6話 レオント村 4
大忙しの準備をして、あっという間に当日になった。
「まかせとけ!」と言ったジェイは、その言葉の通り大猟だった。
一緒に狩りに行った村の人たちと、鳥やらウサギやら、本当にもうたくさん!
私があんまり褒めるから、ジェイはすっかり照れてしまった。
照れるイケメンくん……。なかなか可愛い。
それから、獲物の量が多かったので、村のおかみさん達が解体作業の手伝いに来てくれて、私は奥さまプラス大勢の先生にさばき方を教わる事になった。
なんかもう……。
かなりグロくて、倒れそうになったよ。
これからこの世界で生きていくためと思って必死に教わったけど。涙目で。
パックで売っている切り身って、ありがたかったのね……。
そんな思いをして作った、鳥肉たっぷりのトマトシチュー♪根菜もゴロゴロ入っているので、これ一杯でもお腹いっぱいになりそうだけど、せっかくだもんね、今回の豊作の主役、じゃが芋を別料理でもう一品食べてもらおう♪
じゃが芋といったら、じゃがバターでしょ!村のおかみさん達と大量に作ったバターを熱々のじゃが芋の上にのせる。
これが美味しくない訳ないってね!
「うまっ! こんな美味いもの初めて食べたよ!」
「美味しい〜! じゃが芋をこんな風に食べたの初めて!」
「ありがとう! これからまたがんばれるよ!」
よかった。口々に褒められて、涙目作業も報われる。
「ユアの料理はホント美味いもんな!」
隣で一緒に給仕をしているジェイも自分の事のように嬉しそう。やだなぁ、照れるじゃないか。
私は照れ隠しに、隣で嬉しそうに周りを見ている村長さんに声をかけた。
「このシチューに大量に入っているトマトは、ビタミンCという栄養がたっぷりなんですよ。トマトと相性のいいバジルは食欲不振や強壮効果があって、村長さんがおっしゃっていた、皆さんのお疲れに合っていると思って作りました。その他の野菜ももちろん色々な栄養があります」
「美味しいだけじゃなくて、身体にいい料理だったのですか!」
「はい。ジェイたちがとってきてくれた鳥肉も、特にタンパク質という栄養価が高いんです」
ビタミンとかタンパク質とか、言ってもわからないと思うけど。
効能も、確かそんなだったような〜という感じだけど、身体にいい事が伝わればいいか。
話しながらも手は止めず、並んでいる人たちにシチューを配る。
「ユアはなんでそんなに食べ物に詳しいんだ?」
シチューをよそりながらジェイに聞かれる。
「うちで半分料理担当だったって言ったでしょ? 下に二人、育ち盛りの弟がいるから栄養のあるものとか調べたの。よく使う食材しか覚えてないけどね」
「なるほど、そうだったのですね」
村長さんも感心したように頷く。
やだなぁ、だから照れるって。
それから、ハーブ湯をお試しした人からも、
「いい匂いのお湯が気持ちよかったわ〜」
「何だか少し疲れがとれたような気がするよ」
「あの草にこんな使い方があるなんて知らなかったよ」
なんて声をかけられる。
「ハーブ湯で疲れをとって、美味しいものをたくさん食べて、今夜はたっぷり眠ってくださいね〜!」
そんな感じで、村中のパンが焼き終わるまで、ちょっとしたお祭り騒ぎは続いたのでした。
次の日、昨日私達の分に焼いてもらったパンと少しの食料、少しだけお金ももらってレオント村を出発した。
私がこの世界に来て初めて訪れた村。
村長さんをはじめ、村の人たちみんないい人だった。きっと村長さんの人柄だろう。トップがいいと下もよくなるっていうもんね。
次の村までは歩いて一日半から……、私がいるから、もしかして二日くらいかかってしまうかもしれない。
この世界の人たちの移動手段は徒歩が多いから、必然的に早く遠くまで歩く力がついている。
中学三年間運動部でした!なんてくらいでは話にならないのだ。
受験勉強のせいで身体はなまっちゃってるしね。
最初ジェイは、私をレオント村まで連れていって、そこで冒険者ギルドに任せようと思ってたんだって。でもレオント村にはギルドはないし、村自体もあまり裕福ではなくて……。
剣も魔法も使えない、生活力も子供並みの私では村のお荷物になると、一番近い町まで連れていってくれる事になったのだった。
町なら小さくても冒険者ギルドはあるだろうし、そこで何か私でもできる仕事を紹介してもらえば生活していける。
冒険者登録をしたからって、何も魔獣退治だけをする訳じゃない。大きな家のメイドとか、大きな商店の売り子とか、そんな仕事を斡旋してくれてるんだって。
という訳で、私たちはカメッリア領の第二都市プリュネに向かっている。
道中は楽しかった。
他にやる事がないので、レオント村に向かう時と同じように、私たちはたくさんおしゃべりしながら歩いた。お互いの世界の常識や生活習慣を話していると、あっという間に時間は過ぎる。
考え方や感じ方なんかも、近かったり全く違ったりとても面白い。お互い納得したり感心したり。
理解できない事もあったけど、それは私が慣れればいい。ここで暮らしていくのは私なんだから。
満天の星空の下での野宿も全く慣れないけど、めったにできない貴重な体験だと思えばいい。
寝るのは大丈夫。昼間の疲れですぐに寝入っちゃうから。朝、起きてからが辛かった。身体中すごく痛くなるんだよね。冷えるしさ。
そうして二日目もひたすら歩き、なんとか夕方には次の村に着いた。
この村でも村長さんのご好意でお宅に泊めてもらえる事になった。
この村の村長さんも、黒い髪に黒い目の転移者の事は知っていたようで、何かありえないものを見ているような顔をされたのには苦笑いだったけど。
従者と思われたのにはジェイも苦笑い。でもそれでベッドで眠れるならと、その通りに行動してたのはちゃっかりしてる。
急ぐ旅ではなかったけど、目指す町が近いので何だか気が急いる。ワクワク感というか。なので次の日の朝、お礼を言って早々に出発する。レオント村の食料もまだあるしね。
明るくなってから村を見回すと、レオント村より少し大きいかな。
ジェイ曰く、たいてい町に近い村の方が人口が多いんだって。町から離れるにつれて規模もだんだん小さくなっていくらしい。
そして、もう一晩星空ホテルに宿泊して、レオント村を出て四日目の夕方、とうとうプリュネに到着した。もう壁門が閉まりかけていて、私たちは大急ぎで走り寄った。もう一晩星空ホテルは辛い!
「身分証明書か身元のわかるものを出して!」
まだ若そうな門衛さんが不機嫌に言う。
すみません。もしかして残業になりましたか?
ジェイは冒険者カードを見せている。
冒険者カード!物語の中でよくあるヤツだ!本物を見るとテンションが上がる!
あ、だけど私……、学生証しか持ってない。
これで大丈夫かな?
「この子はこれからギルドに行って登録するから、身分証明はそれからでいい?」
ジェイがそう言うと、門衛さんはジェイの後ろにいる私を見た。そして驚いた。
「暗くてはっきり見えないけど、黒い髪に黒い目? 初めて見た!すっごい珍しいけど……人族かぃ?」
「人です!」
どうやら門衛さんには転移者の知識はないみたい。門衛さん、最初の不機嫌はすっ飛んだ様子の大興奮。
「ギルドに登録したら早めに申告に来るように。三日たっても未登録だと不法滞在になるからね」
何やら書きつけながら言った。興奮していてもちゃんと仕事はするんだな。
仮の滞在許可証をもらって手続き終了。
お礼を言って、私たちは町の中に入った。