ダンジョンデート
ダンジョンデート…もし、この世界にダンジョンが現れたら、流行るでしょうか?
「おまたせ~!」
しっかりと、装備を着た優花が更衣室から出てくる。
「にしても、本当に装備を借りて良かったんですか?」
今、優花が着ているのは、天音の装備だ。
「逆に、こんなお古で良かった?」
「着心地は丁度いいですね。」
「ふふ、プレートアーマーは、ダンジョン産のお宝だからね。着用者の身体に合わせて変化するよ?」
「「え!?」」
これ、ダンジョンのお宝だったの!?
「え!?いいんですか?凄く高価なものなんじゃ…」
天音、目を泳がせて、
「実は、レンタル代をケチってるだけなんだよね。」
「「え?」」
「香織の装備は、レンタルでしょ?レンタル料、五千円。壊したら、三万円…」
「「え?」」
三万?この装備に?
「一、二回くらいしか、ダンジョンに行ったことないでしょ?それも、装備は私が用意したし。」
確かに、私は二回しかダンジョンに行ったことない。
「まともな装備を買おうと思うと、軽く十万は飛ぶよ?」
「マジですか…」
装備って高価な物なんだね…知らなかった。
「ダンジョンの知識は多くても、現実の知識は少ないよね?こんなものだよ。」
「もし、この装備壊したら…」
「私が弁償するよ。今回は、二人のデートなんだし、気にしないで。」
いやいや、気にするよ!
「ちなみに、私が装備を壊したら…」
「どうせ、試練の界で新しい装備が手に入るよ。気にしないで。」
「気にしますよ!」
優花、よく言った。
「まあまあ、そこまで危険なダンジョンでもないし、今日行くダンジョンは、いつも行ってるか大丈夫だよ。」
確かに、今日行くのは不人気ダンジョンで有名な、ゴブリンしか出ないダンジョンだ。
危険は少ないだろう。
私達が行こうとしたとき、
「おいおいw、そんな装備無しで行って大丈夫かよw?」
テンプレが発生した。
「本気でやれば、貴方程度、嬲り殺しにできるけど?」
「へぇ、お前がか?」
そう言う、男はニヤニヤしている。
「だったら勝負して「じゃあ、あたしと勝負してよ〜」!?」
受付カウンターから、一人の女性?が出てくる。
さっきから、見てみぬふりをしていたが、あっちからやってきた。
「せっかくの天音ちゃんの友達のデートを邪魔するなんて、許せないわ〜」
「聞いてよモモ姐さん!この男、私の胸触ってきたの!」
「は!?ふざけんな!冤罪だ!!」
天音はわざと、大きな声で言う。
「それは、許せないわ〜。お兄さん、あっちで私と“お話し”しましょう?」
「いやああああああ!!」
そして、男はモモ姐さんに連れて行かれ、
「モモさん。この馬鹿は私が相手しておくので、大丈夫です。」
横から別の女性が現れた。
受付嬢っぽい。
「あらそう?じゃあお願いするわ~。すぐに私も行くし待っててね~、チュ♡」
「アババババハ」
男は泡を吹いて気絶してしまった。
「ごめんね~、すぐに助けてあげられなくて。」
「ありがとうございます、モモ姐さん。」
「あっ、自己紹介してなかったわね。私はモモ、見ての通り受付嬢をしているわ〜」
受付嬢…
「女性からは、敬意を込めて『モモ姐さん』って呼ばれてるの。ね?」
「ええ、信頼厚いのよ〜。」
信頼厚い…確かに、モモさんの前ではナンパとかできなさそう。
「それで、貴女達がデートするのね〜。天音ちゃんから聞いてるわよ~。香織ちゃんと優花ちゃんよね〜?」
「「は、はい!」」
「ふふ、怖がらなくていいわよ〜。取って食べたりしないから〜。それに、私が好きなのは、ムキムキの力強い男なの〜。」
女に生まれて良かった〜。
「優花ちゃん。」
「は、はい!」
「彼女のハート、ちゃ~んと撃ち抜くのよ〜。」
「はい!先輩をメロメロにします!」
優花は、自信満々だ。
「張り切るのはいいことよ〜、でも、周りには気をつけてね?ダンジョンは、危険な所だからね~」
「はい!」
「それじゃあ、お姉さんからアドバイス。」
お姉さん???
モモさんは、優花の耳元で何か話してる。
「わかりました!」
「頑張ってね〜」
そして、組合を出た。
「着いたね。」
「先輩、必ずメロメロにしてみせますからね?」
優花からは逃げられなさそうだ。
「行くよー」
天音が呼んでいる。
私達は、ダンジョンの中に入った。
「おかしいな?いつもなら、もう5匹はゴブリンを見つけてるくらいなのに…」
ゴブリンが一匹も出てこない。
「優花、さっきから私の腕に胸を当ててくるの何なの?」
「モモさんから、積極的にスキンシップをしろって言われたので。」
ここはダンジョン、興奮して集中力が散漫になるのは危険だ。
「お?いたよー。」
天音が、ゴブリンを見つけた。
「ゴブリン、生で見るのは久しぶりだなー」
「そうなんですか?私は初めてです!」
優花は、ゴブリンを見るのは初めてらしい。
私達は、剣を構えて前に出る。
「クギャギヤ!」
私達に気付いたゴブリンは、走って来る。
「行くよ!」
「はい!」
私達も、ゴブリンに走って迫る。
「やあ!」
優花がゴブリンに向かって剣を振り下ろす。
しかし、ゴブリンは横に避けて躱す。
そして、ゴブリンの反撃が優花を襲う。
「きゃあ!」
ゴブリンの爪が、優花の腕を引っ掻く。
優花の腕から血が流れているのが見える。
「優花に、何してくれてんのー!!」
私は、優花に気を取られていたゴブリンの背中を切り裂く。
「ゲギャァ!?」
ゴブリンが悲鳴を上げる。
「優花!二人でやるよ!」
「はい!」
のたうち回るゴブリン目掛けて二人で剣を振り下ろす。
そして、優花の剣がゴブリンの頭を捉え、ゴブリンは死んだ。
「倒した?」
「みたいです…」
優花は、腕をおさえている。
「優花!天音、早く来て!」
私は、天音を呼ぶ。
しかし、
「天音?」
天音はそこにいなかった。
「これてって天音の…」
さっき曲がった道に天音の鞄とスマホが落ちていた。
「もしかして、転移トラップ?」
「転移トラップ?こんなダンジョンに?」
「来る途中、白神先輩言ってたじゃないですか。」
そう言えば…
『転移トラップ?』
『そう、ちょっと前に引っかかってね。出口を見つけるのが大変だったよ。魔力も危うく尽きるところだったし。』
『でも、こんなダンジョンに転移トラップなんてあるの?』
『あるよ、どこだったかは忘れたけど、他のトラップもあるし、気をつけてね?』
「確かに、言ってたね。」
「それで、鞄とスマホを落として、どこかへ飛ばされたんじゃ…」
「きっと大丈夫よ、天音は、『神』の武器を持ってるし、レベルも高い。ゴブリン程度に負けたりしないはず。」
それよりも、いざという時、天音が助けてくれるはずだったのに、その天音が転移トラップで飛ばされた。
もしかしたら、死ぬ…
「優花」
「はい…」
「何かあったら私が守るから。まだ、返事もしてないのに死なれちゃ困るよ。」
これで、少しでも優花が元気を取り戻してくれれば…
「凄く、嬉しいです。でも、今言われると、フラグになりそうで、怖いです。」
「大丈夫。私が何とかするから…」
未来のお嫁さんくらい、守れないと、私に優花を好きになる資格はない!
私は、このダンジョンで、優花を守ることを決意した。