ユメ VS 刀ゾンビ
弱点…
あれから何分くらい逃げ回ってただろうか。
刀ゾンビ(逃げ回ってる時に命名)は相変わらず付かず離れず一定の距離を保ったまま追いかけて来る。
私も時々後ろを振り返り、ファイヤーボールを放っているが相変わらず効果は薄い様で刀ゾンビに簡単に斬られてしまう。
さっきからずっと走りっぱなしと魔法の使用で、私は体力的にも魔力的にも限界を感じ始めた。
「この角を曲がればすぐ」
私はようやく目的地に着いた。
そう‼︎さっきのコンビニに‼︎
このコンビニにある物が刀ゾンビ攻略に必要だった。なのでもう一度戻って来なければならなかったのだ。
急いで店内に入り先程ソレがあった棚に行く。ソレを手に取ったところで刀ゾンビと向かい合う。距離は3メートル程で左右には商品棚、ここで刀ゾンビと決着と付ける。
刀ゾンビは私が向き合ったことで立ち止まり刀を構える。ただ向き合っているだけだというのにプレッシャーが肌に突き刺さり今にでも後ろを振り返り逃げたい衝動に襲われる。
「死霊使いの私がゾンビに恐怖するなんてね…」
言葉にすると少しイラつく。そうだよ!なんで私がゾンビに臆する事になるんだ!死霊使いとして最強と言われたこの私が! 一瞬でも臆した自分が恥ずかしい。
私は手に持っていたソレを刀ゾンビに投げつける。
予想通り刀ゾンビは避けもせず刀で斬る。中身がゾンビ飛び散るが気にする様子もない。
その結果を見て私は、同じ棚から次々とソレを刀ゾンビに投げつける。商品棚からソレが無くなるまで投げつつけた結果、驚く事に刀ゾンビはソレを全部斬っていた。なんなら刀ゾンビに当たらない軌道のソレをも斬っていた。
もう終わりか?まるでそんな事を言っているかの様に刀ゾンビがゆっくりと歩き出した。
刀ゾンビを今まで観察していたが、このゾンビどうやら遊んでいるような感じだ。まるで親に初めて買ってもらった玩具を見せびらかす様なそんな印象だ。もっと刀ゾンビの事を観察して刀ゾンビを生み出した死霊使いのことを探りたかったが、今回はこれでお終いだ。
「ファイヤーボール」
今まで散々斬られてきた魔法を、近ずいて来る刀ゾンビに向かって放つ。結果は変わらずファイヤーボールは真っ二つに割れるが炎が消える前に、ほんの少しの火の粉が刀ゾンビの衣服に付着する。ただそれだけの事だが効果は絶大だった。
刀ゾンビの体は一瞬で炎に包まれたのだ。
私が今まで投げていたのは「お酒」だった。刀ゾンビは、私の攻撃を全て刀で斬ることで防いでいた。確かに攻撃全てを斬られてはこちらに打つすべが無いように思えたが、そこに奴の弱点があった。私が投げたお酒を刀ゾンビはわざわざ自分に当たらない物まで斬ったのだ。当然中身が刀ゾンビにかかり全身お酒まみれになっていた、お酒のアルコール度数で火が付くかは多少気掛かりではあったけど結果は大成功。
刀ゾンビにも火はやはり有効だったみたいだ。持っていた刀を落とし倒れた。
もう動かなくなった事を確認して、ATMの横にあった消火器で火を消す。ファイヤーボールだけだったら火は勝手に消えていたがお酒を足したことで魔法の効果が失った後も燃え続けてしまう。消防も機能してない今、火事が起きたら大変な事になるだろう。
火の後始末も終わり私は、刀ゾンビが持っていた刀を拾う。刀ゾンビと一緒に燃えていたが持ち手も刀身も不気味な程、綺麗な状態を保っていた。
「この刀が異常なのか、刀ゾンビが異常なのか…」
私はふと刀の性能を試したくなった。
使い終わった消火器に向かい合い、私は刀を構える。
「はぁ!」
私は立てていた消火器に刀を横に振るう。
ヒュンッ!と風を斬る音と共に私が振るった刀は消火器を通り抜けていた。豆腐でも斬っているかの様な感触で硬い消火器を斬ったのだ。
「魔力を…吸われた?」
消火器を斬った瞬間少しだけだがこの刀は魔力をまとっていた。前世でも武器にエンチャントはあったが所有者から魔力を吸い取るものは無かった。そしてこの刀は微量だが私の魔力を吸い斬れ味を増していた。
前世の知識に無かった武器、そしてそれを扱うゾンビ、謎がまた増えたが今回はこの刀が手に入って事で満足する事にした。
この刀魔力を使うがほんの少しだけで、ファイヤーボールを使うよりも遥かに魔力の温存になる。刀ゾンビが腰にさしていた鞘を拾い(鞘は焦げていた)刀を鞘に納める。
コンビニを後にした私は、次の目的地に向かい歩き出した。
………時間は遡り
「お前また有村ちゃん誘ったの?もう何回目だよ有村ちゃんに断られたの」
「いや断られてないから、今回はまだ行かないとは言われて言われてないから」
俺の名前、虹村 幸助この物語のモブだ。
なぜ俺がモブかって?おいおい悲しい事聞くなよ…まあいい教えてやるよ…俺がこの世界でモブな最大な理由を!
それは、俺の親友の黒瀬 歩が原因だ。この男ラノベの主人公並みのハーレム野郎だ…タイトルを付けるなら「俺が好きなのは幼馴染だけどハーレムがそれを許さない」って所だろうか。そして俺は主人公の友人ポジ。まあモブだろ?
「有村さんが断ったのならアタシが一緒に行ってあげようか?た、たまたまアタシも放課後空いてて映画でもって思ってたから、歩君が行きたいなら一緒にいくよ」
「ずるい!わたしも黒瀬と一緒に行きたい!」
「ウチも先輩といきたいですー」
ほらまたハーレム候補達がいつのまにか歩の周りに現れた。
俺はそっと席を離れ空気を読む。こういう行為がモブの俺に出来る主人公を引き立たせる精一杯の努力だ。
いつも通りの光景、こんな毎日がずっと続くと思っていた。だがそんな日常は簡単に崩れ落ちる。
それは5時限目の授業を受けていた事の話だ。
ジリリリリリリリリー
突如、非常ベルが鳴り出した。少し教室内は騒ついていたが、先生の指示で廊下に出る。他のクラスも同様に廊下へ出ていた。
「委員長はこのままみんなを体育館へ、先生は事実確認のため職員室に行ってくる」
先生はそのまま職員室へ向かっていった。
「はい、みんなー今の聞いてたでしょー出席番号順に並んでー」
こういう時にふざける奴が一人はいそうなもんだが、うちのクラスは真面目で言う通りに動き出す。
俺は一人そわそわしている親友に話しかけた。
「おい、歩!どうせココにいない有村ちゃんの事が気になるんだろ?委員長には上手く誤魔化しておくから探しに行って来いよ」
歩は少し驚いていた表情をしていた。
「ありがとな!今度学食奢るわ!」
そう言って反対方向へ走って行った。歩の後を何人かの女子達が追いかけて行くのが見えた。
( やれやれ委員長に怒られる要素がまた増えたな…まあ実際のところ有村ちゃんなら大丈夫だろうけど歩も心配性だな)
俺の見立てでは今回の非常ベルは悪戯だろう。先生もその可能性を追ってたから職員室に向かった筈だ。火災とかなら少なくとも煙くらいは見えるはずだしな。それに学年1位の成績と女子でもトップクラスの運動能力を持っている有村ちゃんなら、本当に火事だったとしても臨機応変に対処できそうだ。
体育館に避難しているのは、俺らの学年だけでなく全校生徒全員な訳で俺らのクラスは階段で立ち止まっていた。
初めは真面目にしていたクラスの連中も次第に私語が多くなる。俺はと言うと
「また黒瀬君ですか…そして貴方も黒瀬君を止めずに見送ったと…」
「いだだだたっ委員長!話を聞いてくれ、俺は止めたんだ!でも歩の奴がどうしてもって言うから」
「あら?私にはむしろ貴方が黒瀬君の背中を押していた様に見えたんだけど見間違いだったのかしら〜」
委員長のアイアンクローを食らいながらも必死に弁解していた…弁解に失敗していた。
「はぁーまあいいわ、どうせ有村さんを探しにでも行っているのでしょう?私も有村さんがいなかったのは気になっていたから」
ようやくアイアンクローから解放される。てか委員長に全てお見通しだったみたいだ。
「それよりも下の階がどんどん騒がしくなっているのはどう言うことかしら?」
アイアンクローのせいで聞こえてなかったが確かに下の方がどんどん騒がしくなっている。
「キャー!」
その悲鳴がきっかけで俺たちも異常自体に気ずく。そしてそれはパニックを起こす。集団の中で早く体育館にいこうとしようとする者とパニックでその場に止まる者更に上の階に行く者。みんなさっきの悲鳴で正常な判断ができなくなっているんだ。
下からは悲鳴が何度も聞こえてくる。
「上に逃げろ!」
下の階からはそんな声も聞こえてきた。下から上がってくる者と上の階から下がってくる者がぶつかり合い、集団で階段から落ちる。俺は手すりにつかまり落下は間逃れた。
「痛いよー」
何人もが重なり合う様に階段から落ちた為、何人かは手足がありない方向に曲がっていた。
俺は急いで助けに行こうとしたが足が止まった。
そこからは地獄の始まりだった。
意外と早く決着がついたのでモブ視点の話を挟んでおきました!え?いらないって?
そんな方の為に次回はもう少しだけモブ視点が続きます。
次回
モブと幼女⁉︎絶対見てくれよな!




