英雄、冒険者になる。
(異世界転生後、2日目のお昼過ぎ)
―――冒険者ギルド。
日夜、冒険者が屯する建物。
依頼者がギルドへ依頼を出し、それを冒険者へと仲介するお仕事をする場所。
冒険者とは所謂日雇い労働者みたいなもの、もしくは短期バイトが近いのか。
建物自体はフォーサイクルの街では一番大きく、特徴的なのが外にある大きい鐘。それは街が緊急事態に陥った際に鳴らされるとの事。
1階は食堂や受付カウンター、2階は従業員や冒険者の憩いの場となっていた。
そんな場所に俺達は、朝早くからギルドの受付へと冒険者登録と魔物の討伐報酬の受け取りに来ていた。
「……と、言う訳でこちらが冒険者カードです。これがないとクエスト受けられませんし、身分証の代わりになるので、なくさないでくださいね? 紛失した場合は再発行にお金が掛かりますのでお気をつけください」
「あ、どうも……」
受付カウンターにいる犬耳が生えてる茶髪のOLっポイ服装をした獣人お姉さんが、俺にトランプ程の大きさの冒険者カードを手渡して、笑顔で説明してくれる。
その笑顔に見惚れていたら、リリスが俺の肩越しにカードを覗き込んできた。
「わぁー、ヒデオさんって見た目によらず高レベルなんですねー。そのレベルならステータスもさぞかし高いんでしょうね! ステータス欄を見せてくださいよ。カードのステータスって書いてある所をタッチすれば見れますから!」
「へぇー、やってみるわ。……って、アレ? 俺、ディスられてる? まぁいいや」
気にせずに色々と書かれたカードをポチッと押してみると、浮き上がるステータス。
『筋力・持久力・俊敏・知力・技量・魔力』
その他にも色々と表示されてはいるが、おおよそ目につくのはこんな所だ。
これが異世界仕様と言うわけか。
そんな俺のステータスを見て、少し残念そうな表情のリリスが口を開く。
「……ほぼオールB? レベル31の割に、そこまで高くないですね……。それにヒデオさんって魔力の項目が『-』になってるので、魔法とか使えないみたいです。典型的な剣士とか戦士タイプですね。一応弓も使えるみたいですが、技量がEなので前衛向きかと思いますよ? ……このステータスとなると、もしかして、大器晩成型かもしれません。それなら納得です」
「なるほど、そっか俺って魔法が使えないのか……。それはちょっと残念だな」
異世界と言えば魔法の代名詞なのに、俺にはその才能が無いみたいだ。
だが、キューショナーがいる。
こんな世界でも俺はチートな武器があるからか、あまり不安にはならなかった。
「ヤダ、我の持ち主、ステータス低すぎ!?」
……へし折るぞ? 無理だが。
キューショナーを無視しながら、俺はリリスへと質問をしてみた。
「あと大器晩成型って何? 早熟型もあるの?」
「えぇ、私が早熟型ですよ。レベルが上がりにくく、低レベルからステータスの伸びが良いのが早熟型の特徴で、中レベルからステータスの伸びが減少していく感じですね! 大器晩成型は、その逆ですよ。……ほら、私のステータスカードを見てください」
リリスが自身のステータスカードを俺へと手渡してくる。
レベルは5。
素早さと魔力と技量がAとなっていて、それ以外はオールE。
……正直、高いのか高くないのかよくわからん。
「これって高いの? それならお前って、すげー優秀なんだなー。ならなんで、他の冒険者と組んでない……、……あー、何となく分かったからいいや。ほら、返す」
「それはどういう意味ですかー! ちょっとー、教えてくださいよー!」
俺を肩を掴みながら、身体をガクガク揺らしてくるリリス。
それよりもだ、もっと聞きたい事がある。
「それよりさ、リリスって魔法が使えるんだろ? さっき分かった事なんだけど、俺って魔法は使えないじゃん?だからさ、お前がどんな魔法を使えるのか、すげー興味があるんだよ。やっぱり見た目からして、回復魔法とか、神聖魔法とか使える感じか? ちょっとでいいから見せてくれよ」
「我も興味あるー。リリスちゃん、どんな魔法を使えるん? 教えなさいよー」
「……」
二人? いや一人と1本に詰められて、冷や汗を流し無言でギルドの天井を見上げているリリス。
何故だろう、様子がおかしい。
この様子はあの女神様と天使長の、俺が人違いだったと分かった時の様子に近い。
「もしかして、お前って、まだ魔法を習得してない……。とかある訳ないよな? だって自分で後衛職だって、自慢してたものな。と、言うと他に何があるんだろうか、ちょっと考え付かないんだけども」
「…………」
「……」
俺の言葉に動揺し、さらに冷や汗を流してそっぽを向いたリリス。
キューショナーも察してか、無言だ。
これはもしかして……。
「まさか魔法……、覚えて、ないのか? おい、こっちを向けよ、おいってば。お前、マジで魔法使えないの? そんな『私、神官ですけど、何か?』って恰好してる癖に魔法も使えないのかよ。なんてこった、分かったぞ! だからか! だから冒険者パーティーに捨てられたのか! 応援してたとか言ってたもんな!? 応援だけしてたんだろう? 酒癖も悪い癖に、魔法も使えない後衛職とか、全然需要ないじゃんか! 自慢出来るのはステータスだけかよ!?」
「……レ、レベルが足りないんですよ! あと、5レベル……、いえ、あと3レベル位あれば回復魔法を覚えるんです! 裏面を見てくださいよ、ビショップって書いてあるでしょう? だからあと少し、もうちょっとで回復魔法が使えるんですよ! 本当です、間違いないんです!」
「そうだ、そうだ! 魔法が使えなくても、リリスちゃんは可愛いからいいんだっ!」
キューショナーの言葉を聞いたリリスは、一瞬で笑顔になり。
「ほら、聞きましたか? セイバーさんが肯定してくれてますよ! だからですね? この美貌に免じて、長い目で成長を見守ってくださいよーーっ! 私達仲間じゃないですかーーっ!」
「や、やめろ! 腰にしがみ付くなよ、分かったから、分かったから! ……くそう、キューショナーもリリスの味方をするんじゃないよ!」
そんなやり取りしていると、受付の犬耳お姉さんが少し困り顔になり。
「あのー、他の冒険者の方々のご迷惑になりますので、そろそろお引き取り願えませんでしょうか、申し訳ございません。……次の方どうぞー」
「「あっ、すいません」」
リリスとハモる俺は背後を見ると、ゾロゾロと列を成した冒険者達。
時間も結構経ってたようで、これから冒険者達の時間が始まるのだろう。
「「すいません、すいません……」」
またもや二人してハモり、頭を下げながら、その場を後にする……。