7話 プリュネにて 1
さて、町はもうだいぶ暗くなってきていて、冒険者ギルドには明日行く事にする。
まずは今日泊まるところを決めなければならない。といっても、あまり持ち合わせがないので安い宿を探す。
門から入って少し行った辺りに、宿屋や冒険者向けの装備屋がある。
私たちは外見からなるべく安そうな宿を探して、宿屋がある一帯を端から端まで歩いてみた。そして同じような感じの外見の中で、一番清潔そうな宿屋に決めて中に入った。
中に入ると、広い食堂のようになっていた。奥のカウンターに女の子が一人。その奥は、たぶん造り的に厨房と思われる。
「とりあえず一晩泊まりたいんだけど」
ジェイがカウンターの女の子に話しかけた。
女の子はジェイと、私を見てちょっと驚いたようだったけど、
「素泊まりならいいわよ。料理の担当がケガをしちゃって食事はだせないの」
お客商売のプロっぽく、私の容姿に触れる事なく明るい声で言った。
「それでかまわないけど……。パンか何か、料理でなくていいけど食べるものがあるとありがたい。腹ペコなんだ」
「パンだけでいいなら。じゃあ、素泊まり料金二人分で銀貨四枚ね。パンは一つ銅貨一枚でいいわ」
ジェイは銀貨を四枚わたす。もちろん部屋は別々。星空ホテルでは広い意味で同室だったけど、やっぱり一応ね!
銅貨は食べた後のパンの個数で払う事になった。
後から知っていった事だけど、金貨一枚は日本円で一万円くらい。銀貨一枚は千円くらい。銅貨一枚は百円くらい。
わかりやすくていい。元の世界と同じ十進法だったしね!
素泊まり一泊二千円て、安いんじゃないかな?
朝食がつくと銀貨三枚。夕食はついてない。食堂は夜にはお酒も出すお店になるんだって。夕食はそこで食べてもいいし他で食べてもいい別料金のシステム。泊まり客じゃないお客さんも来るしね。
でも今夜は料理担当のケガでお店はお休み。
今夜というか、何日かはお休みになりそうだって。
ちなみにそのケガ人は彼女のお父さんで、この宿屋のご主人。今はおとなしく寝てるらしい。
いったん部屋に荷物を置きにいってから、中庭の井戸で手と顔を洗ってサッパリすると、夕食をいただこうと食堂の席に着いた。
宿屋の娘さん、エマちゃんがカゴにパンを入れて持ってきてくれる。
「私も一緒に食べていい? 一人で食べてもつまらないし」
歳が近いせいか、チェックインの時に少し話をしただけで親しくなった。お客商売と、彼女の人懐こい性格もあると思う。
エマちゃん、歳は少し上で十七歳。明るい茶髪と明るい茶色の目の可愛いらしいお姉さんだ。
テーブルの上には、カゴに入ったパンと、水。それだけ。
「エマちゃんは料理はしないの?」
「私は料理の才能がないのよ。亡くなった母さんもそうだったから遺伝ね!」
アハハと笑う。
「父さんの料理も、美味くもなく不味くもなくってところだから、その分安いのがうちの売りなのよ」
それがダメならこれがあるじゃない♪ みたいな超ポジティブな発想。
いいわ〜、エマちゃん。私好きだわ〜。
「ジェイは冒険者なんでしょ?もうギルドには行った?」
「まだ。さっき町についたばかりなんだ。明日行こうと思ってる」
それから、この町には何をしにきたのかとか、どのくらい滞在するのかとか、当たり障りのない話をしながら、パンと水だけの夕食は終わった。
そういえばと、私はエマちゃんに尋ねる。
「エマちゃん、お父さんの夕ご飯は?私たちだけ先に食べちゃったけど」
「これからこれから。どうせパンだけだから。持っていくだけだし」
「ケガはだいぶ悪いの?もしよかったら食べやすいもの……スープか何か作ろうか?」
「え!ユアは料理ができるの?」
「簡単なものなら少しね。うちではよく作っていたし、料理が好きなの」
それならぜひ!と、厨房に案内された。
連れて行かれた厨房は使い勝手がよさそうに色んなものがキチンと整理されていた。ご主人、ブレイディさんの性格がよくわかるね。
「食材を見ていい?」
「もちろん!見なくちゃわからないでしょ?」
物色すると、色んな野菜やベーコンみたいなものがあった。
よし、玉ねぎとベーコンのパン粥にしてみよう。お粥といっても、お米のお粥みたいなものじゃなくて、オニオングラタンスープみたいな感じ。
聞くとブレイディさんはギックリ腰なんだって。
「うちに泊まっている若い冒険者がいてね。若い子だから威勢だけはよくて、今朝もケンカを始めてさ。父さんが二人を外にぶん投げたんだけど、その時にギクリとやっちゃったって訳」
ケガとか病気じゃないから病人食じゃなくてもいいと思うけど、固いものを噛むとけっこう腰に響くって、前におばあちゃんが言っていた。
玉ねぎとベーコンでスープを作る。玉ねぎがやわらかくなってきたらパンを入れて、パンがしみしみになったら、薄切りにしたチーズでフタをする。とろ〜りチーズのなんちゃってオニオングラタンスープの出来上がり〜♪
私は本職のコックさんじゃないし、家庭で簡単にできる、なんちゃって専門なのだ。
「できたよ〜! お父さんに持って行ってあげて!」
「いや〜、その前に私が食べたい!すっごくいい匂いだし美味しそう!」
「俺も食べたい!」
うちら、さっき食べたばかりじゃん……。
「こんないい匂いかいだら食べられる!てか食べたい!!」
「俺、また腹が減ってきた!!」
おぃ!!
「スープはたくさん作ったから、とりあえずエマちゃんはお父さんに持って行ってあげてよ。その間に二人分作っておくから」
「わかった!」
エマちゃんは急いでスープを持って行く。
ジェイにはチーズを薄くスライスしてもらって、私はしずめたパンの様子を見ながらお皿の用意。
ちょうどお皿によそったところにエマちゃんが戻ってきた。三人でさっきのテーブルにもどる。
「はい、二人ともどうぞ」
「何これ、美味しい!こんな美味しいスープ初めて食べた!」
いやいや、それはオーバーでしょ。
「ユアの料理は何でも美味いんだぜ!」
何でもというほどは作ってないじゃないか……。
熱々なのにすごい勢いで食べていく。
言葉もだけど、この食べっぷり。素直に嬉しい。
それから二人はお代わりをして、やっとスプーンを置いた。
エマちゃんは満足のため息をつくと、
「ユア、仕事を探してるって言ったよね?とりあえず父さんが動けるようになるまでうちで料理を作ってくれない?朝だけでも助かるわ」
あらら。短期だけど採用が決まった。