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異世界転生は突然に!  作者: ナムヲ
10/23

英雄の天啓。

 昼過ぎのギルド内。

 ギルド内では昼飯を食べる者達や、午後からのクエストを受ける冒険者達で賑わいをみせていた。

 借金取りの騒動から1週間が経った。

 ようやくこの世界にも慣れてきた俺は、2Fの休憩室で牛丼を食べている所だ。

 何故かこの世界は米がある。

 ギルドの食堂に牛丼の名前があった時は驚いた。

 味も日本とあまり変わらなく、食に関しては特に困惑してたりはしない。

 そんな俺へと満面な笑顔を浮かべ、依頼書を持って来た奴がいた。

 ……リリスだ。


 「ヒデオさん、ユニコーン狩りに行きましょうよ。凄いですよ、ユニコーンの依頼書がありました。……これです、これ、見てくださいよーーっ!」


 テンション高めなリリスは、依頼書をテーブルの前に置いてきた。

 周囲を見ると、そのテンションの高さから注目の的になっているようで、ちょっと恥ずかしい。


 「別にいいけどさ、もうちょい声のトーンを抑えようぜ。……見て見ろよ、他の冒険者達に注目されてるぞ? ちょっと恥ずかしいからさ。それとユニコーンって言うとあれだよな。角生えた馬だよな、白くてデカい馬で間違いないか?」

 「そうそう、そうですよ、そんな感じの馬で間違いないです。そのユニコーンの依頼書がたまたまあったんですよ!」


 俺のセリフの前半部分を全く聞いてないリリスは、何やら張り切っているようで、依頼書を見ながら微笑んでいる。

 そんなにユニコーンとは報酬が良いのだろうか。


 「まぁいいか。んで、そのユニコーンの討伐報酬ってどんなの? 牛ドンみたいに害獣の癖して取れる肉が美味しいとかと同じで、ユニコーンって馬だから馬肉が高い……、みたいな感じ? それともユニコーンに生えてる角が高いとか?」


 俺の言葉にリリスは頷いて、依頼書を握りながら一指し指を立てて説明し始めた。


 「そうです、その通り。ユニコーンの肉は高級珍味として、ギルドや近くの食堂でも出荷されます。ですが、それだけではありません。討伐報酬と別に、角が高く売れるのですよ。その角は薬の材料……、高級ポーション等に使われる、大変貴重な物なのです。それにユニコーン自体、数が少ないので、こういう依頼は滅多にありませんよ。さぁ、見てください!」 

 

 リリスは楽しそうに語ったあとに依頼書を俺に渡しながら、ほぼ皆無な胸を張る。

 その言葉通りなら、凄く高そうな物みたいで入手するのは大変なのではなかろうか。

 不安に駆られながらも渡された依頼書を見ると。


 (近場の湖にユニコーン出現中。討伐報酬は200万をお支払いします! ※ユニコーンは清らかな乙女にしか近づきません。身体は要回収でお願いします。)


 と、書いてある。

 牛ドン1体、身体ごとの回収込みで大体5万ALと考えれば破格の報酬ではある。

 ちなみに回収無しなら半額以下だ。


 「へぇー、本当に高額だな。返して来いよ」

 「でしょー? 嫌です」


 俺は依頼書を渡すのだが、頑なに依頼書を受け取ろうとしないリリス。

 確かに中々高額なのだが、清らかな乙女とは何処にいるのだろうか。

 俺はリリスの顔を見た後に、再度、依頼書に視線を落として。


 「これ、依頼書に清らかな乙女って書いてあるんだけどもさ。俺達じゃ無理だろ。だって清らかな乙女がいないじゃないか。ユニコーン討伐に行くなら、清純そうな乙女の冒険者を臨時でパーティーに入れるのか? だけどそれだったら報酬の分配はどうするよ。絶対にあとでリリスがごねて、ややこしくなるだろ? 面倒だから返して来いよ」


 依頼書をリリスに返そうとすると、それを頑なに受け取らないリリスはプルプル震えながら、何故か俺の肩を掴んできた。


 「……な、なんて酷い事を言うんでしょうか、この人は! その糸を真横に張り付けた様な目で、しっかり見てくださいよ! どう見ても私は清らかですよ? すっごく清らかなんですよ!? 何故ならば男性とは、そういう経験はありません! ……チュ、チューもした事ありません! それなのに、なんでそんな酷いこと言うんですかあ!」


 「興味ねぇー。……なぁ、リリス、違う奴にしようぜ? 今日も牛ドンの討伐で良いじゃないか。今日もリリスがマラソンして、俺がキューショナーで消し飛ばす。これ以上楽な事ってないじゃないか!」

 「わああああーっ! 興味ないって言ったああああーーっ! 嫌です、嫌です。もうマラソンはしたくありません! だからこれを行きましょうよぉ! 200万ですよ、200万!? こんなチャンス、滅多にないんですよ!?」


 と、言われても無理な物は無理だ、ユニコーンなんてものはチート武器を持っている俺でも見つけなければ討伐が出来ない。

 リリスは可愛い容姿なのだが、俺の視点では清らかな乙女に見えない。

 俺の見立てではリリスにユニコーンは近づいて来るどころか、逃げて行くのではないだろうか。


 「うーん無理だろ。餌が無い。このギルド内で清純そうな―――」

 「ここに居るじゃないですか、何で無理なんですか。……ううっ……。もういいです、返してきます!」


 とか言うのだが俺から依頼書を引っ手繰った後、それを握ってチラチラと俺の様子を伺いつつも、返してくる様子はない。


 「まだ諦めないのか、頑固だなぁ。今日も同じの行こうぜ? 安心安全の牛ドンだ」

 「…………」 


 涙目になりつつ無言で圧力を掛けて来るリリス。

 無理だと言っているのにな。

 だが優しい俺は涙目のリリスがちょっとだけ、ほんのちょっとだけ可哀想になってきてしまう。

 未だに返しに行こうとしないリリスに呆れながらも、とんでもなく優しい俺は真剣に悩むのだけど、ユニコーン討伐は難しい問題だった……。

 何故なら捕まえる餌が無い、この一点に尽きる。

 さらにチラチラと依頼書と俺を交互に見るリリスが、大きな溜息を付いた時だった。


 「……いや、待て。……そうか、分かったぞ! そう言う事か!」

 「えっ!? どうしたんです? やっぱり行く気になったんですか?」


 キラキラとした目で見つめるリリスを横目に、俺の中で一つの天啓が舞い降りた。

 それは俺の知っているユニコーンとは、種類が違うと言うものだ。

 日本ではユニコーンと言えば、清らかな乙女にホイホイと近づいてくる根っからの処女厨。

 角も色々と用途があって、装備品に使われたり薬に使われたり様々だ。

 だが、もしかしてこの世界のユニコーンは腐った性根を持つ酒乱でも問題ないのかもしれない。

 それならば納得が出来る。

 だってここは異世界だ、リリスのような腐った性根を好むユニコーンだっていると思う。


 「っべー、マジっべー。可能性感じちゃったわ、俺」

 「……何を言ってるんですか? どんな可能性ですか? 私にも分かる様にお願いします」


 リリスが不思議そうに依頼書を握り聞いてきた。

 うんうんと頷く俺は、笑顔で説明してあげる。


 「いや、な? リリスは身体は清らかかもしれないが、乙女とはとても縁遠いと思うんだ。だが、そんなリリスの真っ黒な魂を持っていても、この世界の悪食かもしれないユニコーンなら、近寄って来るのかもしれないと思ってさ!」


 依頼書を返しながら言ってみた。


 「わあああああん! 酷いですよぉ! 何で酷い事を、すらりと言えるのですかぁぁぁ! この鬼! 悪魔! 暗黒騎士! この糸目ー!」

 「なんだよ暗黒騎士って、悪口なのかよ、わかんねぇよ。あと俺は細目だ糸目じゃない。」


 泣きながらキレるリリスは俺ポコポコと叩き出し、鼻水を啜りながらへたり込む。周囲の冒険者から奇異な目で見られるが、今はそれを気にしている余裕はない。

 何故ならユニコーンが俺達を待っているからだ。

 俺はゆっくりと立ち上がり。


 「……ほら、行くぞ? 200万が俺達を待っているんだよ。他の誰かに取られたら、たまったもんじゃない。善は急げって言うだろ? だから泣いてないで早く立てよ、な!」

 「私は綺麗でず、なんど言っても綺麗なんですよーーっ!」


 文句を垂れるリリスの腕を引っ張りながら、美人な受付のお姉さんの所までズルズルと引っ張っていく。 


 「よし、いくか、一応準備してから行こうな? 先に道具屋に寄って、必要な物を買って来ようぜ! ユニコーンが腐った性根のリリスに寄ってくるといいなぁ……」

 「……わああああっ!!」


 俺は優しい笑顔で、手足をバタつかせるリリスに言ってあげた。

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