2話 旅は道連れ
私たちは歩きながら話していた。
話をするにしても座ったままでは時間がもったいないからね。
ジェイが「どうせついでだから」と、一番近くの村まで連れて行ってくれる事になって、お言葉に甘える事にしたのだ。
甘えるとか甘えないとかの問題じゃないか。置いていかれたら私死んじゃうし……。
ジェイの問い。
何故こんな場所に一人でいたかというものに、私は正直に話す事にした。
こことは違う世界にいた事。
突然この世界に来てしまった事。
どうしてそうなったかはわからない事。
これからどうしていいかわからない事。
「だから見た事もない黒い髪に黒い目なんだ……。 子供の頃に聞いた事があるけど、稀にユアのように別の世界からやってくる人がいるって」
え!異世界ものでおなじみの転移者が、今までもいた記録があるんだ!
「で?その人たちはどうやってこの世界にきて、どうなったの?元の世界に戻れたの?」
「ごめん、その辺までは知らない。ただ、異世界人は特別な力をもっているって。 こうやって自分の目で見なかったら、お伽話と思って信じてなかったけど」
あら、残念。どうなったかはわからないんだ。
というか、
「特別な力か〜。 私そんなのもってないよ?剣も魔法も使えないし。ただの学生だもん……」
そういえばスマホで読んでた異世界ものは、最初から結構なヒーロー・ヒロインだったりした。
そうじゃなきゃ盛り上がらないっていうかね。
「いや、ユアはすごいよ!あんな美味い飯初めて食べたし!水だってあんなの初めて飲んだし!」
「ありがと♪」
褒められてちょっと照れる。
料理は好きだから、それを褒められたら素直に嬉しい。
それからジェイの事と、この世界の事を聞いた。
これからどうなるかわからないもんね。情報は大事。色々知っておきたい。
ジェイは、俺の知っている事だけだけど…… と話してくれた。
この国の名前はパエオーニアという王国。
ジェイはずっと南の方のウィオラという村から、国で二番目に大きな都市、リーリウムに向かうところだったんだって。
私を助けてくれた時は、南からやってきて坂を登りきったところで、襲われている私を見て驚いたって。
「私も驚いたよ!」
「いや、何もしないで突っ立っている事に驚いたんだよ」
とにかく、すごいタイミングに神様に感謝だ。
話は続く。
十五歳になってすぐに冒険者登録をして、一年たたずにワンランクアップ。お父さんが亡くなったのを機に、生まれ育った村を出たんだって。お母さんはそのずっと前に亡くなってるそう。
今はDランクの冒険者だけど、リーリウムでAランクまでなって、それから王都に行く人生設計らしい。
同じ年の十五歳。もう、今月の末には十六歳になるそうだけど。
「え!ユアも十五だったのか!もっと小さく見えたよ」
まぁね、百五十二センチと小柄だし。でもこれから怒涛の成長期の予定なんだよ〜!
だいたい東洋人は若く見られがちだっていうし!この世界に西洋と東洋があるかわからないけど!
十五歳ならジェイだって成長期じゃないか。いや、十六歳に近いのか。それにしても育っているなぁ。同級生の男子って、こんな感じだっけ?
私は隣を歩くジェイを横目で観察した。
頭一つ分高い……、という事は百七十センチ以上あるかも。スラリとしてるのにしっかり筋肉がついていて、冒険者って身体が鍛えられているというか、ひきしまるのかも。
茶色の髪に緑色の目をしていて、西洋人はイケメンが多い私のイメージだけど、ジェイもなかなかのイケメンくんだ。
命の恩人だから、五割増しくらい高評価になってるかもだけど。
自分を見ている私に気づいたジェイが、
「ユアはやっぱり、その目って周りが黒く見えてるのか?」
ぶっ! 何だそれ!
「そんな訳ないじゃん! じゃあジェイは緑色に見えるの?」
「あ!そうか! 今まで青く見えてるのかとか、茶色に見えてるのかとか思った事なかったのに、黒だけそう思うなんてバカだな」
でもそういうの、ちょっとわかるかも。
私たちは顔を見合わせて笑ってしまった。
「ユアの事も聞かせてよ」
と言うジェイに、私も私の事と、私の国の事を話した。
お父さんとお母さん、弟が二人いる事。少し離れてて、すぐ下の弟は十歳。その下の弟は七歳。
「最近、上の弟が生意気になってきて超可愛いの!」
「生意気なのに可愛いのか?」
「生意気になるのは成長期だから自然な事なんだよ」
「よくわからないな。生意気なら、俺なら殴る!」
お姉ちゃんとお兄ちゃんでは、下の子の扱いが違うらしい。
「下の弟は、まだまだお姉ちゃん大好きで、これまた可愛いの!」
「あぁ、それならわかる。俺も村でちっちゃいのを面倒見てたし」
「ちっちゃい子って可愛いよね〜!」
「可愛いだけじゃないけどな」
それから、私は学生だという事。
高校では野球部のマネージャーになった事。学校や部活やマネージャーの説明もして、お弁当とポットはそのために持っていた事。
お弁当の話題から、両親がフルタイムで働いているから、私が料理の半分を担当している事。朝ご飯とお弁当ね。
夕ご飯はお母さんが担当。料理は好きな事。家事も得意な事。
「両親が働いているのは当たり前だろ?」
「この国ではそうかもしれないけど、私の暮らしている国では、子供が小さいうちはお母さんは働いてないうちもあるの。働いてる人もいるけどね」
貴族でもないのに働かないでも食べていけるんだ、とジェイはちょっと驚いていた。
「ユアの国は豊かなんだな」
豊かなのかな〜……。
ジェイの声は、羨んでいるような哀しんでいるような、何ともいえない響きがあった。
それからお互い、疑問に思った事や聞いてわからない事なんかを話しながら、お日さまが西に傾く頃までひたすらひたすら歩いたのだった。
北へと向かっている私たち。
最初に北の方角を見た時は、道はずっと先の方で森に入っているように見えたけど、実際には森に沿うようにしてあった。
森の中は魔物がいて危険なんだって。魔物じゃなくても野生の肉食獣なんかも危険だしね。
この辺は比較的魔物は少ないらしくて……というか、そもそもそういう所に道は作られるんだって。
うん、納得。
たま〜にレベルの低い、私が襲われたようなのがいるくらいで、私は運が悪かったらしい。
どのくらい歩いたか、お日さまがずいぶん西に傾いてきた。
小川があったので水を汲んで、川から離れた所で野宿の準備をする。水を飲みにくる野獣がいて、川の近くは危ないからだって。
ちょっとした岩場を背に、焚き火を起こす。起こすといっても、私は見てるだけだけどね。
テレビで見た事がある、摩擦で火を起こすのかと思ったら、魔石といわれる魔法のかかった?小さい石を取り出して、それで何やら火を起こしていた。
魔石!魔法!
ちゃんとファンタジー世界ご用達のアイテムがあって、何だか興奮した!
ジェイも魔法が使えるのかしら?聞いてみる。
「あ〜、俺は魔法は使えない。魔法使いは、また特別な能力だからな。俺はなろうと思えば誰でもなれる剣士だ」
「剣士ってカッコいいじゃん!私を助けてくれた時なんて、ヒーローに見えたもん」
「襲われてる人がいたら、助けられそうなら助けるよ」
顔を赤らめて言う。どうやらジェイは照れ屋さんのようだ。
イケメンはみんな自信過剰かと思っていたよ。
夕ご飯は、部活帰りに食べようと思っていた菓子パンふたつ。
太るぞ!なんて言わないで。育ち盛りなもんで……。
お昼にお弁当を食べたら、夕方にはお腹も空くって。たとえ午後の休憩の時にお菓子を食べようと。
メロンパンとチョコチップたっぷりのチョコパン。ジェイにどっちがいいか聞くと、
「何それ!見た事ない!」 と興奮したので、
「半分ずつにして、両方味見してみる?」 と聞いてみた。
ジェイは、ウンウン!!と大きくうなずく。期待大だ。
ふっふっふっ。しかしその期待は裏切らないと思うよ。
私は笑顔で、半分にちぎった二種類のパンを手渡した。
「いただきます」 と手を合わせる。
「ユア、何してるんだ?」
「私の国の、食べる前の……、あいさつみたいなもの?だよ」
「神様に感謝の祈りみたいなものか?」
「感謝だけど、神様じゃなくて……、食べ物と作ってくれた人に対して?」
「ふ〜ん。そっちの方がいいな!」
ジェイも手を合わせた。それから、
「うまっ!すっごい甘いな!こんなに甘いもの初めて食べた!」
大興奮であっという間に食べ終えて、残念そうな顔をしたのは笑えた。
メロンパンにチョコパン、これでしばらく食べられないかも……。
私もちょっと残念そうな顔になっていたかもしれない。
パンと沸かしたお湯を飲んで、夕ご飯終了。
川の水は一度沸騰させて煮沸消毒。川の水なんて初めて飲んだよ。