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童話

瓶詰め妖精と女の子

作者: 青い時計


 あるところに、瓶詰め妖精とララという名の女の子が住んでいました。


 瓶詰め妖精はララのお母さんのお母さんのお母さんのお母さんの、ずっとずっとお母さんの頃から一緒に暮らしています。


 瓶詰めなんて変なあだ名ですが、瓶詰め妖精は透明な瓶が好きでいつも瓶の中で眠っていたので、なるほど確かに瓶詰め妖精だと村のみんなも納得していました。


 とても優しい妖精で、傷や痛みを治してくれるのです。雑貨屋のおばさんは、逆子だった息子が無事に産まれたのは瓶詰め妖精のおかげだといつもご機嫌に話してくれます。




 ある日、ララが森で木の実を探していると大人のうめき声が聞こえました。

 藪をかき分け近づくと、森に入るには不釣り合いなヒラヒラした衣装を着た男が倒れていました。


「痛いっ! 腹が痛くてたまらん! なぜ足が動かんのだ!!」


 毒痺れの実を食べたのだとララはすぐに気づきました。


 森に生える毒痺れの実は小さくてとても美味しそうなのですが、口に入れると酷い腹痛の後、足が動かなくなります。そして体全体が動かなくなり、大人でも死んでしまうのです。


 ララは男に駆け寄ると瓶の蓋を開けて瓶詰め妖精に願いました。


「お願い瓶詰め妖精さん。このおじさんを治してあげてっ」


 瓶詰め妖精はララをちらっと見ると、男に向き直り、梢の葉擦れにも似た歌のような音を歌いだしました。


「うわっ!」


 体が淡い光に包まれると、男は驚いて逃げだそうとして立ち上がりました。

 そして、立ち上がれた自分の足を見て目を丸くしています。


「よかった。おじさんすっかり治ったみたいね。森の出口はすぐそこだから気を付けてね」

「そ、それは妖精なのか?」


 驚いた男は逃げ腰のまま言いました。


「そうよ。瓶詰め妖精よ」


 ララは得意げに答えました。


 男は困惑したまま、どこに住んでいるのか、妖精には何ができるのか、瓶に住んでいるのかなどを聞くと、そそくさと去っていきました。




 夕方になり、家族みんなでララが摘んできた木の実のシチューを食べていると、扉が乱暴に開かれる音がしました。

 屈強な男達は、家に押し入るとララもお父さんもお母さんも縄で縛りあげていきます。


「何をなさるんですか!」


 お父さんが抗議するとヒラヒラした衣装を着た男が鞭を振るいました。


「うるさい! 妖精はすべて王様に献上すると決まっておるのだ! この非国民め!!」


 バシバシと鞭を打つ男は、ララが昼間助けたおじさんでした。


「ありました!!」


 家の中を勝手に探していた男達の1人が、瓶詰め妖精の瓶を手に掲げています。妖精は眠っているようで、瓶の中で丸くなっています。


「でかした!」


 ヒラヒラした衣装を着た男は瓶の蓋をぎゅっと閉めると、椅子やテーブルを蹴り倒しながら家の入り口に向かいます。

 男達がぞろぞろと出て行った後には、床に転がされて呆然としているララ達家族だけが残りました。




*****




「ほう! これが妖精か!」

「左様でございます王様!」


 頭に豪華な金の冠を乗せた男が、ララの妖精を珍しそうに眺めています。


「よくやった! そなたを大臣にしてやろう!!」

「ありがたき幸せっ!」


 ララの家に押し入った男は、この国の大臣になりました。何百人目かは分かりませんが。


「この妖精に相応しい檻を作れ!! 宝石をふんだんに使うのだ!」


 王様の言葉に大臣達が我先にと召使に指示を下しています。宝石の檻はいったい何百個できあがるのでしょうか。


 妖精は丸まったまま、こっそり開けていた片目を閉じました。




 翌朝、王様は城の兵隊を全員連れてララの村に馬車を急がせました。

 瓶の蓋をしっかり閉めて大事に閉じ込めていたはずの妖精が消えてしまったのです。


「王様。その畑の先でございます」


 顔を腫らした男が震えながら言いました。

 よく見るとララの家に押し入ったヒラヒラした服を着ていた男です。


「うむ! 皆の者! 一人も逃がすな!!」


 王様の命令で兵隊達は鬨の声をあげながらララの家に押し入ります。


 ですが、家の中は空っぽでした。


「王様! こちらの家にも誰もいません!!」


 ララの家に入りきらなかった兵隊が、他の家にも押し入りましたが村はもぬけの殻でした。


「どういうことだ! 家畜一匹おらぬではないか!!」



 王様が村で兵隊達に怒鳴り散らしている頃、お城は、突然攻めてきた大湖の先の国に占領されていました。

 お城を守る兵隊が一人もいないので、あっという間に占拠されてしまったのです。


 そうとは知らず怒鳴りながら帰城した王様は、お城の門をぐぐったところで、すぐさま地下牢に連行されました。

 先に捕縛されていた沢山の大臣と共に、暴政の罰を長く長く受けることとなります。




*****




 さて、悪い王様が捕まる迄に何があったのか少しお話しておきますね。


 瓶詰妖精は、王様が大きなベッドで眠りこけるとすぐさまララの元に跳んで帰りました。

 そして、ララ達を心配して集まっていた村人全員を淡い光で包んで別の場所に移動させたのです。


 森の中の村から突然建物の広い部屋に入ってしまっていた村人達はびっくりして声もでません。

 目を丸くしている皆の周囲で、犬のバウや山羊のブーモー達が走り回っています。

 瓶詰妖精の仕業だとは分かるのですが、人を移動させることができるなんてララもララのお母さんも少しも知りませんでした。


 しばらくすると四方八方の壁を通り抜けて妖精が現れました。どの妖精もララの瓶詰妖精に挨拶のようなことをしています。

 あまり見たことがない服装の人間も扉から入ってきました。


 ララの瓶詰妖精を見たその人は、広間の惨状に苦笑しながら「ここは大湖の中にある島国で、フィラレスクという名だ」と教えてくれました。

 誰もが妖精と供に暮らしているという伝説の国です。

 ララのお母さんのお母さんのお母さんのお母さんの、ずっとずっとお母さんが、かつて暮らしていた国でもありました。


 フィラレスク国の人達は、ララ達の境遇や妖精の扱いを聞いてとても怒ってくれました。

 そしてフィラレスク中の妖精達と力を合わせてあっという間にララの国のお城を没収してしまったのです。




 そこからは御存じの通り、悪い王様も悪い大臣達も捕まって縄目の恥を受けています。


 ララ達と瓶詰妖精は無事に元の村に帰り、今まで通り幸せに暮らしています。




 そうそう、悪い王様ですが、「儂はたしかに蓋をしっかり閉めたんだ」とずっとずっとぶつぶつ言っているそうです。


 妖精が物を通り抜けられないなんて、そんな馬鹿なことがあるはずもないのにね。





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