英雄と魔剣。②
祠を出て森を抜け数時間、太陽が昇る草原をひたすら歩いていく。
早速異世界の地を踏んで、すぐに問題にぶち当たっていた。
「ここ何処だよ、どうしよう。今の俺って完全に迷子じゃんか。もうそろそろ街道とかの人が通ってた痕跡とかが見えてきてもいい頃じゃん……。ってか魔物すら出てこねぇんだけど、どうなってんの?」
「こうなっております!」
「聞いた俺がバカだった」
悪態を吐きながら周囲を見渡すも、草草草。
街道もなく、動く生物等もいない。
「く、くそう。俺の予想では今頃町で出会ったヒロインとかに『キャー、ヒデオ様素敵ー』って言われてチヤホヤされてたり、華麗に魔物を倒したりで冒険者達から尊敬の眼差しを受けてたりしてる所なのに……。なあキューショナーって、ここら辺の光景って覚えてる?」
特に期待していない眼差しを向けながら、手に持ったキューショナーに聞いてみる。
「覚えておりません!」
「やっぱりか、なんとなくは分かってたよ。最初に道を聞いた時だって、お前は『そこは右で』とか『そっちは左で』とか言って、散々迷わせてきたもんな。危うくお前の事を、川に投げ捨てそうになったよ」
「そのあとに我を倒して『こっちに行ってみるか』とか『コイツが倒れた逆方向に行ってみるか』って言って、グルグルと同じ所を回っていたのは面白かった!」
「うんうん、そうだな、俺が悪かったな。反省するからさ、お前に備わってるかもしれない素晴らしい特殊な能力で、近くの町とか見つけてくれない? 頼みますよ、伝説の魔剣のエクスキューショナーサマー」
心にもないゴマすりで機嫌を取ってみると、
「もうヒデオはしょーがないなー。今から我の能力を思い出すから、我を地面に突き刺して、その前で我を崇めながらちょっと待ってて?」
俺のご機嫌取りに満更でもないらしく『うーん』と唸り、何かを思い出すかのような素振り。
「……マジ? もしかして、お前本当に何か便利な機能とかあるのか? それって期待しても良い感じ?」
今のこの状況では、頼みの綱はキューショナーしかいない。
偉そうな態度を取られてもしょうがなく、多少は目を瞑ろうと思うくらいに迷子なのだ。
「柄の右のボタン押してみ? 光るから。もうそれは凄く眩しいくらいに光るから!』
「……それでどうしろと? 真昼間にライトを付けてどうしろと? 期待した俺がバカだった」
コイツは本当に頼りになるんだろうかと溜息を付く。
再度、何かないかと視力2.0の細目をグワッと見開き、注意深く周囲を見渡した。
「……なんだあれ、少し遠目に土煙がみえるな。……ん? 先頭に誰か走ってて、追われてるっポイぞ。後ろのは牛の群れか? おいキューショナー、角の生えた牛達が、前の人を追ってるぞ。もしかしてテンプレ来たか?」
「美少女? もしかして美少女なの? 我にも見せてー! 超見せてー!!」
ご要望の通りセイバーを両手で空高く掲げた。
「美少女だったら嬉しいけど、どうだろう。……ほら、見えるか?」
灰色の刃が太陽を反射して眩しい中、ガラス玉を淡く光らせたキューショナーが。
「170センチ、60キロ、黒髪で糸目の雰囲気だけはイケメンにしたいと、ちょっと髪を伸ばし始めた、中肉中背の高校生2年生、友達無しのモテない17歳が見えた」
「俺の事じゃねぇか、なんでそんなに詳細なんだよ!? お前を握ってたら俺の事が分かっちゃうの!? ってか、お前はどこに目を付けてんの!? おかしくない!?」
「魔剣ってそういう物ですので。それよりも早くー、早く向き変えてー」
言われた通りキューショナーの向きを変えて再び掲げる。
「あ、あれは!? 金髪ロング碧眼のビショップっぽい美少女が、魔物達に襲われてるのが見えた!」
……マジで美少女? ガチのテンプレじゃん!
徐々にテンションが上がって来た俺は、ピカピカと光るキューショナーへ。
「おいおい、ガチのテンプレ来ちゃったよ。いいじゃんいいじゃんこういうの、俺期待しちゃうよ? 異世界で迷子になって最初はヤバイなって思ったけどさ、速攻で『キャーヒデオ様素敵、抱いて』フラグ回収じゃん!」
「まずは住所聞いてカップ数聞いて、そのあとに自己紹介をしなくては!」
などと思い思いに語り合う、和気あいあいとした雰囲気を作る俺とキューショナー。
だが、徐々に土煙を巻き上げ、ドドドッという音と共に、美少女らしきモノから叫ぶ声が聞こえてきた。
「……ああああぁぁぁ……、助けてくださいぃぃぃ……」
逃げている神官っ娘の表情が、必死すぎて気持ち悪いなと分かる位には近くまで来ている。
ちゃんと言語スキルは機能しているみたいで安心した。
……って、そんな場合ではないようだ。
「なあキューショナー、お前の力を見せてくれよ。あるんだろ? 必殺技がさ。こう、ブワッと身体能力が上がる能力とか、とんでもない斬撃が出るとかさ」
「ないっ! だけど押すなよ、宝珠は押すなよ? 押したらダメなんだからね!」
「なるほど、押せばいいのか。剣の中央に填めてある透明のガラス玉をポチッと押せばいいか」
分かり易くて本当に助かる。
「……あああああっ! わああああっ!!」
美少女らしき叫ぶ声を聞きながら、気合を入れてキューショナーの真ん中にあるガラス玉をポチッと押した。
―――その瞬間。
灰色の刀身から吹き荒れる、黒色の炎が渦を巻き、俺の足元から暴力的な風が吹き荒れる。
その風は草や砂利を吸い込み、俺の周囲に小さな竜巻を形成した。
「あばばばっ、おぼぼぼぼっ! わ、我の魔力がああああ!!」
キューショナーがブルブルと痙攣し、気色悪い叫び声を出している。
俺はそれを無視しながら、
「なにこれすげー、マジすげー。お前ホントにすげー奴だったんだな、見直したよ。んで、これを振り下ろせばいいんだろ?」
説明書とか欲しかったけど、それすらもいらないようで助かるな。
褒めたあとに魔剣を上段に構えながら、振り下ろすタイミングを伺う。
まだ少女まで距離がある。
多分このまま放つと巻き込んでしまうので、そのままの姿勢で待機して。
「まだだ、まだまだ、もう少し……」
その時だった。
こちらへ走る少女が何かに足を絡め『……フゲッ!』っと言う間の抜けた声と共にズッコケた。
「ちょ、ちょっとぉーーっ!? もっと恰好良く助けさせてくれよぉーーっ!! ……轟けぇぇぇ! エクスキューショナァァァ!!」
それを見た瞬間、駆け出した俺は秒で考えたキメ台詞を叫びながら、魔剣の能力を解放する。
振り下ろした刀身から放たれた斬撃は、広範囲に広がって。
―――地を焦がし空間を燃やし、全てを黒い炎は、目の前の魔物達を塵も残さず燃やし尽くしていった。