新種?
街の中は悲惨だった。そこら中に血が飛び散り生きている人間はおらず、すれ違うのは全部ゾンビだった。
途中何度もどこからか悲鳴が聞こえるが私は無視して家に向かう。小さい頃よりは魔力が上がっている私だが悲鳴が聞こえるたびに魔法を使って助けに行ってはすぐ魔力切れになってしまう。
悲惨を上げている者には悪いが私も自分の身を守らないといけない。
ようやく家に着き玄関を開ける。カギはかかっていなかった。この時間ならまだ家政婦の人がいる時間だがどうやらもう遅かったらしい。庭からリビングに繋がる窓が割れていて血の跡があった。
ゾンビはいないところを見ると私が来る大分前に家政婦さんは襲われてゾンビに転化したのだろう。
テレビが付きっぱなしになっており、ニュースが流れていた。
「…世界各地で起こっている暴動ですが、本日15時政府から原因不明の殺人ウイルスの仕業だという事が発表されました。政府は首都東京を捨て北海道、四国、九州に防衛ラインを築き本州を破棄することを宣言。既にほとんどの先進国が首都を捨て防衛ラインを築きあげ感染を防いでるとのことです。繰り返し報道します…」
どうやらニュースは録音されたものをずっと流しているようで同じことしか言わない。
「てか本州捨てるって1億人くらい見捨てるてことだよね?」
確かに感染を防ぐには、政府がやっていることが正解だと思う。だが決断が速すぎるようにも思える。そう始めから知っていたかのように…
私はテレビを消し2階にある自分の部屋に行く。
ベットに倒れこみ私はこれからのことを考える。
私の親はちょうど今二人とも四国の高知県にいるはずだ。お父さんのサスペンス小説がドラマ化し、それにお母さんが主演し撮影場所が高知だったはずだ。お父さんは作者として撮影現場に行った。
テレビの情報が真実なら両親は大丈夫だろう
「親の心配よりも私がこれからどう生きていくかだよなー」
まず、安全な寝床が最優先事項だろう。次に食料の確保かな。いくら私でも魔法でお腹は満たせないしできればゾンビ達が入ってこれないような家に住みたい。
カモフラージュの魔法で襲われないが24時間ずっと持たせるとなると魔力が足りない。私の計算では20時間ほどで魔力切れになるだろう。
魔力切れになると体が動かなくなるので魔力切れにならないよう15時間くらいでカモフラージュを切るとしても9時間の間、私はゾンビに認識されるようになる。
魔法を使わなくても安心できる安全な場所を何とか確保したいところだ。
とりあえず、今日の所は家で寝よう。
そう決めると私は立ち上がり1階に降り冷蔵庫を開ける。さっきまでは電気が通っていたのだが冷蔵庫から音がしないところをみると停電していた。冷蔵庫の中身は今朝の残り物の野菜炒めと生卵3個それと2リットルの水、それだけしかなかった。
元々、外食か出前ばっかりの生活だったので冷蔵庫の中は少ない。今朝はたまたま腐りかけだった野菜を見つけたので私が軽く作った野菜炒めだけがあった。
野菜炒めをレンジで温めようとするが停電している事を忘れていてボタンを押したところで思い出す。
「はあー、私も大分この世界に馴染んだなー」
仕方がないのでそのまま野菜炒めを食べる、おいしいとは言えないが食べないよりはマシだろう。
野菜炒めを食べ終わった後、家の中をあさり何とか3日分の食料(カップ麵)を確保する。
その後自分部屋に戻りドアにカギをかけベットをドアの前に移動させてドアが開かないようにする。
流石にここまですれば寝ている間にゾンビに襲われる事はないし襲われる前に気づけるだろう。私はカモフラージュの魔法を解き眠りについた。
......
まだ太陽も昇ってない時間に私は目が覚めた。ベットを元の位置に戻し部屋から出る。
ガスも使えないのでお湯もわかせない。仕方がないので水をカップ麺い入れ食べた。
私はお父さんの書斎からこの辺り一帯の地図をを取り出し広げる。
この辺りの地形は把握しているつもりだが拠点を探すと言う点で地図は大切だろう。
「今日はとりあず金剛院パークに行こうかな」
金剛院パークとは私の学校に在籍する金剛院 麗子先輩の実家が経営している施設だ。金剛院パークはその名前を除けば完璧な施設だ。
ショッピングモールに水族館や動物園に遊園地、ありとあらゆる物を詰め込んだんだ日本最大級のレジャー施設でもあり年間の来場者数は5千万人を超えるとか。
私も、歩に何度か連れて行かれその度に修羅場に巻き込まれた。ちなみに金剛院麗子も歩のハーレムの一人だ。
ともあれ金剛院パークなら何でもある。食料も山ほどあるだろうし必要な道具も集まるだろう。
私は、お父さんの登山用リュックに食料と水、着替えを詰め家を出る。
もう日が出てきており外は明るかった。ゾンビは今のところ見かけない。恐らく逃げた人たちを追いかけて行ったのだろう。頭が回る人なら昨日の時点で空港に向かうはずだ。北海道、四国、九州はいずれも陸路で行くには遠すぎる。安全な空から行くのが一番の得策だからだ。
一度もゾンビと出会わず金剛院パークに着いた。
「なるほど、いくら何でもゾンビがいないなんてことがあるのか?と思ったけどここにいたのね」
フェンス越しに見る金剛院パークは、何万を超えるゾンビ達が覆っていた。
「これはもしかしてだけどみんな金剛院パークに逃げたの?うわーまじかー」
恐らく昨日の時点で私と同じ考えをもった人達がゾンビ達を連れて逃げ込んだろう。
私は頭を抱える。一通り金剛院パークの外周を見て回ってみたが入れる隙間がなかった。
私の魔法カモフラージュはゾンビに触れられると効果をなくしてしまう。つまり金剛院パークを覆いつくすように隙間なくいるゾンビ達の間を縫って金剛院パークの中にはいるのは難しい。
(仕方がない、金剛院パークは諦めてスーパーとかホームセンターに行こう)
私は金剛院パークに背負向けて歩き出す。
少し離れた所にコンビニがあった。自動ドアは開いており、中を見ると荒れていた。
「うわー食料とか残ってると思ったけどあんまないじゃん」
店内のモノは少なくあまり残っていなかった。残っているのは日用品やお酒くらいだった。
(前世ならお酒で喜べたんだけどな…まだゾンビが派生して一日しかたってないのに少なすぎでしょ……)
疑問は残るが考えていても仕方がないので外に出る。
「た…たすけて」
外を出たところで小さな声が聞こえた。ちょうどコンビニの角で向こう側は見えないが確かに聞こえた。
厄介ごとになるのは確かだろうし私は無視することにして、反対方向に歩き出す。
15メートルほど離れた所でやはり気になり、後ろを振り返る。
それは異世界で生きていた私にとっても異様な光景だった。
女性の髪を掴んで引きずりながら刀を持ったゾンビが角から歩いて出てきていたのだ。
「...」
私が息を吞んでいると女性と私の目が合う。
「にげ…て」
私を見て「助けて」ではなく「逃げて」だなんて。私はさっきほどは見捨てようとしたことが恥ずかしくなった。
女性は見たと事まだ噛まれているところもなさそうだし、助けることに決めた。
そうと決まれば私はゾンビを観察する。この刀を持つゾンビは私が知っているゾンビのどれでもない新種だ。
そもそもゾンビは武器を持てない。いや持つことは出来るが扱うことができない、なぜなら知能が低いからだ。だがこのゾンビが刀をただ持っているだけなのに凄いプレッシャーを感じる。明らかに他のゾンビと格が違う。
未だに女性の髪を掴んでいるゾンビが私を見る。
私は今カモフラージュの魔法を使ってゾンビに認識されるはずがないのに、確かに私をこのゾンビは視界に捉えている。
私はいつでも魔法を打てる姿勢をとる。
ゾンビもそれに反応したのか動きだす、それはあまりにも一瞬で私はどうすることもできなかった。
「ダメー!」
ゾンビが女性の髪を放したと思うと女性の首を斬り落としていたのだ。頭を失った女性の体は糸が切れた人形の様に地面に崩れもう動かない。
刀を振り下ろしたゾンビがニタァーと歯を出して笑う。
「っ!ファイヤーボール‼」
私の放ったファイヤーボールは真っ直ぐ刀を持つゾンビに向かっていた。大人一人を飲み込むほどの火の玉、ゾンビは避けることもせず直撃した…ように見えた。
瞬間、ファイヤーボールは真っ二つに割れ効力を失い消えた。
「ま、魔法斬った?」
前の世界でもありえない芸当に私の思考が止まる。
立ち止まった私に今度はゾンビがゆっくりと私の方に近ずいて来る。
(どうする。魔法はファイヤーボールだけじゃないけど余り魔法を使いすぎても今後が不安、出来るだけ魔力を温存して倒したいけど…)
私は、ゾンビ背を向け走り出した。とにかくこのゾンビと距離をとらないと、あの刀の間合いに入ると武器を持たない私はひとたまりもないだろう。
走りながら後ろを振り返るとある程度の距離を保ちつつゾンビが追いかけてきていた。その顔はやはり笑っており、まるで狩を楽しんでいるかの様だった。
私は、走りながら何か使えるモノがないか探していた。すると都合よく金属バットが道端に転がっていたので拾って角に隠れた。
角に逃げた私を追ってゾンビに不意打ちで金属バットを振り下ろす。
「やぁー!」
確かにゾンビの頭を捕らえていたと思ったが、私の渾身の一撃は空を切る。
(外した⁉︎)
再びバットを構えようとしたところで私は自分の勘違いに気づく。私が持っていたバットはゾンビの刀によって斬られていた。
急いで回れ右をして全力疾走で逃げる。
(いやいや、意味不明でしょ!魔法を斬ったり金属バットを斬ったりチートじゃん!んーでも今のでアイツの弱点はわかった!後はこのゾンビをあそこまで誘導できれば勝機はある‼︎)
弱点あるのだろうか…頑張って考えます…