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生きやすく、生きづらいこの世界で

作者: 間宮冬弥

みなさんこんにちは、そしてこんばんは。

作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す! かなり久しぶりだけど元気だった!?

もうわかってると思うけど、ここは前書きでっす!

続きを読みたい場合はサクっと飛ばしてね。


さて、冒頭でも言ったけどここに来るのもかなり久しぶり! その間に間宮冬弥さくしゃのパソコンが壊れたり、ネット回線が使えなくなったりといろいろなトラブルがあったみたい。まぁ、わたしには関係ないけどね! あはは!

今回のお話だけど、現代の物語となってまっす!  内容は新型のアレを扱ってるお話です。


じゃあ、役目も終わったことだし、わたしはこれで失礼するね。


「行くのやめよっか」


 ここ最近、よく聞くことの多くなったフレーズ。


 密をさけるため、感染しないため、人流を抑制するため。理由はさまざまだけど誰かとどこかに行くことが大幅に減った。


 感染病。


 突然、沸いて出てきたこの新型ウイルスによって、わたしの……ううん、わたしたちの生活はおおきく様変わりした。


 ニュースを見ても連日新規感染者の数や病院のベットが足りない事や、医療逼迫の個を流している。確かに重要なことだけど、気が滅入っちゃうよ。


 国も動き、政府の要請でいろいろなお店が休業。会社までもが休業して、さらにはライブやイベントなどが中止となり街からひとがいなくなった。

 感染病体策として、買い物など家から出るときはマスクを着用することになった。


 どこを見てもマスクを着用しているひとだらけ。以前まではまったく逆の光景だったのに。


 どのお店も『入店時にマスクを着用』や『お客様に3つのお願い』という張り紙が乱立し、出入り口にはアルコール消毒液が置かれるようになった。


 それと、どの買い物先でもお店の人が会計するレジの前には透明なビニールのカーテンが敷かれている。


 さらに国からは、ひととの距離をとるように『ソーシャルディスタンス』を求められる。コンビニのレジ待ちでも間隔を空けて待つようになった。


 そして、わたしの通う高校も一時休校になった。さらには体育祭も文化祭も修学旅行も感染病体策の理由ですべてが中止になった。

 三年しかない高校生活の思い出を奪われた気分。


 今は休校はしてないけど、登校したら登校したで、密になることは避けるように指示される。教室の机の間隔も空けるようになり、授業中もマスクの着用を求められる。もちろん体育の授業もマスク着用。月日がたちついにオンライン授業も週に1回行うようになった。


 ほんの少し前までは……マスクなんてしないでふつうに登校して、みんなでどこかに出かけたり、食事をしたり、他愛もないことで集まっては何時間もしゃっべっていたのが、いまではそれができない。


 当たり前だったことが制限されている。


 でも……正直に言わせてもらえば、とてもうれしい。


 わたしは人混みや大勢の人でワイワイ過ごすのが苦手だ。気を使うし苦手な子だと話に困る。かといって何も話さないと誘ってくれた子に悪いし……

 誘いを断るものなんか悪いし……まぁ断る理由があれば断るけど、そんな時に限ってないんだよな。まぁつまり。ひとりの方が気が楽なんだよね。


 大勢と居ると気苦労っていうのかな? とにかく気持ちが疲れる感じがする。

 買い物や食事に行っても買いたい物も買えないし、飲みたいドリンクも飲めない。みんなに合わせて注文してしまうから。


 人混みは理由はわかんないけど、とにかく苦手。左右にひとがいるだけでなんか緊張しちゃう。人見知りだからかな? とも思うけどなんか違う気がする。


 でも今は、仮に誰から誘われても『この時期だから』や『密になるからいかない』とはっきりと断ることができる。

 正直にこれは嬉しい誤算だった。断ることができるのがとても嬉しかった。相手もわかってくれて、無理には誘ってこない。


 これで、ひとりでカフェに行ったり。買い物に行ったりと堂々とできることがたまらなく嬉しかった。解放された気分すらした。不要不急じゃない外出だけど……


 それと、もうひとつ。

 スノーバックスとかのカフェは、『ソーシャルディスタンス』のため席を空けて設置されている。これも嬉しかった。

 以前までは混んでくるとわたしの座っている隣やロングテーブルの前座席に誰かが座るだけで緊張する。


 わたしはたぶん極度な人見知り。


 スマホを見ていても情報が入ってこないし、ドリンクを飲んでも緊張のせいで味もわからなくなる。

 でも、今は席を開けているので、隣や前に座ってくることはない。なんせイスがないんだから。

 これは飲食店すべてに当てはまること。マムドナルドでもモグバーガーでもサイドリアでもそう。席をひとつ開けている。前や隣に座ってくることがないとわかるととても安心してドリンクや食事を楽しむことができた。


 ほんとうに安心して、読書や試験勉強、ぼーっとスマホを見てたりもできた。


 でも……最近、『席を空ける』この対応が無くなりつつある。


 アクリル版という透明なパネル。


 この飛沫対策のパネルの登場と設置によって、混んでくると隣の席に座ってくるようになった。

 店からすれば規定の客数を入れることができるようになるから大喜びだけど……わたしからしたら残念なことだった。せめて、透明じゃなくて磨りガラスや色付きで前の人や隣の人が見えないようにしてくれるとありがたいんだけどなぁ……


 でも、このアクリル版のおかげでいろいろなイベントや飲食店がが再開できるようになったから悪く言うことはできないなぁ……


 それとここ最近、わかったことがあった。


 よく行く安くておいしいパン屋がある。ここはトングで好きパンを棚から取って、トレイに乗せて精算をするシステムと取っている。


 おいしそうな匂いと、おいしいそうなパンが棚に並ぶとそれだけで食欲が沸いていくる。


 だけど、入り口付近のパンはちょっとやだ。なんか砂や埃がついてそうだし。


 そしてこのパン屋は新商品を入り口付近に置いて販売している。


 だけど、最近は個包装するようになった。これも新型ウイルスの飛沫対策の影響だと思う。


 これも正直嬉しかった。この対応で入り口付近の新商品のパンも取れるようになった。以前までは躊躇していたパンも取れるようになり、食べたかったパンが食べられるようになった。お店のひとは包装で大変そうだけどね。


 でも……嬉しい事がある反面。ちょっとイヤなこともある。


 コンビニでの事。


 いつも笑顔がかわいいわたしよりふたつくらい年上の女性店員さんがいるんだけど……


『レジ袋はどうなされますか?』

『いらないです』

『かしこまりました。では350円になります』

『ココナでお願いします』

『かしこまりました。少々お待ちください』

『では光るパネルにカードをお願いします』


『はい、大丈夫です、こちらレシートになります』


 新型ウイルス前まではそんな会話があって、決済後にはレシートを手渡ししてくれたて『ありがとうございましたぁ〜』とかわいい笑顔で送り出してくれていた。


 だけど……今は、数字の7が大きく描かれているコイントレイにレシートを乗せて『ありがとうございましたぁ〜』と言ってくれるだけ。コンビニの方針で接触感染しないための対策だと想像できるけど……なんか、イヤだな……


 マスクで笑顔がわかりにくいし、トレイに乗せたレシートを取るときはなんかモヤモヤした気分になる。


 そんな事をお姉ちゃんと久しぶりに家に帰ってきたお兄ちゃんに話したらふたりは笑いながらこう言ってきた。


『それはさみしいって言うんだよ』とお兄ちゃんが。

『それか、その店員さんのことを好意的に思ってるんだね。あんたは』とお姉ちゃん。


 ふたりは『収束したら元にもどるよ』と、言ってくれたけど、たぶんこのウイルスが収束しても元にはもどらない。戻るとしたら数年後だろうとわたしは思っていた。



 ◆



「じゃあ、明日ね」

「うん、明日」


 友達とバイバイした夕方の下校時。


 いつも通りにセブンに来てみると聞き慣れない『決済方法を選んでください』と機械音声が聞こえきた。


 なんだろうと思い、音声のなった方をチラッと見た。レジが新しくなっていた。


(新しいレジ……?)


 胸中でそう思い、棚からペットボトルのカフェラテとシルバーサンダープリティを手に取りレジへ向かう。


「いらっしゃいませぇ〜、レジ袋はご利用ですかぁ?」

「いらないです」


 いつも通りの店員さんの笑顔でいつもの対応。


「205円になります」

「coconaで、お願いします」

「あ、申し訳ございません。レジが新しくなりましてぁ……」


 そうして、新しいレジの決済方法を店員さんに教わった。


 新しいレジは『店員さんが商品をスキャンしたら、お客自身が支払方法を選択してお客自身で支払う』そういった方法だった。


 以前のように、『316円になります』や『coconaですね。少々お待ちください』といった軽い会話は無くなった。


「次回からこのように支払いをお願いしまぁす」

「あ……はい、わかりました」


 わたしはひとつ頷いて、レジから吐き出されたレシートを引っこ抜いて店を出た。



 ◆



「さみしいかぁ……」


 帰り道、手に取ったレシート見る。


 お兄ちゃんが行った『さみしいんだよ』と言う言葉が頭の中でリフレインされる。


「イヤだな……」

 吐き出されるレシートを抜く瞬間を思い出す。


 あの何ともいえない悲しい感じ。目の前に店員さんがいるのに渡してくれない焦燥感。


 レシートを見つめながら、感じる空虚感。以前のように手渡しのされる暖かさを感じることはもうないのだろうと思うと、胸に穴があいたような喪失感が沸いてくる。


「これなら……マーソンやファミマのレジの方がまだいいな……ミーカドーのようにレジを分ければいいのに。同じ系列のお店なんだから」


 このふたつのコンビニレジは商品スキャンからお会計まで自分で行うレジがある。

 セブンと決定的に違うのは店員さんが入るスキのない、本当にひとりで行うひとりレジ。それとミーカドーは商品スキャンとお金を払うレジが別々に分けられている。


 まぁ、コンビニは狭いからミーカドーのようにはいかないかもだけど……


 だったらセブンもマーソンやファミマのような完全ひとりレジを入れればいいのに……と思ってしまう。


 大勢での行動が嫌いで人見知りで。隣の席に座ると緊張が全身を覆うわたし。

 ひとりでの行動が好きで、新しい生活様式にうれしさを感じてしまっているわたし。


 そんなわたしが……レシートを渡してくれないだけでさみしいと思ってしまう。

 あの店員さんに温もりを求めてしまうわたしは……わがままなのだろうか?


 それとも……わたしの知らない別の感情なんだろうか?


「あ〜あ。早く、元に戻らないかな……」


 すこしずれたマスクをかけ直す。


 戻ることのない新型ウイルス以前の生活に思いを馳せて、レシートをスカートのポケットにつっこんだ。




 生きづらく、生きやすいこの世界で 完



 ◆



 おまけ:ワールドエンドイグジットホーム


「では、これで講義を終了します」


 曇った教授の言葉でみんな一斉に退室していく。


「……今の講義……ノートに必要な所まとめておこうかな」


 おもむろにノートを取りだして開く。


「あ」


 そしてわたしは気づく。退室していないことを


「危ない危ない」


 パソコンに表示してある退室ボタンをクリックする。


 オンライン講義。


 大学生のわたしが講義を行っているのはモニターの向こうにいる教授。

 モニターに表示されている内容を拡大、縮小しながら講義内容をノートにまとめている。


 新型ウイルスによる弊害でわたしは大学のキャンパスに行くことができなくなった。入学を早々、一度も大学には行っていない。すべてオンライン講義で進めている。


 朝ずっと、モニターを見ながらの講義。講義。講義。

 入試で行っただけの大学で大学に行かない講義だけが進められている。


「つまらない……」


 誰もいない部屋でひとり、つぶやく。


 一人暮らしの兄と父は会社、母は買い物、妹は学校。

 この一軒家にはわたしだけしかいない。決して広くない家だけどいるのはわたしだけ。


 そんな広くない家だけど……わたしひとりだけだと広く感じてしまう。


 入学前に始めたファミレスのバイトも、新型ウイルスのせいで時短営業になり、夜シフトがなくなってしまった。


「学校にも仕事にも行ってないんじゃニートと同じじゃん。」


 そんなことを1年近くもつぶやいる。


「ダメだ、ダメ! よしコンビニに行くぞ!」

 暗くなる気分を払拭するためにと気分転換をかねて近所コンビニのマーソンに出かける。


「あ、そうだ」


 ふと、妹が話してくれたことを思い出した。

 妹はセブンがレジ対応が『さみしい』と言っていた事を思い出す。あ、レジが新しくなったって言ってたっけ。


「セブンか……行ってみるか」

 マーソンではなく、少し遠いセブンに行ってみることにした。


 その前に次に出席する講義の開始時間を確認する。


「午後からか……」


 13時30分からの講義なので約1時間30分くらい時間がある。


 時間があるのでセブンに行くことにした。セブンは少し遠いので服もお出かけように服に着替えて行くことにして支度を始めたのだった。


 セブンに行くのは何ヶ月ぶりだろう。ずっと家にいて、コンビニ出かけるときもマーソンしか行ってなかった。





「意外と……ひと出歩いてるんだな」


 何ヶ月ぶりにきた駅前。そこには新型ウイルス前と比べると少ないけどそれでも、かなりの数のひとがいた。


 駅前のチェーン店の牛丼店や、立ち食いそば屋にはそれなりのひとが居てアクリル版を挟んでそれぞれが食事をとっている。

 衝撃だったのはマムトナルド。チラッと見ただけだけど行列ができている。


 店外のポスターには大きく『モノノフマック新発売』と掲げれていた。


「これか……コマーシャルの新商品」


 この新商品を求めていたのかわからないけど、マックは大盛況だった。


 そして、目的のコンビニ『セブンエイト』


 店内に入るとやっぱりあったアルコール消毒液。1回プッシュして手になじませてから店内を歩く。


「あ、これおいしそう」


 見つけた新商品のお菓子。キャラメルクッキークリーム入りを唄うビスケットサンドを手に取り、さらに棚を物色。


 兄が好きな『チョコルミエール』と『ボノボル』

 妹が好きな『たけのこの集落』と『シルバーサンダープリティ』


 それらがあったのでついでにこれも手に取る。


 途中、カゴを持ってきてさらに棚を物色。


 母と父にはこの前食べていた、和スイーツをカゴに入れる。名前は知らないけどこんな感じのスイーツだったはず。


 さらに自分の昼食にサンドイッチとスープにサラダ。それとヨーグルトをカゴに入れてレジに向かった。


「いらっしゃいませ」

 40〜50代くらいの感じのいい女性店員さんに迎えられてカゴをレジに置くとすぐさま『レジ袋はどうされますか?』と投げかけてきた。


 ここまでは今までと変わらない。


「1枚ください」

「かしこまりました」


 わたしの返事を聞いて店員さんがカゴの商品のバーコードをスキャナーで読みとり始める。


「お待たせいたしました。レジ代金込みでお会計1348円となります」

「えっと……sumicaでお願いします」

「あ、申し訳ございません。先日レジが新しくなりまして……」


 そういって感じのいい店員さんは丁寧にレジの使用方法を教えてくれた。


 妹の言ってた通りのレジだった。


「ありがとうございました」


 レジ袋をもってセブンを出る。そして新しいレジを思い返してみる。


 妹はレジの対応がさみしいと言った。ただ、わたしは『さみしい』とは感じなかった。


 さみしいとは感じずちょっとイラついた。

 理由はわかっている。


 『目の前に店員がいるならおつりとかレシートぐらいは渡してくれ』だ。


 マーソンのセルフレジならわかる。それは痛いほどわかる。だってひとりレジだもん。でもセブンのレジはなんかイヤだ。イラつく!


 とにかく中途半端! あのレジにするならセルフレジを導入すればいいのに。

 と、思ってもきっとセブンの考えがあるんだろうと思うんだけど……正直意味がわからない。


 家に着くまでとにかく中途半端という印象と感想が全面に出るレジだった。


「ただいまぁ〜」


 誰も返事を返してこない。

 どうやらお母さんはまだ帰ってきていないらしい。


「はぁ……わたしひとりかぁ……」


 スマホの画面を見る。


 あと50分でくらいで講義が始まる時間だ。


 買ってきたサンドイッチとサラダ、スープをリビングのテーブルに広げる。


 電気ポットのお湯が沸き、カップスープにお湯を注ぎスプーンでかき混ぜる。

 しばらく待ってスープを口に含み飲み込む。


 サンドイッチ開封してサラダのフタも取る。


 「……」


 本当だったら……大学で友達とお昼ご飯を食べている時間なのに……わたしはひとりだ……


「さみしい……」


 この1年。誰とも会わずに誰とも食事をとっていない。大学すら行っていない。


「なんで……」

 何度も出た疑問。そしてたどり着く回答は『新型ウィルス』せいとたどり着く。


 どうしようもない。本当にどうしようもない回答。考えても考えてもどうしようもない事にたどりつく。たどりついてしまう。


「なんで……」

 あ、どうしよう……泣けて来ちゃった。がんばって勉強して……大学に入ったのに……


「あ……」

「えっ……!」


 リビングにいきなり兄が現れた。なんで……新たな疑問が頭を覆っていく。


「なんで……どうして」

「あ〜その、なんだその仕事で近くにきたもんだから……ちょっと休もうとしたんだけど……その、大丈夫か?」

「えっ……?」

「その、泣いてるからさ」

「あ、ごめん、これは違うの!」


 急いで涙を服の裾でふき取るったが、兄は『何かあった?』と心配そうにしゃべりかけてくる。


「あ……」

「オンライン授業で無視でもされたか?」

「そんなこと……」


 まったくもう……どうしてこんな時にやさしくするのやさしくされたら……


「お兄ちゃん……」

「ん?」

「……」

「どした?」


「お兄ちゃん!」

 わたしの中の何かがはじけて、お兄ちゃんの胸に飛び込む。


 飛び込んでわたしはお兄ちゃんの胸で泣きじゃくってしまう。


「どうしてわたしは学校に行けないの!? どうしてお兄ちゃんやお父さんは会社にいけるの! 姫はどうして高校に行ってるの! わたしだけどうして!? 同じ学生なのに!」


 流れ出る涙を拭かずにお兄ちゃんに抱きついては、懇願するように思いのたけをぶつけた。


 涙がお兄ちゃんの作業着に着いちゃったけどお兄ちゃんは優しく抱き留めてくれて……


「ごめんな……」


 と、言ってくれた。


「ごめんじゃないよ!」

「すまん。俺は電気工事士で電気を通す事が仕事だし、父さんは営業職でどうしても外に行かないといけない。それに姫乃は高校生だし対面での授業……と言うより社会経験を積むことが大事だと思う。これから生きていく上で」

「でも……でも……!」

「理不尽なことが多いよな」

「お兄ちゃん……」

「お前が『お兄ちゃん』って呼ぶのは久しぶりだな」

「ううっ……」

「さみしかったんだな」


「うん……」


 さみしい……そうだよ。わたしはさみしんだよ。誰とも会えずに


「友達には会ってないのか?」

「大学にも行けてないから友達できてない……」

「高校の時の友達は」

「会ってない。コネクトでメッセージのやりとりぐらい」

「リモートで飲み会とかは?」

「わたし……お酒飲めないもん」

「母さんと一緒に買い物とかは行ってるか?」

「買い物だけだし……なんかつまんない」

「ひどい言い方だなぁ」

「だってぇ……」

「まぁ……八方塞がりだな」

「もう……ちゃんとわたしの悩み聞いてよ!」

「ごめんごめん。なら……」


 そういってお兄ちゃんはひとつ提案をしてくれた。それは『山登り』だった。


「山登り? なんで?」

「いい気分転換になるぞ」

 そういってお兄ちゃんはスマホいじりだした。


「千葉の(のこぎり)山なんてどうだ。ここからは遠いけど日帰りでいけるし山頂の景色は抜群にいいぞ!」

 嬉しそうにスマホの画面を見せてくる。

 画面にはとても綺麗な景色が映っている。


「いや……わたしは行くなんて」

「いいや、だめだ! お前には強力な気分転換が必要だ!」

「じゃあ、別に山登りじゃなくても……街をブラブラでも」

「運動不足の解消も兼ねて山登り!」

 あれ、お兄ちゃんってこんなに山に情熱的だったっけ?


「今度の日曜日、俺休みだから行くぞ」

「はやっ!」

「運転はオレがするし、必要な道具はオレがすべて用意する! レンタルだけどな!」

「なんで上からなの!? レンタルは余計なひとことだけどね!」

「よろしい! ならお前たちはマスクだけ用意してろ!」

「マスクッ! って……お前たちって?」

「姫乃も誘うぞ。あいつもこの前『さみしい』って言ってたからな」

「はぁ!? もう、勝手にしてよ!」

 自分勝手なお兄ちゃんに振り回されてどうやら登山をするハメになるかもしれない。


「……」

「なに?」

「元気出たな。よかった」

「あっ……」


 さみしいって思いも、かなしいって思いも無くなってた。あんなに出てた涙も知らないうちに止まっていた。


「よし、決まりだ。楽しみだなぁ〜〜登山! あ〜どうしよう! 楽しみすぎて眠れないかも! なぁ俺、眠れないかも!」

「知らないよ! そんな事」


 お兄ちゃんってやっぱりすごいなぁ……


 わたしのモヤモヤした気持ちも全部吹っ飛んじゃった。


 いつも助けられてる。救われてる。子供の時だって……高校生の時だって……今だってそうだ。


「ほんと……すごいなぁ……」

「ん? 何か言った?」

「ううん、なんにも」

「そっか。じゃあ、日曜日な」

「えっ、もう行くの?」

 冷蔵庫からおもむろにペットボトルのお茶を出して、お父さんのガラスコップに注ぎすぐに飲み干す。


「俺は忙しいの。あ、コップあとで洗っておいて」

「うん、わかった気をつけてね」

「あんま考えすぎるなよ? きっと大学にも行けるし友達もできから」

「うん、ありがと」

「じゃあな」

「うん。あ! 待って!」


 わたしは思い出してコンビニ袋からお菓子を取り出して兄に渡す。


「チョコルミとボノボルじゃん? いいのか?」

「うん、兄さんこのお菓子好きでしょ?」

「わりぃな。じゃあ、もらっていくな」

「うん、遠慮しないで持ってって」

「じゃ日曜日な」

「うん、日曜日に」


 兄は手を挙げて、リビングを出ていった。


 外からバタンと閉まる音がして車のエンジンが聞こえる。


 そして、わたしはまたひとり。目の前に残ったお昼ご飯を食べる


「せっかく帰ってきたんなら、ごはんくらい食べていけばいいのに」


 居なくなった兄の事を考えて食事をとる。


「山登りか……姫にも言わないとな」

 姫乃はどんな顔をするだろう? きっとびっくりしてぽか〜んとした顔になるんだろうな。


「あ〜あ、早く日曜日にならないかなぁ〜」


 イヤだと思っていた山登りだけど今はすごく楽しみな気持ちになっている。


 おまけ:ワールドエンドイグジットホーム 完

こんばんは、間宮冬弥です。

まずは、この稚拙な作品を最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


今回は新型のあのウイルスと新しい生活様式を扱ったお話でした。

二年、二年経ってやっと落ち着いてきました。

だんだんと日常を取り戻しつつありますが、油断はできません。


話は変わりますが、次回作のことです。次回作は一応書いています。

ただいつものことですが執筆が遅いのでいつ完成するかわかりません。

気長に待っていてくれるとありがたいです。


では、短いですがこれで失礼します。

最後に。マスク、手洗いなどの基本的な対策をしっかりとしていきましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしい作品ですね! ☆5個つけさせて頂きました。 これからも頑張って下さい! 応援してます。
2021/11/12 22:47 退会済み
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