眼』って言うの。」
悪魔の赫眼…
「その子は昇華者になったのだけど…誰か分かる?」
日本の昇華者の事だろう。確か、
「『日ノ国の悪魔』ですよね?」
「ええ、正解。あの子が持っていた、『悪魔の赫眼』と、貴女の『天使の金眼』似てると思わない?」
確かに…
「モモ姐さんはお見通しだった、って事ですか…」
「ふふ、オカマの勘よ。」
その後も、モモ姐さんと談笑をしていた。
その時、
「天音!」
「お母さん!?」
休憩室にお母さんが飛び込んできた。
「怪我はない?」
「私は、なんともないよ。手足を失うくらいの怪我でもない限り治せるしね。」
「良かった…」
お母さんは、安心したのか私に抱きついてくる。
「天音ちゃんのお母さんですね?私は、モモといいます。見ての通り受付嬢をしています。」
「え?あ、はい。」
お母さん、そんなに驚かなくても…
まぁ、ゴリマッチョのオカマが受付嬢なんて、受付嬢のイメージが砕け散るよね。
「モモ姐さん、この人は私の母で、『白神 夏菜』って言います。」
「はっ!夏菜です、よろしくお願いします。」
「ええ、よろしくお願いします。」
お母さんは、まだモモ姐さんの衝撃を受け止めきれていない。
「あ!そうだ天音!貴女学校で剣を抜いたんですって!?」
またその話か…
私は、空間収納から剣を取り出して、
「天音?」
お母さんの首に剣を振り下ろした。
「きゃあああああ!!」
「天音ちゃん!!」
私の剣は、お母さんの首に当たり、
「あれ?痛くない…」
薄皮一つ切ることはなかった。
「『ビックリソード』ね?」
「ええ、そうです。」
『ビックリソード』
ダンジョンで見つけることの出来るドッキリアイテムだ。
ビックリソードは、本物さながらの見た目をしていて、重さも本物と同じだ。
しかし、一番の特徴は、どんなに全力で振り下ろしても、傷一つつけられないという所だ。
なにせ、薄皮一つ切れない。
だから世間では、ダンジョン産のドッキリアイテムなんて言われている。
「確かに、学校で剣を抜いたよ。この剣をね?」
「そう…だとしても、停学とかになったらどうするの?最悪退学だって…」
「ダンジョンで稼ぐ方法を見つけたって言ってたでしょ?」
お母さんは、少し考えた後、
「確かに、言ってたわね、それがどうしたの?」
私は、言おうかどうか少し躊躇ってしまった。
すると、
「天音ちゃんのお母さん、昇華者って知ってますか?」
モモ姐さんが代わりに言ってくれた。
「昇華者ですか?確か、人間以外の種族に昇華した人達を指す言葉ですよね?」
お母さん、昇華者のこと知ってたんだ、以外。
「天音ちゃんは、その昇華者になれる人なんです。」
「え?天音が?」
「はい、天音ちゃんが。」
モモ姐さん、話し方が上手いな…
「だから、天音ちゃんは、停学や退学が怖くないんです。昇華者に学歴は関係ないので。」
「そうなのですか?」
「ええ、日本の昇華者は、高校を中退しているので、中卒ですよ?」
知らなかった…私も学校辞めようかな?
「退学になった方が、ダンジョンに行く時間も増えて、むしろ都合がいいんです。」
「確かに…」
「だから、剣を抜くなんて大胆な行為をしたんだと思いますよ?」
…普通にカッとなって抜いたんだよね。
そういう事にしておこう。
「どうする?天音。学校辞める?」
「突然だね、お母さん。」
「学歴が要らないなら、学校に行く理由の九割は、無くなるわよ?」
九割は言い過ぎじゃないかな?
昇華者の場合は別かもだけど…
「停学になったら辞めようかな?」
「分かったわ、今から中退する準備しておくわね。」
「行動が早すぎない?」
「学校はお金がかかるんだから、当然よ。」
うちはお金が少ないからね~
「そうだ、明日のお昼から、学校に呼ばれてるし、午前中はダンジョンにでも行ってきたら?」
「普通止めるところだよね?」
午前中はダンジョンにでも行ってきたらって、ニートみたいじゃん。
取り敢えず、明日の午前中は試練の界にでも行こうかな…
せっかくだし。
「そうだ、二人の治療してくるね!」
私は、そう言って休憩室を出た。
「調子はどう?」
私は、二人がいる病室にやってきた。
「怪我はポーションで治りました。」
「骨折はまだ治ってないけどね。」
うん、聞いていた通りだ。
骨折くらいなら回復魔法治せる。
一応、十字剣も使うか。
十字剣は、魔法媒体としても優秀だからね。
私は、十字剣を使って回復魔法を発動させる。
「あれ?痛みが…」
「白神先輩、凄いですね…」
思ったより早く終わったね。
「これで、大丈夫なはず。」
「そう言えば、さっきお父さんが来たの。」
どうやら、香織のお父さんが来ていたらしい。
「心配させやかって!って怒られちゃった。」
「私も、お母さんに怒られちゃった。」
矢野ちゃんのお母さんも来てたのか…
「二人は、明日の午後学校に呼ばれてない?」
「二人とも、怪我してるから呼ばれてないよ。親は行くらしいけどね。」
「そっか…明日は、二人で遊んでたら?」
「そうするつもりだよ。天音が治してくれるって思ってたから、買い物デートの約束しちゃったよ。」
うん、ラブラブになってるね。
私が、近づき難い空気を作ってるし。
「私は、明日は午後から学校に話し合いに行ってくる。そのまま、中退するつもりだけど。」
「え!?先輩学校辞めるんですか!?」
「昇華者に学歴は要らないもんね。わざわざ学校行く必要ないね。」
香織は、分かったらしい。やっぱり昇華者って便利だな~
何なら、徹夜でダンジョンにいようかな?
流石にそれは疲れるか…
「先輩、学校辞めるんですか…いいな〜。」
「私より、天音の方がいい?」
「そうじゃなくて、学校を簡単に辞められる白神先輩が羨ましいだけです!香織先輩の方が好きですよ?」
うーん、こうもイチャイチャされると、鬱陶しいね…
これが、リア充爆発しろってやつなのかな?
私の場合、氷漬けにするけど。
取り敢えず、ダンジョンデートは大成功という事で。




