ダンジョンデート2
「よし、行ったね。」
私は、フードを取る。
モモ姐さんから借りた物の一つ『不可視の外套』だ。
「二人には悪いけど、これなら吊り橋効果も強く現れるよね?」
私は、モモ姐さんに二人のデートについて話していた。
すると、この作戦と、幾つかのアーティファクトを貸してくれた。
道中、一度もゴブリンに出会わなかったのは、『魔除けの指輪』の効果だ。
2つとも、読んで字の如しって感じのアーティファクトだ。
そして、鞄には、水、傷テープ、包帯、消毒液、毒消し、などが入っている。
しかし、ポーションは入れてない。
ポーションは、宝箱に先回りして入れる。
元から入っていればよし、って感じだ。
もちろん、本当に危険になれば、私が出る。
それ以外は、二人でどうにかしてもらう。
「成功するといいな、『ドキドキ!ダンジョンデート作戦』…うーん、なーんか違うんだよねー。」
そんな下らない事を考えながら、私は、二人の後を追った。
「うう!」
「もう少しだから、我慢して。」
私は、消毒液で濡らしたハンカチで優花の傷口を拭く。
本当なら、ガーゼとかがいいんだけど、残念ながら、天音の鞄には、入ってなかった。
そして、傷テープを貼る。
「こういった怪我をすることを想定して、病院にありそうな、傷テープを持ってるのかな?」
「多分、そうじゃないですか?回復魔法が使えるとはいえ、魔力が無くなれば、ですから。」
「だったらポーションを入れておいて欲しかったわね。」
ポーションも、鞄には入ってなかった。
「ポーションは貴重品なので、空間収納に入れてるんじゃないですか?」
「確かに、落として割れたら大変だもんね。」
そんなことを話しながら、包帯を巻き終える。
「包帯に意味があるか知らないけど、一応巻いてみたけど…どう?」
「凄く邪魔です。それに、包帯って止血するための物じゃないですか?」
「私も、そんなことを聞いたことがある、気がするね。」
「気がするですか…」
これで、怪我は大丈夫だろう。
さて、次はどうすればいいんだろう?
「次は、どうすればいいと思う?」
「選択肢はふたつです。白神先輩を待つか、二人で脱出するか。」
「天音を待つか、出口を探すかね…」
どっちも危険だ。ここはダンジョン、必ずしも救助を待つことが正解だとは、限らない。
「ゴブリンは、人間よりも鼻が利くそうです。待っていると、血の臭いにつられたゴブリンがやってくるかもしれませんよ。」
「出口を探すにも、ゴブリンと鉢合わせるかもしれない。それに、常に警戒しないといけないから、想像よりも疲弊する。」
「どっちもどっち、ですね。」
なんか違う気もするけど、今はそれどころじゃない。
取り敢えず、待ってみよう。
「優花、取り敢えずここで天音を待ちましょう。」
「わかりました。」
私達は、天音の帰りを待つことにした。
「あちゃ~待っちゃうか〜。」
ダンジョンで仲間とはぐれたときは、出口あるいは、安全地帯を探すべきだ。
何せ、ダンジョンはぐれる=死
というのが、冒険者の常識だ。
遭難した場合は、救助を待つべきだが、ダンジョンに救助が来ることは無い。
救助隊に生きて救助された、という話しは、数えるほどしかない。
だから、ダンジョンではぐれたときは、自分で出口を探すのが正解だ。
「鞄には、水は2リットルの、ペットボトルがふたつ、4リットルしかない。何なら、食べ物は入ってない。」
この作戦のタイムリミットはニ日。二日で脱出出来なければ、私が連れ出す。
人は、一日2リットルの水がいる。
あそこには、一日分の水しかない。
一日、何も飲まない時点でかなり危険だ。一応、空間収納に水は沢山入れてある。道中、拾った壺に水を入れて置いておけば、大丈夫だろうけど…
慎重になるのは大切だ。
「ん?もう来たか…」
そこには、死体あさりのゴブリンが来ていた。
「ん?先輩、あれ!」
「え?ゴブリン…」
血の臭いにつられてもう来たか…
「ゲギャ?」
「しまった!?」
「ギャギャギャ!」
気付かれてしまった。
仕方ない…
「優花、行くよ。」
「はい…」
優花に元気が無い。
気になるけど、今はそれどころじゃない!
「やああ!!」
私は、向かって来るゴブリンに対して、横薙ぎに剣を降る。
「ゲギャァ!!」
私の剣は、ゴブリンの頬から口を切り裂く。
そして、私の横から飛び出した優花がゴブリンの脳天目掛けて、剣を振り下ろす。
優花の剣は、ゴブリンの頭蓋骨を砕き、背骨を折ってゴブリンを絶命させた。
「よし!やったわね優花!」
「…」
「優花?」
優花が俯いたままだ。
どうしたんだろう?何か具合の悪い所でもあるのかな?
「先輩…」
「何?」
「先輩は、大丈夫なんですか?」
「え?」
何を言っているか分からない。ただ、優花はなにかに怯えている。
「私達、モンスターとはいえ、生き物を殺したんですよ?」
「あっ…」
天音の話しを聞いたり、ネットで見たことしかなかったから、忘れていた。
モンスターも生き物だということに。
でも、前にゴブリンに会った時は、こんなふうに感じなかった…いや、あの時は、天音が倒してくれた。
私が、殺したことのある、モンスターはスライムだけだ。
スライムも、普通のスライムを触っているようにしか感じなかったから、忘れていた。
「そう言えば、トドメを刺したのって私だけですね。」
「え?あっ…」
確かに、最初に出会ったゴブリンにトドメを刺したのは優花だし、今のも優花がやった。
私は、ゴブリンを剣で切りつけただけ。
「大丈夫、次からは私がするから。」
「大丈夫ですよ…ダンジョンで生き残るには、必要な事ですから…」
まずい、優花が壊れてしまうかもしれない。
私は、優花を抱きしめる。
「優花、大丈夫だからね。きっと天音が助けに来てくれるはずたから。それまで私が守るから、安心して、ね?」
「先輩…」
優花は、それだけ言うと、私に抱きついてくる。
天音、速く帰ってきて!
しかし、私の願いも虚しく次のゴブリンが現れた。
「私が守るから、優花は下がってて!」
「でも!」
「先輩として、後輩にかっこいい所を見せたいの。それに、恋人にカッコつけるくらい別にいいでしょ?そのためのダンジョンデートなんだから。」
アクシデントはあった、でもこれはデート。
自分のかっこいい所を、恋人に見せるダンジョンデート。
優花にかっこいい姿を見せてあげないと。
「ギャゲゲ!」
「え?速っ!」
私は、ゴブリンの先制攻撃を受けてしまう。
「きゃあ!」
「先輩!」
そして、ゴブリンに転ばされ、上に乗られる。
「やめろ!この!ぎゃん!」
ゴブリンに何度も引っ掻かれる。
「香織を!離せええええ!!」
優花が、ゴブリンの首に剣を突き刺す。
「この!クソゴブリンが!!」
優花は、ゴブリンを何度も何度も切りつける。
「優花!待って、もう死んでる!」
それでも優花はゴブリンを切り続ける。
「優花!」
私は、後ろから優花を抱きしめる。
そこで、優花はハッとする。
「あの、先輩…」
「かっこいい所見せるつもりが、かっこ悪い所見せちゃったね…」
「大丈夫ですよ、このことは、二人だけの秘密です。」
「ありがとう。それと、」
私は、優花の目をまっすぐ見て、
「私を助けようと必死になってた優花、とってもカッコよかったよ。」
「ほ、本当ですか?」
「ええ、とってもカッコよかったよ。」
「やったあ〜〜〜!!」
うん、やっぱり喜んでる優花が一番かわいい。
「ダンジョンデートは正解?」
「生きて、家に帰れたら正解ですよ。」
「じゃあ、生きて帰らないとね。」
帰ったら、私の方から告白しようかな?
…今、フラグっぽかった気がする。




