陽子と両親
陽子の父親である源一は、陽子が生まれた頃はまだサラリーマンだった。陽子が生まれて一年後に脱サラをして自営業に転身した。母親の房子は商売はやりたくないと思っていたが、頑固者の源一には逆らえずしぶしぶ自分も手伝うことになった。
しかし、まだ乳飲み子の陽子を面倒見ながらの仕事は過酷だった為、源一側の実家に陽子を一時預けての生活になった。けれども子供は長い時間一緒にいる大人になつくもので、陽子の両親が訪ねてくると物陰に隠れるようになった。
実の親になつかなくなるのはまずいと思った祖父母は、強制的に陽子を房子と源一の元へ返したのだ。
それでもなかなかなつかない陽子を自分達に慣らせようと、仕事が休の度に陽子を連れて親子で出かけるようになった。自営業を初めてまだ二、三年の二人には、毎週遊びに出掛ける程の余裕はなかった。しかし、娘との絆を取り戻す為に必死だったのだ。そんな両親のおかげで陽子はすっかり房子と源一の娘に戻っていた。ただ、頑固で厳しい源一に対しては陽子は完全になつくまでには至らなかった。源一が大きい声を出せば母親の房子の後ろに隠れたりするのだった。